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第二十七話 悪意の遊園地

本日の話は、月島→水無月(真白)→殺人犯の順番で、視点が切り替わっていきます。分かりにくくならないように注意してみましたが、万が一分かりづらければ、お手数ですが、お知らせくださいませ。

第二十七話 悪意の遊園地


 血の匂いを嗅ぎつけたか、さっきから上空で、烏がやたらとカーカー鳴いている。世間は休日だというのに、俺はというと、殺人事件の現場に駆り出されていた。


 向こうを幸せそうなカップルが仲睦まじく歩いている。ああ、俺も美紀とデートがしたい。今日は遊園地なんか良さそうだよな。


 ……何てことを考えるのは、死んだやつに対して失礼だなと、反省。死んでしまっているので、もう何も話すことはないだろうが、こいつだって、日曜日なのに真面目に職務に励んでいたのだ。


 おそらく、仕事が終わったら、家族と夕食を食べたり、恋人と楽しく過ごすたりしていたかもしれない。


 それが一瞬のうちに、奪われてしまった。テレビを賑わせている連続殺人犯、アーミーの手によって。


 今までは一般人の身を狙って犯行を繰り返していたが、ついに警官にまで手を出したか。自分の腕に相当の自信があるようだが、いい度胸だ。


 一人、逃走したアーミーのことを考えて、闘志を高めていると、気になる匂いが鼻を突いてきた。まだ治まっていないらしい。


「君もそろそろ死体に慣れたらどうだい? 現場で死体を見ただけで吐く刑事なんて、威厳がないよ?」


 死体のおぞましさに動転した後輩の刑事が、さっきから吐き続けているのだ。だんだん匂いがきつくなってきたので、いい加減に落ち着いてほしいんだけどね。


「む、無理っす……。あれはきついですよ」


「ひどいことを言うね。今は肉塊だけど、仮にも俺たちと同じ警察署に勤務していた仲間じゃないか」


「そ、それでも気持ち悪いものは気持ち悪いんです!」


 ついに気持ち悪いとまで言い出したか。全く! こいつはどうしてこう、無頓着なのかね。同じ女でも美紀とはえらい違いだよ。彼女ならこんなことは言わないだろうし、肝も据わっているから、俺の死体を見ても動じることはないだろう。それはそれで、悲しいものがあるけど。


「また婚約者のことを考えていたっすね……」


「……人の心を勝手に読まないでもらいたいね」


 状況を察して、黙っていてほしいものだ。本当に無神経なやつだよ。


「どうせ婚約者だけは守ってみせるとか、臭いことを考えていたに決まっているっす。自分もか弱い女っすよ。守ってほしいっす!」


「ゲロを吐くのを止めたら、考えるよ……」


 守ってほしいだって? 空手の有段者のくせに、何を言っているんだろうね。スポーツ刈りでか弱いとか言われても、ピンとこないよ。馬鹿話もここまでにして、アーミーの捜査にいくとしますか。


 そう言えば、俺の家にも子猫が二匹ばかり押しかけてきているな。どっちもやんちゃだから、今頃目を付けられていたりして……。何てね!




 月島さんが縁起でもない冗談を考えていた時、偶然にも私と萌は二人仲良く殺人犯にロックオンされてしまっていた。もっとも、当の私たちは、自分の身に危険が迫っていることなど知る由もなく、休日の遊園地を楽しんでいるに過ぎなかった。


「ふう……、遊園地の全部のアトラクションを一日で回るのは、結構な重労働だな」


 無駄にはしゃぎまわる萌に引っ張り回されて、私は疲労がピークに達して、目が回りそうになっていた。


 ジェットコースターを始めとした絶叫系のアトラクションばかり攻めた後、観覧車に乗ったところで、情けないながらもギブアップを宣言して、ひとまず休ませてもらうことにした。


 自販機で買ったコーラでのどを潤しながら、このハイペースがこの後も続くことを想像し、辟易していた。


「萌ちゃん、この後なんだけどね。メリーゴーラウンドや、迷路なんかどうかな? 絶叫系はもう十分楽しんだでしょ?」


 絶叫系が苦手な訳ではないが、連続で乗るのはきつい。早めに切り上げないと、トラウマになりかねない。なるべく優しい声色で話しかけたが、萌から反応が返ってこない。聞こえなかったのかと、もう一度問いかけるが同じく反応なし。


