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第七十二話 ミサイルで突き抜けろ

第七十二話 ミサイルで突き抜けろ


 燃え盛る廃ビルの外で、私たちは異世界から来た化け物、グラコスとの対決に望んでいた。


 グラコスを散々挑発して、やつを引き付けていた喜熨斗さんが、バイクの向きを変えて、向かい合う。かと思ったら、そのまま直進し始めた。そのまま進むと、グラコスと正面衝突しちゃいますよ?


 スピードの減速をした方が良いと思うんだが、喜熨斗さんは逆に速度を上げて、グラコスに突っ込んでいく。


 大胆すぎる行動に、側で見ている私の心拍数も急上昇していく。


「止めなくて、良いんですか? このままだと正面衝突しちゃいますよ」


「まあ、見てなって」


 私が慌てているのが馬鹿馬鹿しくなるくらい、月島さんは落ち着き払っていた。余裕の表れなのか、二本目の煙草に火を付けている。


 予想としては、この後、本当に正面衝突するんだけど、喜熨斗さんだけは抜群の運動神経で、衝突の瞬間に、バイクから飛び跳ねて難を逃れる。バイクの直撃を受けたグラコスだけがジエンド。うん、我ながら、物騒なことを考えているわね。


 私の予想を裏付けるように、あと少しで喜熨斗さんとグラコスが激突する。……瞬間に、両者が避けた。


 やはり衝突は怖いものね。惨事を覚悟していた私は、思わず息を吐いた。……ところで、喜熨斗さんがどこに仕込んでいたのか、鉄の棒を振り上げ、すれ違いざまにグラコスを殴打した。


 気持ちがいい音が周囲に響いた。さすがのグラコスも、相当効いたみたいで、体を前のめりに、ぐらつかせていた。


 この光景、見たことある。確かドキュメンタリー番組で、改造バイクで法定速度を超過するスピードで乗り回し、敵対する不良に向かって、鉄パイプを振りおろす映像だった。その光景の完璧なまでの再現じゃない。


「あの……、警察があんな行為を見過ごしていいんですか? しかも、喜熨斗さん。ノーヘルですよね」


「まあ……、異常事態だし」


 見過ごす気満々ということね。月島さんの制止がないのを良いことに、喜熨斗さんは次の行動に移った。


「次はこいつだ」


 嬉々とした表情で、今度は鎖を取り出した。


 片手でハンドルをさばいて、バイクの向きを修正して、鎖を振り回しながら、またグラコスに接近した。


 正面衝突するか、しないかの際どいタイミングで、グラコスを躱し、その際に、やつの首に鎖を巻きつけた。


「てめえはどんな音色で泣くんだろうなあ?」


 サド全開の顔で、バイクの速度をぐんぐん上げながら、自分の首に巻きつけられた鎖を手に、呆気にとられているグラコスを楽しげに観察していた。


 喜熨斗さんって……、絶対にやばい人だ……。怒らせちゃいけない類の人だ……。今頃になって、震えが来たわ。


 鎖が伸びきると、グラコスがバイクに引きずられていく。ようやく鎖の意味に気付いて、外そうとしているが、もう時すでに遅し。鎖はしっかり絡まっていて、ほどけそうにない。


「溶かそうとしても、無駄だぜ? その鎖は耐熱使用の特別性だ。てめえのために、作らせた特注品だ~!」


 グラコスは鎖をほどくのに夢中で、喜熨斗さんの話を聞いている場合ではないようだが、それでも満足そうだった。


「あの鎖を作ったのって、牛尾さんですか?」


「そう。よく分かったね」


「何となく……」


 あんな物騒なものを作るのは、彼女くらいのものだろう。


 しかし、苦しむグラコスを見ていると、さっきまで殺されかけていたのに、可愛そうに思えてしまう。せめて、もう少し楽に殺す方法はなかったものか。


 そんな哀愁の念に囚われていると、グラコスの首が、すぽんと外れてしまった。


「首が……。首が外れた~~!!」


 化け物とはいえ、骨だけの体。力任せにグイグイ引っ張る力に耐えきれなかったというの!?


