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第十五話 攫われた小桜

第十五話 攫われた小桜


 親友と一緒に巨大テーマパークの異世界に遊びに来た。


 当初は遊ぶ気満々で、全てのアトラクションを制覇してやるつもりだったが、あまりの規模のでかさに、ジェットコースターだけで断念してしまった。だって、ジェットコースターだけで一時間乗りっ放しなのよ。誰だって、疲れるわ。


 休憩しながら、次はどこに行こうか、所局的に相談していると、瑠花が恐竜の動物園に行こうと言い出した。他に行きたいところもなかったので、瑠花の希望通りに恐竜の動物園に行くことを了承する。


「えへへ! やったわ!」


 希望の通った瑠花は上機嫌にスキップなんかしている。さっきまであんなに疲れた顔をしていたのに、本当に気分屋なんだから。


「これからは毎週来ようか」


 まだ現実世界に戻っていないのに、もう来週の話とは。相変わらず気が早い。毎週異世界に来るか。もう部活の名前も、旅行部から、異世界部に変えてしまった方が良いのではないでしょうか。


 他のダメージを食らう異世界ならともかく、ここならライフピアスが破損してログアウトする心配はない。一度破損してしまったライフピアスは元には戻らないため、それを使って異世界にログインすることは出来なくなってしまう。


 なので、破損することがないというのは、大変ありがたかった。何度でも、半永久的に使えるということだから。


 行くと決まってからの瑠花の行動は早かった。あっという間に、自分の分を平らげると、私と小桜にもさっさと食べるように促した。


 瑠花の様子に呆れながら、急いで残りの食べ物を胃袋に放り込むと、動物園に向けて出発した。


 本当に恐竜ばかりだった。ティラノサウルス、ブラキオサウルス、アンキドンといったお馴染みの恐竜が我が物顔で悠然と歩いていた。


「うはあ! 恐竜さんばかりやな」


 言い出しっぺの瑠花は恍惚の表情で、恐竜に近付いていった。


「ちょっと! そんなに近付いたら危ないよ」


「大丈夫や。ここの恐竜さん、友好的なやつばかりや。全然襲ってけえへん」


 確かに。ここがテーマパークである以上、見世物である恐竜が人を襲うようでいけない。いや、それが分かっていても、そう警戒しないで突っ込めるものではない。現実世界でだって、サファリパークでライオンの群れに走って行かないでしょ。


