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第百三十話 侵攻宣言

第百三十話 侵攻宣言


 無事に神様ピアスを手に入れて、新しい能力も習得できた。でも、月島さんが、喜熨斗さんと殺し合うことになってしまう。どうして二人が争わなければいけないのかというと、喜熨斗さんがキメラの仲間で、実は敵対関係だったためだ。


 敵対関係でなくても、喜熨斗さんは、月島さんと闘いたかったみたいだけど、命がかかっている以上、厄介だわ。


 そんな私の懸念をよそに、月島さんはロシアンルーレットで勝敗を決しようと言い出した。普通にやれば、月島さんが勝つのに、どうして運に任せるようなことを言いだすのよ。


 不可解な月島さんの行動にやきもきしていると、当の本人が、私に話しかけてきた。


「真白ちゃんはどうする? 見ていても、あまり面白くないから、外で待っていても良いんだよ」


 嫌なら、立ち会わなくていいらしい。月島さんなりに、私のことを気にかけてくれているのだ。そりゃ殺し合いですものね。決して楽しむものじゃないわ。私的には、自分の身を心配してほしいんだけど。


 それに、もしも自分が死ぬことになったら、次は私が狙われることになるのだから、少しでも離れてほしいという意味で聞いてきたのかもしれないけど、それでも、この場から去るのは失礼な気がした。


 私がここにいると伝えようとすると、その前に喜熨斗さんも、からかい半分で、忠告してきてくれた。


「刺激的な映像を拝むことになるからな。外で待つのも良いが、キメラたちの襲撃には気を付けろよ」


「え!?」


 忠告の最後で、キメラの名前が出てきたので、呆気にとられてしまう。どうして、このタイミングでキメラの名前が出てくるのよ。だって、キメラはここに来られない筈じゃ……。


 しどろもどろになる私をニヤついた目で見ながら、補足してくれた。


「何を驚いているんだよ。お前らだって、特殊能力が使用可能になったことを知っているんだろ。あれはな。キメラがこの異世界のルールを書き換えたんだよ。自分の都合の良いように。ここに来るのを躊躇する理由が消えるんだ。そうしたら、またお前を追ってくるに決まっているだろうが」


 正確には、私ではなくて、イルを追ってくる訳ですけどね。


 すっかり忘れていた。キメラがここに来ないのは、特殊能力が使えないから。一度、使えるようになってしまえば、来ない理由はないのだ。


 ていうか、この異世界に起こった異変は、やはりキメラが裏で糸を引いていたのね。おかげで、神様ピアスをゲットすることは出来たけど、あまり気分の良い話じゃないわ。


 状況が変わってきたことに危機感を抱いたのか、さっきよりも真剣な声で、月島さんは私に闘争を勧めてくる。


「真白ちゃん。ここは俺が引き受けるから、君はイルちゃんを連れて早急に移動するんだ」


 月島さん。私が逃げられるように、先に逃がす気ね。そして、喜熨斗さんとの戦いが終了したら、私を追って来てくれる訳か。


 この展開、ちょっと前にもあった気がする……。確か時間的には、まだ一日も経過していない。


 私だって、ここに留まったままなのが、いかに危険なことかは分かっている。でも、逃げろって言われても、どこに逃げればいいのやら……。


「ねえ、イル。この異世界の他に、キメラがやってこない世界ってないかしら」


 一縷の望みをかけて、イルに聞いてみたが、もうないというつれない返事があったのみだった。


 肩を落とす私に、イルが現在怒っていることを手短に話してくれた。


「キメラね、おそらくマスターに力を貸してもらっているよ。この異世界の、特殊能力を禁止する力が突然失われたのだって、その一環だね。そんなことが出来るのは、マスターくらいのものだもん」


 マスターというのは、このゲームの開発者である、私の父親のこと。キメラのやつめ。自分の力じゃ、苦しくなったからって、一度眠らせたお父さんに泣きついた訳? どこまで身勝手なのよ。


