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第六十一話 審判の時……!

第六十一話 審判の時……!


 御楽がお兄さんに突き付けていたのは、新しく生み出した能力を、この世界で試し撃ちすることだった。


 試し撃ちだけなら、自分たちの世界でやればいいじゃないかと思いそうだが、威力があり過ぎて、異世界を破壊しかねないのだという。だからって、人の異世界でやるなよという話だけどね。


 とにかく、なかなか首を縦に振らないお兄さんに業を煮やした御楽は、勝手に試し撃ちさせてもらうと宣言して、本当に能力を解放してしまった。能力名は『最終審判』というらしいわね。


「『最終審判』……?」


 昔の偉い画家さんが描いた絵に、同じタイトルの物があったと思う。今、御楽が使おうとしている能力とは、それくらいしか共通点を感じないけど。


 能力解放と同時に、御楽の右手から噴き出した黒い泡は、どんどん広がっていく。ゴポゴポという音が聞こえてきそうだ。


「瑠花! 私の後ろから出ちゃ駄目よ!」


「お、おお……!」


 御楽から、瑠花を守るように立った。もし、『スピアレイン』の時と同じように、瑠花の黄色のピアスを壊されたら、アーミーのように消滅してしまうのだ。こんなことで親友を失いたくない。


「親友の前に立ったか。俺が能力を使うのを警戒しているみたいだね。その考えは概ね正しい」


 御楽が私の行動を賛美している最中にも、黒い泡はどんどん広がり、そして、真っ黒い髑髏のようなものを形作った。


 そして、そのまま髑髏だけで鎌の形を形成した。ここまでのことを整理すると、右手から黒い泡が噴き出して、それが黒い髑髏に変わって、複数に増えたところで、髑髏同士で鎌の形を作ったというところかしら。


「じゃあ、始めようか……。能力の試し撃ち」


 買ってもらったばかりのおもちゃで遊ぶ子供のように、浮き浮きした声で御楽が話した。右手からは、もう黒い泡は出ていなかった。


「この能力はね。異世界を無にする力があるんだよ」


 異世界を無に……。つまり、破壊するということなの?


「ふざけるな! 俺は使っていいなんて、一言も言ってないぞ!!」


「だから、言っているだろ。勝手に使うって」


 鎌の形を形成する髑髏の群れが、少し笑った気がした。


「貴様! そこで何をしている!!」


 いきなり叫ばれて驚いていると、兵士が一人こっちに向かってきた。すぐに御楽に気付いて槍を構えた。


「何だ、怪しいやつめ。成敗してくれる!」


「止せ! そいつに手を出すな!」


 お兄さんが止めるが、兵士は聞く耳を持たずに、御楽に襲いかかった。


「わざわざ自分から死にに来るなんて、ご苦労なことだね」


 兵士が突っ込んでくるのに、御楽はまゆ一つ動かさずに、冷静に語る。そのまま、髑髏の鎌を振り回し、兵士を一刀両断した。


「あ、あ、うああああ……!?」


 鎌を振り下ろされた兵士は絶叫を上げた。横で見ている私たちも叫び声を上げそうになった。


 切られたところから、徐々に黒く変色していき、全身が真っ黒になってしまった。そして、そのまま薄くなっていき、存在が消滅してしまった。


「し、死んだの? それともどこかに運ばれたの?」


「死んだよ。正確には消滅した、だけど」


 こともなげに言い切った御楽に、ゾッとするものがあった。


 でも、ゾッとしたのはそれだけじゃなかった。髑髏が動いていたのだ。まるで何かを咀嚼するように。


「まさか……、この空間を食べているの?」


「そうだよ。こいつらは悪食なんだ。空間さえも食べてしまう」


 いやいや、空間まで食べるなんて。もう悪食の域を超えているわ。


 御楽が鎌を勢いよく振り回すと、まるでそれに呼応しているかのように、髑髏が空間を食べる速度が上がった。


「この調子でしばらく破壊活動をさせてもらうよ。何、気が済んだら、止めるから。この世界が完全に消滅する前に止めるつもりだから、安心して。規模は小さくなるけど、今までと同じように使えるから、問題もないしね」


 軽やかな足取りで私たちの前から歩き去ろうとする。能力が発動した以上、もう話すことはないらしい。


 ……ちょっと待ちなさいよ。まだ私の話が終わってないわ。


 御楽に掴みかかろうと前に出たが、お兄さんの方が一瞬早く、向かって行った。


「止めろ……」


 お兄さんの横に、巨大な剣が出現した。神様ピアスの力で生み出したのだろう。それを手に取って、御楽に襲いかかろうとする。


 だが、そこまで……。剣の刃が御楽をとらえる前に、消滅してしまった。


「く……!」


「悪いけどさ……。神様ピアスの力も無効に出来るんだよね」


 あまり面白くなさそうに御楽が呟いた。こんなことくらい理解してくれよという呆れも含まれているのだろう。


「まあ、攻撃は届かなかったけどさ。俺に攻撃を加えてきた勇気は評価してあげるよ。昨日は少し脅しただけで、震えあがっていたのにな。人間、ここまで短期間で変われるものなんだね」


