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第三十八話 窮鼠猫を噛む 後編

第三十八話 窮鼠猫を噛む 後編


 硫酸交じりの弾がアーミーをかする。大したダメージではないが、注意を反らすことは出来た。


 その隙に、もう一つの能力を発動させた。たちまち剣が出現して、私の剣に握られる。触り心地を確認した私は、アーミーに向かって駆けだした。


 これがラストチャンス。万が一にも躱されてしまうと、本気で後がない。それだけにこの攻撃には、私に全てを乗せて振り下ろした。


「うああああぁぁぁ!!!!」


 怒声を上げて見舞った渾身の攻撃は、念願が叶って、アーミーをしっかりと捉えることに成功した。


 だが、殺傷性は低かった。一度はしまったという顔をしたアーミーもすぐにがっかりしたような顔になる。


「……今のが攻撃か?」


 向こうが唖然とするのも無理はない。攻撃した際に、剣が根元からポキリと折れてしまったのだから。一見すると、攻撃は失敗に終わったように見えるが、そんなことはない。大成功だ。


 折れた剣は地面に落ちるより早く、変化が起こり始めた。見る見るうちに、鎖へと姿を変えていくと、まるで意思を持っているかのように、一心不乱にアーミーへと襲いかかった。


「さっきと同じように不意を突くつもりか? でも、無駄!!」


 こんな鎖、大したことはないと向かってくる鎖を避けようともせずに、掴もうと手を伸ばす。だが、鎖はあざ笑うように、自分を掴もうとしているアーミーの手をすり抜けた。


「む……!?」


 鎖を意外そうに見つめるアーミーに説明してやった。本当は自分から能力を明かすなど、言語道断なのだが、もう勝負は決まったようなものだ。話しても問題あるまい。


「その鎖は誰にも掴めないわ……。能力を発動している私自身にもね」


 結局アーミーは為す術なく鎖に巻かれてしまった。強い力で締め上げているのだろう。アーミーの顔から余裕が消えた。


「ぐぐぐ……!」


 拘束を解こうにも、相変わらず鎖は掴めない。そのくせ、鎖の方はしっかりとアーミーを掴んで離さないという奇天烈な状況だった。


「そのまま……。そいつを向こう側に連れて行って……」


「ふ、ふざけるな。そんなことをさせるか……」


 必死にもがいても無駄よ。そいつは一度かかったら最後。もう逃げられない。あなたは絶対に私の渾身の一撃を躱さなければいけなかったのよ。


 今私が使った能力は『誘拐ブレイド』。最初は剣の姿だが、何かを攻撃すると、簡単に折れてしまう。本番はそこから。折れた剣は鎖に姿を変えて、攻撃した相手に襲いかかる。どうにかしようにも鎖の状態の時は決して掴むことが出来ず、防御不可能。最終的にぐるぐる巻きにした相手をどこかへと連れ去ってしまうのだ。そして、相手は二十四時間後、現実世界のログインした場所で気絶している。その間どこに連れて行かれて、どんな目に遭わされるのかは、私にも分からない。


 能力を食らったアーミーもご多分に漏れず、鎖に引っ張られてどこかに連れて行かれた。これからどういう目に遭うことやら……。


「ざ、ざまあみやがれ……」


 最後の力を振り絞って、勝利宣言をすると、そのまま意識が切れそうになった。腹からは依然血が大量に流れているのだ。無理もない。


 そのまま現実世界の病院まで踏ん張るつもりだったんだが、自分が思っているより、やばい状態だったようで、異世界からログアウトすることも出来ないまま、力尽きて倒れてしまった。




 それからしばらくの間、私は意識を失っていた。


 目が覚めると、ベッドに寝かされていた。天国……じゃなさそうね。血の匂いが相変わらず濃いから、気を失ったところからたいして移動していないらしい。


 ただ、傷口に包帯が巻かれていることから、応急処置だけはしてもらえたようで、命の危険は去った様子。


「あら。もう目が覚めたのね」


 近くで声がしたので、首だけ動かしてみると、女医さんが机に座って書き物をしていた。ただ、私とアーミーが派手にやらかしたおかげで、半壊していて、かなり書きづらそうだった。


