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第七十五話 異世界を生む異世界

第七十五話 異世界を生む異世界


 キメラを探しに訪れた異世界で、以前私の窮地を救ってくれたお姉さんと、偶然再会した。向こうは私のことを忘れているようだったが、すぐに思い出してもらえた。


 近くにあった切り株に腰かけて、しばし話し込むことになった。


「あれから無事に帰れたか? 君は危険な目に遭いやすい顔をしている」


「お姉さんのおかげで、ぴんぴんしてますよ。危ない目にも遭っていません!」


 本当は、いろいろと危険な目に遭っているけど、嘘をついてしまった。追及されて、詳しく説明するのも、面倒だしね。


「危ない目にも遭っていないか……。自分からこんな危ないところに来ている子がいっても、説得力がないな」


 あらら、見抜かれていましたか。お姉さんには嘘をついても、無駄なようね。


「早く家に戻ると良い。ここは柄の悪い連中が多い。女の子が一人で歩くところじゃない」


 そんなことを言ったら、あなただって、年頃の女性だから、危ないと思いますよ。黒い霧がある限り、大抵の暴漢は撃退できると思いますけどね。


「すいません。私は目的があって、異世界を回っているんです。だから、心配してもらえるのは嬉しいですけど、危ない真似を止めることは、それまでありません」


「目的……」


 この人に嘘をついても無駄なのだとしたら、もう正直に言ってしまうことにした。


「それはどんな目的なんだ? 差し支えなければ、教えてくれないか?」


「キメラってやつを探しているんです」


「キメラ……」


 女性は噛みしめるように、キメラの名前を呟いた。ひょっとして、お姉さんもキメラと因縁めいたものがあるのかしら。


 ピリリリ……。


 私の携帯電話が鳴った。真面目な話をしているところだったので、ちょっとビックリしてしまった。


 お姉さんとの会話に割り込まれて、多少不機嫌になって携帯電話を手に取ると、牛尾さんからだった。


「よお、今暇か?」


 暇じゃないです。今、真面目な話をしていたんですから、電話は切りますよ。そう伝えようとしたのだが、牛尾さんが話し出すのが早かった。


「キメラと関係があるかは分からないが、突然暴走を始めた世界があるんだ」


「えっ、それって、どの異世界ですか?」


「百聞は一見にしかずだ。説明するから、私のところまでこれから来い」


 私が返事をする前に、電話は切れてしまった。用件を言い終えたら、すぐ切ってしまう。いつもながら、強引なことだが、今回は気にならなかった。それよりも、電話の内容が気になっていた。


 異世界の一つが暴走を始めた……? せっかくグラコスの件が片づいたばかりだっていうのに、今度は何が起ころうとしているのよ?


「どうかしたの?」


 突然幼い少女の声で話しかけられたので、辺りを見回してしまったが、どうやらお姉さんが話しかけてきたようだ。……何かいきなり声色が変わったけど、気のせいかしら。


「えっと……、すいません。急用が入っちゃいまして……」


「急用か~。それじゃ仕方がないね。あたしなんか放っておいて、早く行くといいよ」


 やっぱり気のせいじゃない。話し方がいきなり幼くなっている。とはいえ、そのことについて、突っ込むのはためらわれた。


 とりあえず牛尾さんのところに向かうことにした。あの人、待たせるとうるさそうだし。


 後ろ髪を引かれる思いで、お姉さんに別れを告げて、立ち去ることにした。そこで、お姉さんの名前をまだ聞いていないことを思い出した。


「あの……。私、百木真白って言いますけど、お姉さんのお名前は? 差支えなければ、教えていただけませんか?」


「私の名前? 怒木いかるぎだよ!」


 怒木……。変わった名前ね。おっと! こんなことを考えちゃ失礼ね。


 まだ切り株に座っている怒木さんに手を振って、私は現実世界へと戻った。


「そっかー。今のが百木真白っていうのかー! しかも、キメラ様に刃向う気満々だし、次会ったら潰しちゃおうかな~?」


「……止せ。あいつに関わるな」


 一人になった怒木さんは声色を変えながら、ぶつぶつと独り言を繰り返していた。ちょっと変わった人なのかもしれない。




 お姉さんと別れると、私は早速牛尾さんの元へと走った。


「異世界が暴走しているって、どういうことですか?」


 ドアを開けて、牛尾さんの姿を確認するなり、まくしたてるように話しかけた。私が噛みつくような勢いで、迫るのは予想済みだったらしく、牛尾さんは澄ました顔で説明を始めてくれた。


