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第五十一話 キメラの世界

第五十一話 キメラの世界


 後輩のために訪れた異世界で、宿敵キメラの手下に遭遇した。当然のように、キメラに関する情報を力づくで聞き出そうと戦いを挑むが、悔しいことにその差は歴然。あっという間に打ちのめされてしまった。


 だが、その様子を見ていたのか、キメラ本人から、自分のいる場所へ招待されてしまった。もちろん、わなの可能性もゼロじゃない。それでも、私は踏み込むことにした。せっかくあいつの方から、招き入れてくれているのだ。こんなチャンスはめったにあることではない。だったら、多少リスクがあろうとも、乗るしかないでしょう。


 キメラの世界に通じているという黒い空間を見つめながら、私は呟いた。


「あの黒い穴に入れば、キメラのところに行ける訳ね」


 ちょっと高くて、全力ジャンプしても届くかどうか微妙だけど、ここは跳ぶしかないでしょ。そう思って、足に力を入れていると、御楽に止められた。


「そう慌てんなって。直に扉が現れるから」


 空間の割れ目はどんどん広がって、やがて地面まで伸びてきた。すると、それまで真っ黒だった空間に扉が浮き出てきた。


「この扉の向こうに、俺たちが拠点にしている世界がある」


 扉を開ければ、そこにキメラが待っている。心臓がバクバクしてきたが、心の準備をしている時間すら惜しい。


 え~い、女は度胸だ! 私は勢いよく扉を開けた。


「……」


 扉を開けた先に広がっていたのは、一言でいえば、現実の世界だった。いや、違う。正確には、現実の世界と瓜二つの世界が広がっていた。


「何から何までそっくり……。ここまで似せる必要があるのかっていうくらい瓜二つだわ」


 せっかく好きな世界を作れるのに、わざわざ同じ世界を用意するなんて。壮大な無駄をしている気がする。まあ、キメラの考えていることなんて、理解したいとも思わないけど。


「いや~、いろいろ試してみたんだけどね。結局、自分の生まれ育った世界が一番って結論になってね」


 私に続いて、異世界にやってきた御楽が話してくれた。その理屈には、私も賛成するところがあった。


「それで? あんたたちの拠点はどこなの? 案内してくれるんでしょ?」


「やれやれ。人使いが荒いなあ……」


 文句を言いながらも、私の前に立った。先導はしてくれるらしい。


「まさか私の家を拠点にしているなんて、言わないでしょうね」


 その可能性もないとは言い切れなかった。体を奪った人間の家を拠点にする。やりかねないことではない。


「君の家がどこかは知らないけど、個人宅ではなかったな」


 御楽の答えに、少なからず安堵した。よく考えてみれば、私の家は普通に比べれな広いといっても、拠点になるような大きさではない。


「……会ってどうするつもりだい?」


「む!」


 私を先導しながら、御楽が尋ねてきた。


「説得したところで、君の体を返してくれるとは思えないし、力づくで奪おうにも特殊能力の発動は禁止されている。一通り文句を言うだけで、帰ることになるだけだよ」


 御楽の言っていることは、概ね正しかった。確かに、キメラからすれば、私の追及をのらりくらりと交わすだけでいいのだ。これから行なわれる対面が、無意味な交渉で終わる可能性が大きかった。


 でも、私は行く。無意味だからといって何もしなければ、私はいつまでたっても大切なものを取り戻すことは出来ないのだから。


「骨が折れるぜ。何といっても、向こうはこの世界を作った相手だからな。負けイベントって知っているか? どんなに頑張っても絶対に負けるようにあらかじめプログラムされているイベントだ。今回のケースはそれと同じだ」


