表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/171

第四十七話 城内追いかけっこ

第四十七話 城内追いかけっこ


 ガチガチのファンタジーな世界にやって来た私は、小夜ちゃんのお兄さんがいるだろう、王様の住む城に向かうことにした。


 城は探すまでもなく、すぐに見つかった。というか、一階建てか、二階建てばかりの街中に、どでかい城がどんと構えられているので、とにかく目立つのだ。探すまでもなく、目についてしまう。


 常に目的地が見えているので、そこまでの道のりを人に聞かなくても、迷うことなく、辿り着くことが出来た。


 城を目の当たりにすると、やはりでかいと感心する。


「ここが王様の住む城か。立派ね……」


 私たちがイメージするお城をそっくりそのまま具現化したような城だった。確かに立派だけど、工夫が感じられない。テキスト通りの城だった。せっかく自分の好きなように設定できるのだから、もっと面白い形にすれば良かったのに。


「おい! そこで何をしている!」


 おっと! 気ままに歩き過ぎたか。見回りの兵士に見つかってしまった。二人組の兵士が私のところに向かって歩いてきた。


「お前、そこで何をしていた?」


 私の前に来ると、兵士がもう一度聞いてきた。ただの散歩ではまかり通らない雰囲気があった。だからといって、正直に話しても信じてはもらえないだろう。


 その時、兵士の一人が私の顔を見ながら、若干鼻の下を伸ばしているのが目に入った。……仕方がない。いつも萌がしていることで、あまり気分は良くないけど、女の武器を使うとしますか。


「実は、ここに強い勇者様がたくさんいるって聞いたので、お近づきになりたいと思ったので、つい来ちゃったんです。見逃してもらえませんか?」


 わざと小動物のように振る舞い、お願いオーラ全開で頼み込む。通用する訳がないだろうと言われてしまいそうだが、この兵士たちには効果てきめんだった。


「か、かわいい……」


 ふふふ……。私の可愛さはここでも発揮されるようね。兵士たちが守護する城の正門を、私の魅力で開いてみせるわ。


 城を守る兵士としては落第点だけど、私にとっては好都合だわ。この調子で上手くいくと調子に乗っていたところ、兵士たちの後ろに熊のような巨大な影が現れた。


「何をしているんだ、お前ら……」


 兵士たちの頭上に拳骨が落ちた。「ぐえっ」とか、「ひぐっ」とうめき声を上げて、兵士たちがその場に崩れ落ちた。


「全く……。小娘の色仕掛けをされたくらいで鼻の下を伸ばしやがって!」


「す、すいません……」


「申し訳ありませんでした」


 恐怖に支配された顔で、男の兵士たちは平謝りだ。


 この女兵士……というより、女ゴリラは、この二人の上司と見て良さそうね。


 そんなことを考えていると、女ゴリラが私の方をジロリと睨んだ。う……、私の魅力も動物にまでは通じないか……。


「あなた……。見たことない服装ね」


「ぐっ……!」


 この世界に来てから一度も突っ込まれてなかったのに、遂に突っ込まれてしまった。


「いきなり妙な服装で現れて城に入れろだと? 怪しいやつだ」


 当たり前の疑問を吐きながら、女ゴリラが品定めするように、私の顔を覗き込んできた。


「連行して徹底的に調べてやるか……」


 女ゴリラの指示で、兵士たちがじりじりと私との距離を詰めてくる。慎重に私を確保するタイミングを窺っているのだろう。でも、ごめんなさいね。捕まってあげる気はさらさらないのよ。


 こうなっては仕方がない。私が取ることの出来る手段は一つ。


「あ、逃げた!」


「くっ……! 追え! お前たち、あの小娘を追うんだ~!」


 元々男の兵士が隙だらけなのは、既に見抜いた。そこをついて、兵士の横をすり抜ける。


「しまった……!」


「何をしているんだ、お前は!」


 背後で叱咤する声が聞こえてくるが、私は振り返らずに走り出した。幸いなことに、城の中に通じる門が開いていたので、そこへ逃げ込む。


「何をしているんだ、さっさと捕まえろ!」


 兵士たちの失態に狂わんばかりに大声を張り上げる女ゴリラ。それを聞いた男兵士たちが恐怖の形相で追ってくる。私を捕まえないと、ただじゃ済まないと分かっているのだろう。自分が原因なので、申し訳なくなるが、捕まってやる訳にはいかない。


「捕まえたらどうするんですか?」


「そんなことは決まっている。私の元に連行して……」


 そこまで言ったところで、女ゴリラは顎に手を置いて、考える素振りをした。


「好きにしていい」


 その言葉を聞いた途端、男の兵士たちの目が怪しく光った。


「好きに……」


「していい……」


 次の瞬間、私を追うスピードが劇的に上がった。こいつら、絶対にロクなことを考えていない。鼻の下が伸びまくっているし!!


