第二十四話 女難の日
第二十四話 女難の日
ひょんなことから、瑠花に私の正体がばれてしまい、どういうことなのか問い詰められた。瑠花は勘が良い上に、黄色のピアスまで所持していて、今私に起きていることと無関係ではないようだったので、全てを話すことにした。
「本当に本人か?」とか、「本人なら証拠を見せてみろ」とか、言われてもおかしくないのに、瑠花は私の言葉をすんなりと信じてくれた。涙ながらに二人で抱き合い、喜びに浸る。紆余曲折はあったものの、瑠花と本当に意味で再会することが出来た。
「そんなことがあったんか。苦労したんやな」
瑠花にこれまであったことを説明すると、聞きながら涙を流して、苦労をねぎらってくれた。
「そうなんだよ。たまたま代わりの体があったからいいものを、コンピュータの世界に閉じ込められるなんて最悪。その上、お父さんまで行方不明になっちゃうし……、もう散々な目に遭ったよ」
「……その男みたいな話し方、どうにかならへんか? めっちゃ違和感があるんやけど……」
私の話し方が気になったのか、改めるように諭してきた。瑠花の言い分はもっともだが、素直に応じることは出来ない。
「俺だって、好きで男の言葉を使っているわけじゃないよ。でも、この姿で女言葉を使うと絵的にまずいでしょ」
「……確かにな」
この姿で女言葉を話している場面を想像したのか、気分を害した顔で、瑠花は納得していた。
「ちなみにこのことは小桜には話さないんか?」
「いきなり言ったって、信じてもらえないよ。小桜もキーパーというのなら、話は別だけど」
半分期待を込めて言ってみたが、瑠花の顔は芳しくなかった。どうやらキーパーなのは瑠花だけで、しかも小桜には話していないらしかった。
「つまり、このことは二人の秘密ちゅうことや」
また秘密か。でも、親友と共有できるだけ、まだマシなのかも。瑠花のことは、月島さんや牛尾さんにも話していいということなので、今夜にでも早速話してしまおう。
「そう言えば、瑠花はどうやって黄色のピアスを手に入れたんだ?」
「ああ、それな……」
私は父の書斎で偶然見つけたのだが、瑠花はどうやって入手したのだろうか。他のピアスと違って、このピアスは入手方法が不明だったので、是非知りたかった。なのに、瑠花は気まずそうに口を閉ざしてしまう。
「どうしたの? 聞かれるとまずい話なのか?」
「まあな……」と、瑠花は申し訳なさそうにしている。思ったことは、すぐ口にする瑠花にしては、大変珍しいことだった。
「あのな、それはまたの機会ということで駄目か?」
申し訳ない顔の次は、今は話せないとまで言い出した。
「頼む! いずれ話すから、今は何も聞かんといてくれ! 気持ちの整理が必要なんや」
今度は両手を合わせて、頭を下げられてしまった。納得いかない部分はあったが、親友にここまでされては、私も不本意ながら折れるしかない。
「……仕方がないなあ」
「さすが、真白! 恩に着るで!」
私が渋々了承すると、瑠花は表情を一変させた。本当に調子がいいんだから。
「一つだけ教えてくれ。黄色のピアスを入手するときに危ない橋は渡ってないよな?」
瑠花は頭に血が上るとやり過ぎるところがあるので、そこを心配しての質問だった。
「すまん! 思い切り危ない橋を渡ってもうた。しかも、勢いが良すぎて、危うく踏み外すところやったわ!」
「何をやっているんだ、お前は!?」
危険な真似はしていないという無難な回答が返ってくると思っていれば、とんでもない爆弾が返ってきた。これで詳細を説明するのを気持ちの整理がつくまで待てなんて、どんな生殺しよ。気になる~!