 不思議に思って、萌の顔を見ると、さっきまで馬鹿の一つ覚えみたいに騒いでいた萌の様子がおかしい。気になって聞いてみると、向こうの自販機の辺りにいる男を指差して言った。


「あの人……。さっきからずっと私たちの後を付けています……」


「どいつ?」


「あいつです。あそこのスーツを着た体格の良い男の人。サラリーマンなのかな……」


 萌が指差す先に、確かに該当する人間はいた。一瞬、巷を賑わせている連続殺人犯、アーミーの存在が頭をよぎるが、あいつは確か二十代の女性の筈だ。ストーカー疑惑のあるあいつは三十代の男。違うか……。


「後を付けているって、どれくらい?」


「もう一時間になるでしょうか」


 一時間……。ちょっと唖然としてしまった。


「どうしてすぐに言わなかったの? 一時間も付けられているなら、デートどころじゃないよね。すぐに帰らないと」


「そう言うと思ったから、なかなか言い出せなかったんですよ。そうでなくても、水無月さんは帰りたそうにしていますからね」


 危険より、楽しむ方が優先なのかよ、こいつは。馬鹿なのか、度胸があるのか……。


「警察を呼んだ方が良いですかね?」


「まだ何かをされた訳じゃない。こっちの勘違いかもしれないから、通報は出来ないよ」


 悠長だと思いながらも、まずは常識的なことを言ってみた。一時間も後を付けられているので、そのことを警察に話すという手もあるが、まだそこまでことを荒げるのは気が引けた。


 しかし、そうは思いつつも、胸の中に去来する、ある感覚があった。


 この感覚、前にも感じたことがある。キメラに襲われた時と、小桜が誘拐された時だ。つまり、向こうは、こちらを襲う気があるということだ。


 どうする? ここが異世界だったら、特殊能力で撃退してやるところだけど、現実世界では普通の高校生だ。あまり手荒なことは出来ない。


 ちょうど手元には黄色のピアスと、ログイン用のカードがある。いざとなったら、異世界に逃げて……。いや、駄目だ。異世界にログインした後で、現実世界に戻ってくるのはログインした場所なのだ。待ち伏せされたらまずい。


「あ~あ、異世界に逃げ込めたらな。乱暴されそうになったら、通報だけして、警察が来るまで異世界で待機できるのに」


 その手があったか。萌の方が上手い作戦を思いつくなんて、姉として複雑だわ。


 ていうか、黄色のピアスを使ったら、百木真白の姿でログインしちゃうから、駄目か。「何で、お姉ちゃんがいるのよ」って言われちゃうから、どっちにせよ使えない。


 さて、馬鹿なことを考えるのはここまでにして、とりあえず逃げますか。これで追ってくるようなら、ストーカーということで確定。追ってこなければ、ただの萌の勘違い。早めにハッキリさせてしまおう。


「二人で手をつないで逃げるっていうのも、良いものですよね」


 席から立ち上がって、萌の手を引くと、そんなことを言いだした。こいつの頭は常に夢の世界にいるようだ。おとぎ話のお姫様じゃないので、そろそろ現実を直視してほしいところだ。


「馬鹿なことを言っていないで、走るよ」


 警戒の感じられない萌の手を強めに引いて、私は走り出した。とりあえず人ごみに紛れて撒いてしまおう。人の目があるところなら、下手なことは出来ない筈だ。


 後方にいる筈の男をチラッと見てみる。こっちを凝視しながら、右手をポケットに突っこんでいた。一瞬、追ってくるかと思ったが、走り出す様子はない。ただ俺たちを追うように、悠然と歩いてきた。くそ! これじゃ勘違いなのか、ストーカーなのか、ハッキリしないじゃないの!




 彼女の方に気付かれたか……。俺の方をちらちら見ていると思ったら、女の手を引いて走り出した。これでも尾行には自信を持っているつもりなんだけどな。ばれたものは仕方がないか。


 さて、この後どうするかな。さすがに走って追いかけたら、怪しすぎる。強行することも可能だけど、ドクターには無理をして捕まるなと言われているし、危険は冒せないか。


 そう思ってターゲットを変えることも考慮していた時、チンピラ風の男と互いの肩がぶつかった。たいした衝撃はなかったのに、男は必要以上にいきり立って、俺に謝罪を強要してきた。……今日の獲物はとりあえずこいつでいいかな。


 予定が狂ってしまったが、血が見られるのなら構わない。俺はニヤリと含み笑いをして、アーミーナイフをポケットから出した。


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