 短時間で恐竜と仲良くなったと思い込んでいる瑠花は、ティラノサウルスの背中に上って、大の字になってごろ寝していた。


「瑠花ったら、はしゃいじゃって」


「でも、楽しそうで良かったよ。ジェットコースターでお疲れだったみたいだしね」


 今日は遊びに来たのだ。だったら、楽しんだ者が勝ちだ。


 その時、こちらに向けられる視線を感じた。経験上、視線を向けている相手は、あまり良い感情を抱いていない。


「……?」


 危険を感じて振り返ってみたが、誰もいない。視線を感じたと思ったんだけど、おかしいな。


「お~い、何呆けてんねん。早よ来いや!」


「ああ、今行く」


 瑠花に急かされて行くことにしたが、嫌な予感は吹っ切れなかった。


「小桜はメガロドンに、水無月はステゴサウルスに捕まり!」


「いやいや、背中に剣みたいなやつに刺さるから!」


「せ、せめて陸上生物でお願い。ああ! ツッコミを入れている間に、水中に潜って行っちゃった」


 自分だけ楽な恐竜に捕まっているような気がする。そんなことを言うなら、私たちが率先して捕まればいいだけなんだけどね。


「瑠花の乗っているティラノの俺も乗せてくれよ。それくらいのスペースは空いているだろ?」


「は!? 何を言ってるん。このティラノは私専用……」


 必死にティラノサウルスの所有権を主張する瑠花だったが、ここにいる恐竜は全てここの神様の物だから。そういう訳で、瑠花には悪いが、強引に乗らせてもらうことにした。


「じゃあ、私も」


「え? おい! 小桜まで来るなや。うちのスペースがなくなるやんけ」


「そんなことを言わないの。みんなで乗った方が楽しいでしょ」


 結局、三人でティラノの背中に乗ることになった。最初からこうすれば良かったのだ。


 ティラノサウルスの背中越しに見る光景は、一言で言えば圧巻だった。


「やっぱり景色は高いところから見るに限るね」


「うん!」


 三人仲良く肩を並べながら、ティラノサウルスに身を任せて、悠々自適な時間をのんびりと楽しんだ。




「なあ、そろそろ帰らない?」


「何でや? まだこんなに明るいやんけ」


「この世界、ひょっとして暗くならないんじゃないの? 時計を見たら結構な時間になっている」


「え? 本当だ。急いで帰らないと門限が……」


 日が照っているので、まだ昼間だと思っていたのに、もう夜だった。周囲からは、いつの間にかあんなにいた他の客もいなくなっていた。急いで帰らないと私も月島さんに怒られてしまう。


「まだ帰りたくないなあ……」


「そんなことを言わなくても、来週の日曜日にまた来られるでしょ?」


「む~!」


 駄々をこねる瑠花を諌めて、もう帰ることにした。ここは異世界なので、どこにいてもライフピアスを耳から外せば現実世界に戻れる。あとは待ち合わせ場所から家に帰るだけ。何て便利なシステムなのだろうか。


 異世界から出ようと、左耳に手を伸ばした時、異変が起こった。


 突然周りの地面がアリ地獄のように沈んだのだ。


「あ、れ?」


 私たちの乗っているティラノサウルスははまってしまって動けなくなった。それを見計らったかのように、発砲音が聞こえてきた。


 何かの演出かと思ったが、そうではなかった。実際にライフルで襲撃されていたのだ。それは瑠花にヒットした。


「な……!?」


 予想外の攻撃に、瑠花は呆ける中、ライフピアスは粉々に砕けてしまった。さっきまで瑠花の耳に収まっていたライフピアスが地面に落ちる。それは強制ログアウトを意味していた。


 さっきまで瑠花がいた場所を、小桜と一緒に見つめた。だが、そんなことをしている場合じゃないことに気付いた。


 すぐに二発目が飛んできた。それを、小桜を抱えて、寸でのところで交わす。


「な、何? いきなり何なの?」


 さっきまで休日の時間を楽しんでいた小桜は、一変した現実についていけず、パニックを起こしていた。


「はあ、はあ……。怖いよ」


「落ち着いて。ここは異世界だ。ログアウトすればいいだけだ。何も焦ることはない」


 ライフピアスを外すだけでいいのだ。焦らなければすぐ終わる。だが、小桜はすっかり怯えてしまっていて、手元が覚束なく、なかなか外せない。


「俺がやるから!」


 見ていられないので、私が代わりに外してあげようとしたところで、地面が砂に代わってしまった。一瞬、足元が揺れたのに気が散って、手元が狂ってしまう。やり直そうとすると、今度は下から猛烈な突風が巻き起こった。


「何? 何?」


 いきなりのことで何が何やら分からないが、二つ分かったことがある。一つは私たちが今、何者から襲撃されている。そして、もう一つ。こっちが大問題。


 突風のせいで、地面から月煙が撒き上がっているが、この煙、おそらく催眠効果がある。さっきちょっと吸っただけなのに、意識が朦朧としてきているのだ。


 このまま吸い続けて、意識を失ったらまずい。眠らせようとしてくるくらいだ。おそらく私たちを襲っている連中に、寝ている間に縛り上げられて、ログアウト出来ない状態にされてしまう。


「小桜! 急いでログアウトして。出ないと……」


 駄目だ。既に相当の量の煙を吸ってしまっているのだ。もう目がとろんとしていて、意識を失いそうになっていた。


 くそ! こうなったら、私の手で小桜にダメージを与えて、強制ログアウトさせるしかない。ライフピアスは砕けてしまうが、このまま意識を失うよりマシだ。


 だが、敵の方が一枚上手だった。ライフルの次の狙いは私だった。悔しいことに、敵の腕は確からしく、一撃で私はライフピアスを砕かれてしまった。つまり、強制ログアウトだ。


「がっ……!」


 もう完全に意識を失っている小桜が、飛んできたプテラノドンに掴まれているところが見えた。取り返そうと手を伸ばすが、もう遅かった。


 ライフピアスが砕かれてしまった私の体は、異世界から強制的に追放させられていた。


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