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第百五十九話 ヴェールを脱ぐ『初期化』

第百五十九話 ヴェールを脱ぐ『初期化』


 キメラとの話し合いは決裂に終わり、当初の予定通り、私たちは戦うことになった。もっとも、話の内容を聞く限り、和解なんてあり得なかったんだけどね。


 戦闘狂の喜熨斗さんが、舌なめずりしながら、拳を鳴らせている横で、キメラに宣言する。


「ああ、そうだ。一つあなたに言い忘れていたことがあるのよ」


「へえ……。是非聞いておきたいね」


 興味津々で私の言葉に耳を傾ける仕草に、これから戦闘を行うという殺伐さは微塵も感じられない。人によっては、肩透かしを食らっちゃうかもしれないけど、今の私は怒りがマックス。その程度で、攻撃の手を緩めることはないわ!


「私ね。バージョンアップしたのよ。以前の私とは一味もふた味も違うの。もう別人って感じ?」


 言うが早いか、キメラに急接近して、回し蹴りを見舞ってやろうとしたけど、あっさりと躱されてしまった。先手は失敗しちゃったわね。でも、まだよ。当たるまで攻撃してあげる。


「知っているよ。イルからもらった能力で強化したんだろ。『アップデート』って名前だっけ?」


 攻撃を避けながら、今までと同じ口調で話し続けるところがまたムカつく。少しは、話しづらそうにしなさいよ。


「はっ! キメラ相手に肉弾戦か。無謀だが、そこが面しれえ!」


 私に続いて、喜熨斗さんもキメラに攻撃を加えてきた。でも、これも余裕で躱されてしまった。それで闘志に火がついたのか、喜熨斗さんは右手に緑のナイフを出現させた。『魔王シリーズ』の一つ、『グリーンインパクト』を発動させたのだ。


「こいつで切られれば、お前だって、ただでは済まないよな」


「済まないよ。だから、絶対に食らってあげない」


 喜熨斗さんのナイフ裁きは芸術的なまでに洗練されているけど、それすらもキメラは華麗な動きで躱していく。どうしよう。私も手伝いたいんだけど、却って邪魔になっちゃいそうだし……。


「ん? ねえ、真白。しばらく見ない内に、ずいぶんピアスがボロボロだね」


 ボロボロなのは、みんな、あんたの手下たちのせいよ! 他人事みたいに言わないでよ。


 「それがどうした」と言い返す前に、キメラが喜熨斗さんの攻撃から逃れて、私の元へ跳躍してきた。


「ちょっと触らせてもらっていいかな? 『初期化』……」


 これまた私の口が動くのを待たずに、勝手に触れる。というか、『初期化』って言わなかった? え? 何? 私、もうログアウト?


 思わず硬直する私の耳元で、砕ける寸前だったピアスのひびが見事に修復されていく。


「え? ひびが消えていく……」


 イルに回復系の能力はないって言われていたから、諦めていたのに、私のピアスは手に入れた時と同じ状態に修復されていた。最早、傷があった時の名残は認められない。


「イルったら、何が回復は出来ないよ。出来るじゃない! あ、そうか。キメラ専門の能力だから、私には使えないという意味で、出来ないと言ったのね」


「少し違うかな」


 私の推理に、キメラが口を挟んでくる。


「『初期化』の力は、消滅専門じゃないんだ。かといって、消滅専門でもない」


「言うなれば、最初の状態に戻すことかな」


 最初の状態に戻す? それがすなわち消滅させるということじゃないの? みんな無から生まれてきたものなんだから、最初に戻すということは、その無に戻すということで、消滅を意味するんじゃない。


 わざわざ違いを強調してくるということは、私の知らない『初期化』の使い道があるということかしら。もしそうなら、あまり拝みたくないものね。


「お前の話は難しくて良く分かんねえんだよ!」


 言いながら、キメラにナイフを振り下ろすけど、やっぱり躱されてしまう。ていうか、喜熨斗さん。話が難しくて、逆切れしたようにも見えるんですけど、それは気のせいですよね?


「というか、余裕じゃない。私の傷を癒してくれるなんてさ」


 もう少しで、完全に砕けて、厄介な私をまたログアウトさせられたのに、ピアスを元道理になんかしちゃって。これじゃ、ますます付きまとっちゃうわよ。


「ただログアウトにしても、君はまた戻って来るだろ。今回のように。前回で学んだんだ。それじゃ、根本的な解決にはならないってね」


「だから、私をしっかり諦めさせようって腹ね?」


 私の性格について理解を深めているようだけど、まだ足りないわね。あなたじゃ、私を説得することは不可能。お父さんの元に辿り着くまでは、絶対に諦めないんだから。


「ピアスを元通りにしてくれたことに関しては礼を言うわ。でも、それとこれとは話が別よ!」


「攻撃続行ってこった!」


 今度は、私と喜熨斗さんが両側から、キメラを挟みこむ形で攻撃する。また躱されてしまうけど、さっきより余裕を感じられないわ。私たちの攻撃じゃ、丸っきり通用しないという訳でもなさそうね。


「手荒なことはしたくないんだけどね。もう一度言うよ。このまま大人しく引き下がってくれると、本当に助かる……」


「くどいわね。何度お願いしても答えは一つよ。神妙になさい!」


「やれやれ……。聞き訳がないな。……おっと!」


 喜熨斗さんの攻撃がもう少しで決まりそうだ。さすがは喜熨斗さんだわ。私なんかより、場数を経験している分、動きを覚えるのが早い。この分なら、キメラをとらえるのも時間の問題ね。


「あまり強がるのは止そう。だんだん避けるのもきつくなってきた。本意ではないけど、致し方あるまい」


 それまで躱すだけだったキメラが足技を繰り出してきた。攻めに転じないと、不味いと判断したのね。いいわ。こっちが圧している証拠よ。


「そうだ。肉弾戦に『スピアレイン』を混ぜたらどうかしら。喜熨斗さんの攻撃を避けたところに撃てば、キメラでも対応出来ない筈よ」


 名案が思い浮かんだ私は、早速実行に移した。自分の頭上に、光の球体を出現させる。でも、それがキメラの目に留まってしまった。


「『スピアレイン』か。今使われると、面倒だな」


 私の元に跳躍してくると、蹴りを私の腹に見舞ってくれた。衝撃はなかったけど、後ろに吹き飛ばされてしまう。そのせいで、せっかく出現させた光の球体も消滅してしまう。


「しまった! あの方角は!」


 キメラが珍しく声を荒げた。どこに飛ばしてくれたのかと思っていると、衝撃が走る。私が叩きつけられたのは、隣の部屋に通じているドアだった。本来なら、鍵と暗証番号が必要になるのだけど、叩きつけられた衝撃でドアが壊れてくれたおかげで、隣の部屋に行くことが出来るようになった。


「何なのかしら。この部屋は? 真っ暗で何も見えないわ」


「くっ……! そこから離れろ!」


 あらま。キメラにしては珍しく動揺しているわね。そんな態度で接してこられると、見たくなるのが人間の性というものよ。


「離れろと言っているんだ!」


 私の元に駆け寄ってこようとするキメラを、喜熨斗さんが足止めする。


「どうした、キメラ? 慌てるなんて、お前らしくねえぞ?」


「くっ、喜熨斗……!」


 ナイス、喜熨斗さん。あなたが足止めしてくれている間に、私は部屋の中を除くとしますか。


 私は一時戦いの手を休めて、真っ暗な部屋へと足を踏み入れた。幸い、電気のスイッチはすぐに見つかったので、室内を明るく照らす。


 そして、見てしまうことになる。地獄絵図を……。


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