「最初から設定されていた世界の一つで、急に暴走が始まったんだ」


「暴走って、どんな風に?」


 牛尾さんに顔をグイと近づけて質問する私に、わずかに顔をしかめながらも、答えてくれた。


「聞いて驚け。異世界を作り出したんだ!」


「なっ……!」


「ああ、これだけじゃ何を言っているのか、意味不明だな。異世界が、別の異世界を生み出し始めたんだよ」


「そんなことって、あるんですか?」


「少なくとも、そんな設定は聞いていないな。こっちにとっても、全くのイレギュラーな事態だ。だから、暴走したと判断した」


 新しい異世界が誕生しているって、また増えるの!?


「この世界は元々公式の世界ということで、ライフピアスがたくさん出回っていたみたいでな。既に野次馬が大挙して押し寄せている。後出しじゃんけんの感が否めないが、行ってみるか?」


 あまり気は乗らないけど、私は首を縦に振った。この件に、キメラが関与している可能性は十分にあるのだ。というか、公式が関わっていない異常事態の原因は、全てあいつが裏で糸を引いているとすら、思っている。行かない訳にはいくまい。


 十分もしない内に、私たちは問題の異世界に降り立っていた。


「のどかな世界だな。見ろよ、牛がのどかに歩いているぞ。天気も良いし、大の字になって、寝転がったら、さぞ気持ちいいだろうな」


「そうですね。あれがなければ、さぞ熟睡できるでしょうね」


 牧場のど真ん中に陣取るように、巨大なチューリップが咲いていた。東京ドームで表すと、何個分になるかしら。


「あれが暴走の原因だ。今朝になって、いきなりあそこに出現した。景観破壊も甚だしいな」


「ということは、あの花が異世界を生み出しているんですか? 想像できないですね。巨大蜂が飛んでくるなら、分かりますけど」


 それもそれで怖いか……。花の周りには、確かに野次馬らしき人間が何人か見えた。好奇心旺盛で、花を触ったり、よじ登ろうとしたりする者までいた。


 一見、されるがままに見えた花だが、花の部分が突如動いたのだ。人間で例えるなら、気持ち悪くなって、何かを吐き出すようだ。


 そう思っていたら、球体のようなものを吐きだした。一斉に驚嘆の声を上げる野次馬に混じって、吐きだされた球体を興味深そうに見つめていた。


 それはシャボン玉のようにフワフワと上空を漂い始めた。


「今、吐きだしたのが新しい異世界だ」


「わあ、かわいい! ……ずいぶん小さいですね」


 あれじゃ、人は入れそうにないわね。コンパクトサイズの異世界というのも、ユニークで面白いけど。


「異世界はまだ完成していない。これから成長するからじっと見ていろ」


 さしずめ、あれは異世界の赤ちゃんといったところかしら。サイズだけ見れば、ピッタリの表現かもね。あまり可愛くないけど。


 笑いを堪えながら、見ていると、異世界がどんどん広がり始めた。結構な勢いで膨らんでいる。どこまで拡大するのだろうか。


 呆気にとられて、膨らんでいく異世界を見ていると、野次馬たちから、また声が上がった。見ると、上空を指差して叫んでいる。


 指差した先を見ると、空間にひびが入っていた。この光景は見たことがある。キメラの世界に行く時と似ている。確か、この後、ひびが割れていって、その先に真っ黒な空間が広がるのよね。


 私の推測通り、空間が裂けて、その割れ目から、黒い空間が見えた。あの向こう側に行けば、キメラの世界にまた行くことが出来るのかしらと考えていると、そこに生まれたばかりの異世界が吸いこまれてしまった。


「あっ……、飲み込まれちゃった」


「自分から入っていったようにも見えるけどな」


「! 自分からって、異世界に意志があるみたいに言いますね」


「私だって、信じたくはないが、これだけ滅茶苦茶やられれば、そんなことがあってもおかしくない気がしてくるんだよ」


 ……確かに。このところ、何でもアリだものね。


 変なところで納得する私たちの前で、不思議な現象はまだ続いていた。


寒さに慣れてきたのか、暖房を使わない時間が徐々に増えてきました。

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