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第百四十六話 時間内勝利

第百四十六話 時間内勝利


 御楽の発動した『トリックルーム』という能力。不思議な部屋に閉じ込める力だけど、一定時間が経つと、出られなくなってしまうらしいわ。そんなの冗談じゃないので、本気で御楽を潰しにかかることにしましょう。


 元々、キメラが戻ってくる前に、お父さんのところに行かなければならないと、それなりに焦っていたのだけど、それに輪をかけて焦りを感じることになった。


「ほらほら。早く駆けていかないと、制限時間以内に出られなくなるぞ。残り時間は後いくつだっけなあ? もうのんびりしていられないと思うけどなあ」


 御楽が煽ってくるけど、ここで御楽の挑発に乗って駆けていくようなことをしたら、こいつの思う壺だわ。こういう時こそ、落ち着くのが重要よ。


「何が急げよ。あのドアから外に出ようとしたところで、またこの部屋に戻るように仕組んでいるんでしょ?」


 イタズラがばれたような顔で、御楽が舌を出す。悪いけど、同じ手に引っかかるほど、馬鹿な女じゃないのよ、私は。


「早い話が、あんたを速攻で倒せば済む話でしょ。私の取る行動に変化はないわ」


 そうすれば、この異空間からも、自動的に出られるでしょ。


 得意げに御楽を見るが、挑発に乗るどころか、逆に挑発してきた私のことが気に入らないのか、顔から笑みが消えていた。


「だ~か~ら~! 俺をあまり舐めるなって言っているんだよ!」


 それは私の台詞でもあるのよ。私と御楽の二人で、臨戦態勢に入った。


 双方、己の武器を振り回して、攻撃に移る。でも、やっぱり私の『スピアレイン』の方が速攻に優れていた。


 その証拠に、瞬く間に三人に増えた御楽の内の一人を消滅させた。


「残りは二人よ。降参はいつでも受け付けているから、恥をかく前に計画的に行うことね」


「いやいや。降参している時点で、大恥だろうが!」


 確かにね。敵ながら、見事なツッコミだわ。でも、だからといって、手は抜いてあげない。降参しないのなら、徹底的に叩きのめすまでよ。


 二人の御楽は、同時にかかってくると思ったら、別々に行動しだした。一人が私から遠ざかるように後ずさり、もう一人が私に向かって挑みかかってきた。どっちが本物かは一目瞭然だわ。


「ちょっと! 逃げてんじゃないわよ。大恥をかくのが嫌だったんじゃないの?」


 向かってきた方の攻撃を躱しながら、逃げた方を非難する。


「ふん! 戦略的撤退だよ。そっちのお嬢ちゃんから聞いただろ? 俺の目的は、お前をこの部屋に閉じ込めることだ。だったら、それまで逃げ回るのが一番効率が好いじゃないか」


 くう……。この卑怯者めえ……。


 でも、もう一人の自分に攻撃させて、自分は避難。ムカつくけど、良い作戦だわ。攻防一体ってやつかしら。


 そう思っていたら、もう一人の御楽の持つ鎌が巨大化した。それを間髪入れずに振り回してきたため、避け損なってしまい、腹の辺りをかすってしまった。


 たちまち、ピアスにひびが入ってしまう。


「ね、ねえ。『トリックルーム』って、解除するまで出られないのよね。その状態で、ピアスが砕けたら、どうなるのかしら?」


「制限時間が残っていても、その時点でドアが消滅して、部屋に閉じ込められちゃう。時間切れの場合と同じだよ」


「何それ? 恐い!」


 そんな目に遭ってたまるものですか。見ると、もう一人の御楽が私に追撃を仕掛けてこようとしているところだったので、今度は避けないで、攻撃を受ける前に、『スピアレイン』を十発ほど見舞ってやった。


 十発とも命中し、蜂の巣状態になったもう一人の御楽は、跡形もなく消滅していく。


「さあ、次はあなたよ!」


「うっ……!」


 順調に数を減らしていく私に、さすがに危機感を抱いたのか、御楽は青い顔をしていた。でも、降参する気はないみたいだから、攻撃を続行しましょう。


 さて、問題はここからの行動よ。


 本物のいるところまで移動しようとすると、かなりの時間を弄するでしょうけど、光の槍である『スピアレイン』ならどうかしら?