「まだだ! 無効にされるんなら、神様ピアスは使わない。直接掴んでやる!」


 御楽の蛮行を止めようと、お兄さんはさらに前に出た。無駄な足掻きだということは、本人が一番分かっているに違いない。それでも黙っていることが出来ないのだろう。


 ……何か、昨日の私を見ているようね。


 お兄さんと、昨日の自分の姿を重ねている内に、自分がいかに無謀なことをしていたのかを痛感した。


「何のつもりだ!?」


 御楽に襲いかかろうとするお兄さんを掴んで、自制を求めた。


「駄目よ。あいつに向かっていったら。ここは逃げるの。現実世界に撤退するのよ。瑠花もお兄さんを止めるのを手伝って」


 私が御楽に刃向わない選択を取ったことでホッとしたのか、瑠花は率先して、お兄さんの体を掴んでくれた。


「君だって、あいつらのことを面白く思ってないんじゃないのか!?」


 二人に体の自由を奪われて、お兄さんは拘束を解こうと、身もだえしながら、抗議してきた。


「頭を冷やしたのよ。改めて見たけど、あの系列の能力はまずいわ。決して正面から挑んではいけない」


「うん、真白ちゃんはよく分かっているね。そうだよ、この能力に刃向っても無駄。返り討ちに遭うだけさ」


 自分に刃向っても無駄ではなく、能力に逆らっても無駄という当たりから、御楽が力に溺れていないことが分かる。これじゃ、自滅を狙うことも出来やしないわ。


「話は変わるけど、昨日見せた『スピアレイン』や、今お披露目している『最終審判』、これと同等の力を持った数々の能力……。それらをどう括るか、仲間内で軽い議論になっているんだよね」


 ハッキリ言って、どんな名前で括られるかなど、興味ないが、『スピアレイン』や『最終審判』に匹敵する能力がまだあることは聞き捨てならない。


「魔王並みに厄介な能力の数々……。決めた! 今開発中のキーパーすら攻撃できる威力の高い能力の一覧を、「魔王シリーズ」という名で括ってしまおう」


 「魔王シリーズ」……。ネーミングセンスはともかく、絶対に使ってほしくない能力であることは間違いないわね。


「お兄さん、あの鎌で攻撃される前に、ログアウトするわよ。まだ神様ピアスは無傷なんでしょ?」


 お兄さんは納得できないようだったが、神様ピアスさえ無事なら、後でいくらでも修復がきく。対抗手段がないのなら、さっさと逃げるのが吉だ。


「この世界から退くようだね。猪突猛進の君にしてはめずらしいけど、その判断は大正解だ」


 御楽なんかに褒められても嬉しくないが、やっぱり私の選択は正しい様子。ほら! 三対一よ、お兄さんも賛成して!


「分かったよ……」


 もし、私の意見を聞いてくれないようなら、無理やり耳から神様ピアスを外してでも、ログアウトさせるつもりだった。だが、吐き捨てるように、悔しさを押し殺しながらも、お兄さんはログアウトに同意してくれた。


 よし! そうと決まれば、さっさと現実世界に戻っちゃいましょう。


 三人とも、各々の耳からピアスを外して、この世界からのログアウトを実行した。途端に周りの景色がぼやけだして、現実世界へと戻っていることが実感できる。御楽はまだ話を続けていた。


「ああ、そうだ。捨て台詞の代わりに教えてあげるよ」


 捨て台詞は負けた方がするもので、今回の場合は私たちの方がするものなのだが、御楽はとにかく私たちに伝えたいことがあるようだ。


「現実世界に呼び出したのはお姫様だけじゃないよ」


「何ですって?」


 懸念事項の一つだったことだ。現実世界で騒ぎが起こっていなかったことから、ひょっとすると、連れてこられたのはティアラだけかなと思い始めていたところに、衝撃情報だ。


「とっても厄介なやつも一体送り込んだ。お姫様と違って、困惑しているのか、今まで大人しくしていたけど、そろそろ暴れ出す頃じゃないかな?」


 それだけを他人事のように言うと、また異世界を破壊しだした。


 どんな奴を送ったのか、まだまだ聞きたいことはあったけど、そこで終わりだった。私の体が完全に異世界からログアウトされたのだ。


今回はいつもより長めです。

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