「私の負けが決まっているというの?」


 ギロリと御楽を睨むが、向こうは動じない。


「当然だろ。ただのプレイヤーが、プログラムを開発した相手に喧嘩を売っても勝てるわけがないだろ。やる前から、勝敗は目に見えているよ」


「うるさいわね。黙ってなさい!」


 さっきから横で、私を不安がらせるようなことばかり言って。しかも、的を得ているだけに、尚更耳障りだわ。


「君って本当に気が強いね。そんなんじゃ、いつか足元をすくわれるよ」


 私の説得を諦めたのか、最後に皮肉を口走ると、御楽は話すのを止めた。そして、しばらく歩くのに集中していると、大きなビルの前にたどり着いた。


「ここが俺たちの拠点だよ」


「結構いいところに拠点を構えているじゃない」


 このビルは現実世界にも実際に存在するビルだ。たしか世界的に有名な商社の自社ビルだったと記憶している。


「キメラがいるのは社長室?」


「正解! と言いたいところだけど、違うよ。あいつがいつもいるのは二階の会議室だ」


 おかしいわね。こんな大きいビルを拠点にするくらいだから、社長室にも興味津々と思ったんだけど。


 目的地が二階ということなので、エレベーターは使わずに、階段で上がった。二階に上がるとすぐに、会議室と書かれたプレートが貼られた大きなドアが目に入ってきた。


「キメラ~!」


 固まっている私の前で、御楽がドアをノックした。


「お客さんを連れてきたよ。入っていいか?」


「どうぞ」


 木製のドアの向こうから聞きなれた声が返ってきた。間違いない。キメラがそこにいる。


 キメラの存在を確信した私は、御楽を押しのけて、ドアを勢いよく開けた。


「ははは! ずいぶん乱暴に開けるんだな。でも、元気そうでホッとしたよ」


 出入り口と向かい合うように、目を赤く光らせた私が座っていた。ふてぶてしくも大きなソファにどっかりと腰をおろしている。


「やあ、久しぶり……」


 私の顔をまじまじと見ながら、余裕の笑みを含んだ顔で言ってきた。向こうは挨拶をしているつもりなんだろうけど、生憎と私に返している余裕はないのよ。


 キメラが挨拶を追えるのを待たずに、私は警棒を振り下ろしていた。だが、キメラも黄色のピアスを付けているので、ノーダメージ。


「危ないなあ。いくら怒っているといっても、自分の体に向かって攻撃しちゃ駄目だよ。僕を倒して、体を取り戻しても、使い物にならなくなっていたら困るだろう?」


「盗人の分際で、偉そうに説経してんじゃねえよ……!」


 言葉遣いが乱暴になっていたが、そんなことはお構いなしだ。キメラを攻撃することが、自分の体を傷つけることくらい、私にだって分かる。でも、それを考慮しても、こいつに対する怒りを抑えることが出来ないのだ。


「私がここまで来た目的は、もう見当が付いているんでしょ?」


 あれだけのことをしておいて、知らないとは言わせない。


「もちろん。今僕が使っている君の体と、お父さんを速やかに返却することだろ」


「そうよ。分かっているなら……」


「出来ない相談だ。というのも……」


 キメラはまだ話をつづけていたが、それを遮るように、私は警棒でまた殴っていた。


「返せ!!!!」


 言い訳なんて聞きたくない。要求を曲げる気も全くない。私が叫ぶと、キメラはやや呆れたように呟いた。


「予想はしていたが、やはり僕の話を素直に聞いてくれそうにはないみたいだね」


「当り前でしょ。そういうあんただって、初めて会ったときに、まともに話もしないで、私から体とお父さんを奪っていったじゃない」


 私とキメラ。同じ顔をした二人がしばらくも無言で見つめあう。


「君の言うとおりだ。しかし、話し合いが駄目だとなると、実力行使しか道がなくなるぞ。それは君にとって不利なんじゃないのか?」


「あんたと落ち着いて話し合うより、得意分野だわ」


 頭に血が上っている状態で、まくしたてるように、言葉を吐いた。こいつに対して、引く気は一切ない。


「どうするんだ?」


 私の扱いにすっかり困っている御楽がキメラに聞いた。でも、キメラの方は未だ余裕だ。


「どうもこうもないよ。彼女が直接対決を望んでいるのなら、そうするだけさ」


 その言葉に、私と御楽に緊張が走る。


「真白ちゃん。本意ではないけど、決闘をしようか。それで僕に勝てれば、君の体も、お父さんも返してあげよう」


「キメラ!」


 多少焦ったように、御楽がキメラに駆け寄った。だが、当のキメラは心配するなと、御楽を制した。


「忘れたのか? 僕はこの世界を作ったもの。いわば支配者であり、絶対者だ。神様ピアスを持っただけで逆上せ上がった、偽りの神とは違う。ここでは誰も僕には勝てない……」


 あんたの言うとおりだわ。旗色が悪くなれば、私の能力を封じたり、強制的にログアウトさせたりことも可能なんでしょうよ。


 でも、勝つ。私に決闘を申し込んだことを何が何でも後悔させてやるわ。


 復讐心をたぎらせた黒い感情に突き動かされるように、私はキメラとの対決を決めた。


だいぶ登場人物や特殊能力が増えてきたので、設定資料集を作ろうかと思っています。加えてほしいものがありましたら、リクエストしてくださってくれて構いません。

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