「あなたが助けてくれたの?」


「まあね」


 短い言葉で、素っ気なく返答すると、また書き物に没頭しだした。


 まさか助けてくれるとは。「アーミーの仇!」とか言って、襲いかかってきそうなものなのに。


 私がかすかに警戒していると、女医さんは興味がなさそうな声で付け足した。


「念のために言っておくが、あの馬鹿のかたき討ちをする気はないぞ」


「……ないんだ」


「でも、だからといって、私を助けてくれるなんて。放っておけばいいのに」


「人の体をいじるのが好きなんだ。結果的に助けたことになっただけさ。だから、礼を言う必要もない」


 今回は運が良かったということかしら。でも、助けられたことは事実なんだから、しっかりと言わせてもらわないと。


「助けてくれてありがとう。あなたは私の命の恩人だわ」


「! 礼はいらないと言っているだろうが!」


 怒ったように声を荒げながらも、顔を赤らめているというのがちゃんと伝わってくる。これは照れ隠しで間違いないでしょう。この人、ひょっとしたら、ツンデレの気があるかもしれない。


「あ、あと追加で質問。今私が寝ているベッドって、アーミーがいつも手術をしているベッドかしら?」


「そうだよ。他のベッドの方が良かったか? でも、お生憎様。こう見えて力がないから、君を運ぶのが面倒でね。手当をしてやっただけでも儲け物と思ってくれ」


 この人、どことなく牛尾さんに似ているかもしれない。


 でも、ここにあいつが寝そべって、手術を受けていたと思うと、あまり良い気がしないわ。


「性転換手術もそこでしたんだぜ」


 そんなことを言われたものだから、反射的に自分の体を確認してしまった。だって、気付かない内に性転換させられていたら、嫌ですもの。……現実世界では性別逆転中だけどね。


「心配しなくていい。お前は女のままだし、変な改造もしていない」


「あ、そう……。良かった……」


 「本当はやりたくて仕方がなかったけど、今回は欲望に打ち勝った」と、ぼやいていたような気がするが、気のせいだと割り切ろう。


「そう言えば、あの馬鹿はどこに行ったんだ?」


 当然の質問が飛んできた。誤魔化すことも考えたが、命を助けてもらった恩もあるので、正直に「分かりません!」と高らかに答えた。


 それだけでは説明不足なので、時間をかけて詳しく説明する。


「自分でもよく分からない能力を使ったのか。君もあいつに負けず劣らずの馬鹿だな」


 もっと怒るかと思ったが、女医さんは冷静だった。


「アーミーはもう逮捕されるでしょうね。殺した人数が多すぎるから、死刑は免れないと思う」


「へえ」


「この世界にも警察の人が大挙して押し寄せてくるわ。……やっぱり不安?」


「別に。元々無の存在だったからな。また無に帰るだけさ」


 自分の命に興味がないのか、平気そうだった。横で話している私の方が悲しくなってきてしまう。


「あのさあ。私、あなたの助命を頼んであげようか?」


「は!?」


「ほら……、命の恩人だし、恩返ししておかなきゃって」


 理解できないものを見るような目で、女医さんは私をじっと見つめてきた。私も言葉が続かず、黙ってしまう。


「難しいな。いくら創造主の命令とはいえ、殺人の片棒を担いでいたのは事実だからな」


「「!!!!」」


 私たち以外の声がしたので、驚いて声の方を見た。


 ドアのところに月島さんと牛尾さんが立っていた。


「さっきアーミーを逮捕してきたところだ。ここの情報はやつの口から直接聞いた」


 そうか。もう逮捕されたんだ。あいつに手錠をはめるなんて、月島さん、やる~!!


「さすが!!」


 私は月島さんを讃えたが、私をチラッと見ただけで、また女医さんに顔を向けた。


「とりあえず、我々への協力しだいかな」


 懐から一口チョコを出して、口に入れながら、月島さんは女医さんへ話しかけた。


今回のアーミー戦は、流血の描写が多かったと思います。気分を害した方がいましたら、申し訳ありませんでした。次のステージでは、もう少し抑えられるかなと思っています。

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