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第百五十二話 『アップデート』の闇

第百五十二話 『アップデート』の闇


 揚羽との対戦中、向こうの使用する蜘蛛の人形によって拘束されてしまい、体の自由が効かなくなってしまった。


 そこに、獅子の人形が攻撃を仕掛けてくる。威力がないおかげで、致命傷はまだ免れているけど、ダメージが蓄積されていて、このままの状態が続くと不味いことになってしまうわ。


 ピンチなのに、体が動かせない状況の中で、イルにもらったまま、未使用になっている『アップデート』の発動をぼんやりと考えていた。


 アレを使えば、この状況を打破出来るかもしれない……。




 時は遡って、私が神様ピアスを引き換えに、新しい能力をイルにせがんでいた時のこと。


 普通の能力じゃ、キメラに通用しないことは痛感していたので、とっておきの能力をリクエストしたところ、『アップデート』を紹介されたのだ。


 イルから、身体能力を無限に上げることが出来る能力と知らされた後で、副作用の部分について教えられた。


「この能力で、上昇した身体能力は、解除しても元には戻らないわ。ずっと強化されたままよ。でも、気を付けて。あまり多用すると、死ぬことになるから」


「死ぬ!?」


 いきなり飛び出た物騒な言葉に、私はすっかり驚いてしまった。


 キメラに対抗できる能力をリクエストしただけなのに、とんでもない能力を私に勧めてくるわね。


「もっと安全な能力はないの? ゲームで命を懸けるとか、勘弁してほしいんだけど」


「紹介しても良いけど、他の能力だと、キメラの力で、かき消されちゃうよ?」


 ぐぐ……、能力を掻き消すなんて、さすがはメインプログラム。うっとうしいチート性能をお持ちね。


「どうして、この能力だけは大丈夫なの?」


 キメラが、このゲームのメインプログラムだから、能力を無効に出来るというのなら、『アップデート』だけ大丈夫というのは筋が通らないわ。


「それはね、この能力が未完成だからなの」


「未完成?」


 イルは言っても良いかどうか思案した後で、話の続きを語ってくれた。


「他にも発動と引き換えに、代償が必要な能力はあるけど、それとの決定的な違いは、現実世界での代償を強要されるということよ」


「現実世界の?」


 仮想現実のゲームの世界で、実際に代償を支払わされるというのは、課金が必要ということなのかな。そういうゲーム、最近はやたらと多いし。


「そんな可愛いものじゃないよ」


 私の推論を聞いたイルが、頭を横に振って否定する。


「この能力の代償として求められるのは、己の寿命だよ」


「寿命……」


 それって、使えば使うほど、歳を取っていくということ? イルに聞いてみると、黙って頷いたので、正解らしい。おいおいおい……。


「さっきは無限に身体能力を上げることが出来ると言ったけど、少し語弊があるね。正確には、自分の寿命が続く限り、指定した身体能力を上げることが出来る能力だね」


 制限付きということね。しかも、その制限というのは、自分の寿命。尽きることは死を意味するという。怖すぎる……。


「ちなみに、どれくらいの寿命を支払えば、どれだけの能力値を上げることが出来るの?」


 それが一番重要。何といっても、実際の年齢を削ることになるのだ。使うとなれば、相当計算して、考え込まなければいけない。そのためには、絶対に把握しておく必要があるわ。


 この質問が飛んでくることは予想出来た筈なのに、途端にイルの顔が見る見る曇っていく。


「分からない……」


「え? 分からないって?」


「使う度に変わるの。発動する度に、身体能力の上昇率と、支払う寿命の量が変動するの。発動と同時に、いきなり寿命を使い切った人もいるし、何回使ってもほとんど歳を取らないで身体能力を大幅に上げることに成功した人もいる」


「そんな……。運任せってこと!?」


 自分の寿命が、秤にかけられるというのに、発動の度に変動するなんて、運任せなんて。いい加減な……。


 でも、今の説明で一つ気になることがあった。いきなり寿命を使い切ったとか、なかなか減らなかったとか、まるで人体実験でもしたかのような口ぶりだ。あまり聞く気はしなかったけど、気が付いたら、勝手に口が動いてしまっていた。