 くぅ~! 私の魅力を逆に利用するなんて、あの女ゴリラ、動物のくせに知能プレイを見せやがって。


 こんな状況で捕まったら、何をされるか分かったものじゃないわ。絶対に逃げ切らないと。


 それからしばらくの間、私は必死に逃げたが、徐々に追い詰められていった。


 はあ、はあ……。もう駄目。日頃から鍛えている複数の男相手じゃ、追いかけっこしても、私が無理。体力の限界を感じながら、曲がり角を曲がったところで愕然としてしまった。悪いことは重なるもので、行き止まりに追い込まれてしまったのだ。


 引き返そうとすると、後ろからは兵士の声が聞こえてきた。これでは、引き返すことが出来ない。このままでは見つかるのも時間の問題だ。


 はあ、はあ……。出来れば温存しておきたかったけど、こうなっては仕方がない。能力を使うしか……。


 観念して能力を発動した時だった。行き止まりの筈の、私の背後から声がした。


「こっちです」


「へ?」


 それから間もなく、複数の兵士たちが行き止まりに流れ込んでくる。


「いたか?」


「いや、向こうに逃げたのかもしれない」


「よし、そっちを探そう」


 兵士たちの声が遠ざかっていくのが聞こえたけど、まだ安心は出来ないわ。私を油断させるためのフェイクかもしれない。


「あの……。もう行ってしまったようですよ?」


 隠れている私の代わりに、外の様子を確認してくれたお嬢さんが出て大丈夫だと言ってくれた。


 恐る恐る廊下に出てみたが、確かに兵士たちの姿も声もなかった。


「まさかこんなところに隠し通路があったなんて……」


「まさかの事態に備えて、城のあちこちに設けられているんです」


 緊急時のための備えって訳ね。


「ありがとう。おかげで助かったわ」


「いえ、お気になさらずに。でも、大丈夫ですか? 追われていたようですが……」


「いいんです。非があるのは私ですので……」


 追っていたのはこの城の兵士だ。それに追われている私は危険人物の可能性がある。普通なら助けないところだ。それを助けるなんて、ありがたいけど、ちょっと危機管理能力が足りない気がする。それにこのお嬢さんの服装。それらから推測して出た結論は……。


「あなたはこの城のお姫様ですか?」


「はい。この国の王の娘でティアラと言います」


 兵士から逃げていたら、偶然にもお姫様と会ってしまった。今日はついているのやら、ついていないのやら……。


 どう話したものか思いあぐねていると、ティアラは興味深そうに私を見てきた。


「あなたも勇者様と同じ国からやって来た方なんですか?」


「え? 勇者って、どの勇者?」


 確かこの国は、自称勇者であふれかえっている筈だ。一言で勇者と言われても、誰のことを言っているのか分からない。さらに言うなら、どんな勇者がいるのかも知らない。


「私の勇者様は、あの方だけです」


 頬を赤らめながら、告白するお姫様。きっと意中の彼のことを考えているのだろう。どうやら勇者の一人に惚れてしまっているらしい。ただそいつに心当たりはあった。私と同じような服装なのよね。


「ここにいたのか、ティアラ」


 そいつのことを口にしようとした時、また誰かがやってきた。でも、声の主には心当たりがある。まさか探し人の方からやってきてくれるとはね。


「あら、勇者様」


 私の予想通り、お兄さんは勇者になっていた。服装は現実世界のままだけど、明らかに顔には生気が漲っているじゃない。


そのうち、RPGにおけるプレイヤーの職業の中に、「フリーター」や「ニート」が出てきそうだなとか、個人的に思っています。あまり強くはなさそうですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