 出血はなかったが、ちょっとグロテスクな光景に、耐え切れずに叫んでしまった。


「あわわわ……」


「真白ちゃん、大丈夫?」


 大丈夫じゃないです。ていうか、心配するくらいなら、私をこの場から早急に離してください。


 凄惨な光景の連続に、空いた口が塞がらない。だが、メインディッシュはまだまだこれからだった。


「おい! 月島。こいつまだ生きているぞ。本当にしぶといな」


 首と体を分離させられても、グラコスは驚異的な生命力を発揮して、命をつないでいた。


「仕方がない。アレを使うか」


 月島さんは煙草の火を消すと、どこかに電話をしていた。


 増援でも頼むつもりなのかと思っていたら、向こうの空から、爆音が聞こえてきた。


 何事かと思っていると、ミサイルがこっちに向かって飛んできていた。


「あ、あれは……」


 事情を聴きたかったが、話は後だと、小桜と一緒に、月島さんに抱きかかえられて、その場から全力で離れた。


 少しの静寂の後、グラコスにミサイルが直撃した。


「くくく……、いつ見ても、この花火は最高だなあ」


 同じく避難してきた喜熨斗さんが、ミサイルが落ちたところを楽しげに見つめている。


「月島さん。あれは何ですか……」


「サンタさんからのプレゼント」


 思わず爆笑してしまった。月島さんも、私に釣られて大笑いした。


 一通り笑ったところで、一言。


「何でよっ!?」


 ここが人のあまり訪れない町外れの廃ビルだからといって、ミサイルはないでしょう。どこまでぶっ飛んでいるのよ。


「向こうで、人が入ってこないように、警官たちがバリケードを敷いていますけど、このためですか? というか、ミサイルはないでしょう。せめてナパーム弾でしょ!!」


「どっちもどっちの気がするけど」


「ミサイルを、どこの組織に撃たせたんですか? 月島さんの権限だけじゃ、どうしようもないですよね。ひょっとして、おじいちゃんの力が働いているんですか?」


 おじいちゃんも、普段は温厚なのに、血の気が多いところがあるからな。やりかねない……。


「分かった。正直に言うよ。俺の知り合いがいる秘密の組織Xに頼んで撃って……」


「それ、自衛隊? 米軍? ミサイルを保有できる組織なんて、相当限られますよ!?」


 何よ、組織Xって!? いくら月島さんといっても、今回は無茶し過ぎだろ。マスコミに嗅ぎつけられたら、知らないじゃ通らないわよ!?


「まあ、そう言うなよ。おかげで化け物が退治できたんだから、結果オーライじゃないか」


 私たちの横で、喜熨斗さんが一服をしながら口を開いた。思えば、この人も結構無茶をしていたのよね。


「喜熨斗さんもさっき相当無茶をしていましたよね。グラコスに真正面から突っ込んでいったときなんて、ぶつかると思いましたよ」


「んな訳ねえだろ。このバイクでどれだけ走ってきたと思っているんだ」


 その割には、ずいぶん乱雑に扱っているようですけど。それがこの人なりの愛情表現というやつだとでもいうのかしら。


「とにかく! これだけ派手にやれば、あいつも生きてはいないだろう。都市伝説、テケテケの惨劇もここに終了と!」


「上の人には、どう報告するんですか?」


 何か月島さんたちのハチャメチャぶりに圧倒されてしまい、喜びが吹っ飛んでしまった。まあ、でも、グラコスの息の音が止まったのは、間違いないわね。結果だけ見れば、万事OKかしら。


 そうよね。いくらグラコスでも、ここまで痛めつければ、もう……。


 そう安堵しかけたところで、息が凍りついた。ミサイルが撃ち込まれた場所で、黒煙の中から、こちらにすり寄って来る者の影があったのだ。


 ……嘘でしょ?


今年の投稿はこれで最後になります。来年は元旦から投稿していきますので、これからもご愛読をお願いします。

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