「やったの? 人体実験……」


 気まずそうに、イルが顔を背けた。ああ、そうか。やったのね。実際に人を使っての、人体実験を。


 人体実験なんて、戦前の話とばかり思っていたのに、現代社会で行う阿呆がいたなんてね。


 ショックに打ちひしがれる私に、イルが追い打ちをかけてきた。


「能力の発動と同時に寿命を使い切った人なんだけどね。あれ、お姉ちゃんと同じくらいの男子だったそうだよ。親と喧嘩して家出中で、お金が欲しかったんだって」


「へえ……」


「その他にもね……」


「いいよ。そんな説明しなくても。されたところで困るだけだわ」


 まだイルは説明を続けようとしていたのを、私は手で制した。限界だった。


 何をしているのよ、お父さん。たかがゲームの開発のためにそこまで熱中して……。加減ってものを知りなさいよ。あんた、自分がしていることが分かっているの? ていうか、周りのスタッフも止めなさいよ。お父さんの暴走を許しているんじゃねえよ。


 その説明を受けている時点では、お父さんの目的がお母さんを蘇らせることだと知らない私は、心底呆れていた。


 でも、目的を知った私は、お父さんの気持ちが少しだけ理解できた。おそらく、組成に成功したとしても、お母さんには、決して喜ばれないだろう。それどころか、散々罵った後で、お父さんの元を離れていくかもしれない。それでもお母さんに生きていてほしいと、寝食を忘れて、研究に没頭していたのだ。


 悲しいことだけど、これも一つの愛の形なんでしょうね。


「だからといって、やっていいということにはならないけどね」


 お父さんがどんな気持ちで行っていたにせよ、公になれば、投獄は確実。モルモットの家族からも、執拗に非難を浴びるのは避けられない。


 犠牲になった少年は、どんな気持ちだったんだろうな。自らモルモットになることで、大金を得る筈だったのに、訳が分からない内に老衰で死ぬことになってしまったのだ。もちろん、他の人にしたってそうだ。くだらない実験のために、自分の寿命が削られるというのは、筆舌に尽くしがたい心労があったに違いない。


「それで? そこまでの犠牲を払っておいて、未完成のままなんだ」


 これじゃ、モルモットたちは、全くの無駄死にね。報われないわ。


「データが足りないの。完成させようと思ったら、もう数千人のデータが必要なのよ」


 数千人……。無理ね。それだけの人を動員したら、死人が出なくても、もう隠しきれない。公になってしまう。そして、下手をしなくても、『神様フィールド』自体が中止に追い込まれてしまうでしょうね。


「キメラに勝てるかもしれないっていうのは、能力が未完成だから、向こうがしっかりコントロール出来ないから?」


「うん! 他の能力はちゃんと完成して、メインプログラムであるキメラが管理することが出来るんだけど、『アップデート』だけはキメラも把握しきれていないから、裏を描くことの出来る可能性があるの」


 ただし、本当にかけるかどうかの保証は出来ない訳ね。あくまで出来るかもしれないというだけのふわっとした憶測。根拠がある訳でもない。はあ……、ギャンブルとか好きじゃないのに。


 イルの説明は、一見して、筋が通っているようにも感じられる。でも、解せない点が一つある。


「上手く使えばって言うけど、運動能力をいくら上げても、キメラや黄色のピアス保持者にダメージを与えることは出来ないのよね。それなら、その能力って、避ける専門ってこと?」


 それもそれですごいけど、そんなんで、キメラに勝てるの?


「出来るよ。『アップデート』も『魔王シリーズ』だからね。能力の使用中に限り、攻撃は聞くね。ただし、能力の使用中限定」


 大事なことらしいので、二回言われた。


 そうか。自分の寿命が減っている間限定で、攻撃がヒットするということね。


「で? どうするの、お姉ちゃん。この能力にする? それとも、他の能力にする?」


 ため息をつきたくなるけど、答えは決まっていた。他の能力じゃ、キメラに微笑みながら、打ち消されてしまうんでしょう? だったら、納得していなくても、答えは一つじゃない。


「『アップデート』にするわ」


 ただし、使わないことが前提。ギリギリまで、『スピアレイン』で凌ぐことにするわ。


 その後、『アップデート』を使わないまま、哀藤と御楽を撃破してきたけど、もう潮時ね。心底使いたくないけど、仕方がないわ……。


仕事の都合で、次回の投稿は、明日の23時前後になりそうです。遅くなって申し訳ありません。

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