 私はニヤリとしたり顔をすると、御楽に向けて、『スピアレイン』を放った。


 人の走る速度をはるかに上回る速度で、御楽に向かって、何本もの槍が飛んで行く。やっぱりこっちの方が効率的ね。全て避けきるのは不可能だと判断したのだろう。御楽は早めに逃げることを選択した。


 ただし、普通に背を向けて逃げるのではない。


 横にドアを出現させると、急いで中に入ってしまった。一瞬だけ遅れて、御楽の居たところに、『スピアレイン』の束が突き刺さる。


「ああ、惜しい!」


 地団太を踏んで悔しがる私の後ろに、いつの間にかドアが出現していた。もう開いていて、中から御楽が鎌を振り下ろしながら出てくるところだった。


「ちっ! 外したか」


 間一髪のところで躱されてしまい、今度は御楽が悔しがっていた。


「時間切れになるまで逃げ回るんじゃなかったの?」


「チャンスと見れば、襲いかかるさ」


 く……、逃げたり、挑んで来たり、節操のないやつね。ていうか、背後から攻撃って、卑怯よ。男なら、堂々と前から攻撃してきなさい!


「この戦法、意外に有効かもしれないな」


 私に通用するかもしれないと見るや、部屋中にドアを出現させた。もちろん、その中の一つに、御楽は素早く身を隠す。どこに行ったのかと思えば、向こうのドアから姿を現していた。


 これで、ヒット&アウェイを繰り返して、私を翻弄するつもりなんだろう。本人的には明暗のつもりだろうけど、やらかしちゃったわね。


「こんなもの、私には効かないわよ」


 御楽が逃げて行った後、開けっ放しになっているドアに向かって、『スピアレイン』を見舞ってやった。行先はもちろん一つだ。


「おお! 危ねえ!」


 鎌で辛うじてガードした御楽。上手く『スピアレイン』の一撃を反らしていたけど、甘いわ!


「脇腹がお留守よ!」


 御楽まで距離はあるけど、こう見えて、命中率が高い方なのよ。『スピアレイン』を命中させるのも、訳がないわ。ほとんど間をおかずに、ドアを経由せずに、真正面から『スピアレイン』の二撃目を撃つ。


「く、くそがっ!!」


 自身の体に、『スピアレイン』が突き刺さろうとする直前、根性で槍を受け止める。なかなか粘るわね。思わず感心しそうになるけど、でも、もうおしまい。御楽の体勢は完全に崩れていて、これ以上の攻撃を受けるのはどう見ても無理。この絶好のチャンスをみすみす逃す私ではない。


 開けっ放しになっているドアから、止めとなる、三撃目の『スピアレイン』を放出。御楽も、今度は躱しきれなかったみたいで、まともに『スピアレイン』を食らっていた。連射できる能力のおかげで勝てたわ。


「ドアを出しっぱなしにしたのが運のつきね。いえ、そもそも逃げに徹するべきだったのよ。作戦をころころ変えたのが、不味かったわね」


 敗因は様々あるけど、一番の理由は、私の方が強かったに尽きるわ。


 いざとなったら、奥の手の『アップデート』も使用するつもりだったけど、どうにか温存したままで勝てたわ。


「お姉ちゃん、『トリックルーム』の効力も切れているよ!」


 一足先に、一つだけ残ったドアから外の様子を窺ったイルがはしゃいだ声を出している。これで、またお父さんの所へ向かうことが出来るわ。


 さて、『スピアレイン』をまともに浴びた御楽は、執念深く生き延びていた。ピアスもかなり大きなひびが入っていたけど、まだ致命傷には至っていないみたい。片腕なのに、俊敏に動いてきたし、生命力だけは尊敬するわ。


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