今すぐ説明をしなくていいと言ってしまった自分の迂闊さに、軽い後悔を覚えながら悶絶する私をよそに、瑠花はその場を立ち去ろうとしていた。
その余裕しゃくしゃくの態度が気に障ったので、ちょっと意地悪してやることにした。
「ああ、そうだ、瑠花。さっき抱き合った時に感じたことなんだけど」
「何や?」
「ちょっと見ない内に太った?」
私としては、率直な感想を述べただけなのだが、瑠花は見る見る顔を紅潮させていった。
「な、ななな……!?」
「ダイエットした方がいいよ」
羞恥と怒りで、頭の中が大混乱になっている瑠花を放っておいて、一足先に帰路に就いたのだった。
瑠花と再会の喜びを分かち合ってから数日後。世間では、私たちが解決した、女子連続誘拐事件がトップニュースとして扱われていた。
氷室は結構な人数を誘拐していたらしく、それだけでも特ダネになるほどの異常性を持っていたが、現場になったのが異世界だということが、世間の関心に拍車をかけた。
この日も、旅行部の部室に学校には無断で取りつけたテレビで、バラエティーを見ながら、誘拐事件の特集を機械的に見ていた。
「物騒な世の中になったものねえ……」
自分が被害者だったにも関わらず、他人事のように煎餅をバリバリと貪っていた。誘拐されたショックを引きずっていないのは嬉しいことだったが、もう少し危険に関して敏感になった方がいい。
「オーナーが逮捕されたってことは、あのテーマパークも潰れちゃうのかな?」
「いや。別のオーナーがリニューアルオープンするって」
別のオーナーというのは、月島さんである。警察官は副業を禁止されていた筈だと思うが、あの人のことだ。どうせ裏技でも駆使して、許可を取り付けてしまうんだろう。受付にメイドを増やすなどの悪趣味に走らないように睨みを利かせねば。
「ええやん! リニューアルオープン。今度は施設同士の距離が近くなってくれれば、言うことなしやん」
そう言って、後ろから瑠花が抱きついてきた。
私が真白だとカミングアウトしてから、瑠花との距離がぐっと近くなって、今では以前と変わらない親友同士に戻っていた。コミュニケーションも以前と同じ水準まで戻っていたので、抱きつかれることも増えていた。
だが、私と瑠花の外見上の性別は違うのだ。あまり仲良くしていると、どうしてもあらぬ疑惑が発生してしまう。特に、抱きつき合うなどの肌が触れあうスキンシップは気を付けなければならない。そうしないと、周りからじろっと睨まれてしまうのだ。ちなみに、今のスキンシップでは、小桜に睨まれてしまった。
「最近、瑠花と水無月くんの距離が妙に縮まっているわね」
瑠花との関係を深読みした小桜がじろっと、私たちを睨んできた。小桜は私の正体を知らないので、無理もない。
「そ、そうかな?」
「こ、高校生なんやし、これくらいは普通なんちゃうの?」
ぎこちないながらも、二人で言い訳をしたが、「そんなことをするのはカップル同士くらいよ」と、小桜は厳しい表情のままだ。
「怪しいわ……」
ゴシップ大好きの小桜が、観察するように、私と瑠花を交互に眺めた。私たちはひたすら苦笑いするしかなかった。
このまま嵐が過ぎてくれるのを期待していたが、運の悪いことに、別の嵐が到来してしまった。今日はトラブルに頻繁に見舞われる日なのかもしれない。
「私に隠れてこそこそしていると思っていたら、こんなところにいたんですね」
「え?」
いつの間にか開けられていたドアに寄りかかっていたのは萌だった。
「萌ちゃん!? ここで何を?」
「それはこっちの台詞です。私のことを放ったらかしにして、どこにいるのかと思えば、何の相談もなく、部活に入っているなんて、ひどいです! しかも、変な女とイチャついているなんて……!」
「へ、変な女!? それって、うちのことか?」
「ね、ねえ! この子は一体誰なの? 説明しなさいよ」
真っ赤になって怒る瑠花と、唖然とする小桜をよそに、面倒くさいやつが来たと、頭が痛くなった。
「こ、こいつはな……」
「彼女です!!」
「「えええぇぇぇ!?」」
萌以外の全員が絶叫してしまう。あれれ? 萌とは、毎朝一緒に登校しているだけの関係なのに、いつの間にか彼氏にされていたぞ!?
「そ、それを言うたら、うちもこいつの彼女や!!」
「「ふえええぇぇぇ!?」」
対抗意識を燃やしたのか、瑠花まですっとんきょうなことを言いだした。いきなり言われた私は、小桜と仲良くまた絶叫。
ていうか、よく分からない内に、二股かけていることになる訳? しかも、相手は親友と、実の妹!? おいおいおいおいおいおいおい!!!!!!
近所の本屋に行ったら、小説のコーナーに、盾を持って成り上がった勇者が表紙を飾っている小説を見つけました。しかも、平積み。「小説家になろう」発の小説が、どんどん進出しているのを実感した瞬間です。この流れに私も乗りたい……!!