「キメラに出来ないことはあっても、お父さんにはないからね。そのお父さんの力添えがある以上、安全な隠れ場所なんて、もうないよ」


 イルの言葉は説得力を持っていた。となると、どこに逃げても、遅かれ早かれ追いつかれるってことじゃないの。


「お姉ちゃん。ここから離れない方が良いと思うよ。強いお兄ちゃんと一緒にいる方が襲われた時に、抵抗できるから」


 確かに私一人で逃げても、どうせ追いつかれるのは時間の問題。私一人しか戦えない状態で、キメラたちからリンチを受けたら、まず確実に負けるわね。それなら、月島さんと共同戦線を張る方がよほど利口だわ。相変わらず現実を見ているじゃない、イル。


 でも、私の考えは少し違うのよね。イルからキメラがお父さんに力を貸してもらっているという話を聞いた時から、あるアイデアが、頭に浮かんでいたのよ。


「ねえ、イル。マスターに会いたくない?」


 イルの作り主でもある、私のお父さん。いくら殺されそうになったといっても、本音は、今でもお父さんを慕っているらしく、イルは大声で「会いたい!」と叫んでいた。決まりね。


 いきなりこいつは何を言い出しているのだろうかという顔で、私を見ている月島さんたちに、これからキメラが拠点にしている異世界に向かうことを告げた。


「だって、どううまく逃げても、最終的には捕まるんでしょ? それが分かっているのなら、不毛な鬼ごっこなんて、時間の無駄です。成功するかどうか分からない奇策に運命を委ねている方が賢い選択です。という訳で、私はイルを連れて、キメラのアジトに向かいます」


 何となく自棄になったと思われがちな台詞だが、私の考えている作戦の中では、これが一番キメラに勝つ可能性が高いのだ。


 そんな私の決意を、喜熨斗さんが讃える。


「どうせ、いつか追いつかれるのなら、こっちから攻める訳か。さすが月島の義妹! 肝が据わっているぜ」


 喜熨斗さんからは度胸があると褒められたけど、月島さんは呆れた様な顔で終始見つめられた。月島さんは、私がキメラのアジトに向かう理由を見抜いているようね。さすが、私の義兄!


 私がキメラのアジトに向かう理由というのは、他でもない。キメラをどうにかしてもらおうと、お父さんにお願いするためだ。可愛い、可愛い、愛娘から、涙ながらに頼まれれば、お父さんだって聞き入れてくれる筈。そして、最高責任者を敵に回したキメラは、無残に消滅していく。うん、完璧な作戦だわ。


 キメラだって、逃げる私を追うことばかり考えているから、まさか自分のところに逃げ込んでくるとは思っていないでしょう。確実に裏をかける筈よ。


「やれやれ。どんな罠が仕掛けられているかも知れたものではないのに、俺の義妹ながら、ずいぶん無謀なことをするね」


 「誰に似たんだろうね」とも言っていたが、少なくとも、月島さんの血気が幾分か伝染しているのは間違いないですね。


 こんなことを思われているとは知らず、月島さんはため息をついて、仕方なさそうに呟いた。


「でも、可能性はなくもない」


 何だかんだ言いつつも、私の賭けに賛成してくれた。


「おいおい。ずいぶんいかれた作戦を実行しようとしているが、一つ忘れていないか? あの異世界は、キメラに招かれたやつしか行けない」


「あ……」


 しまった。肝心なことを忘れていたわ。どうしよう。こっちから攻めるとか、格好いいことを言った後だけに引っ込みがつかないわ。


 全身から冷や汗が噴出して、見るからにてんぱっている私を見かねたのか、喜熨斗さんが救いの手を差し伸べてくれた。


「ほらよ!」


 喜熨斗さんが手を振る動作をしたかと思うと、空間に亀裂が入って、ボロボロと崩れ出した。その向こうに見えていたのは……、キメラのアジトがある異世界だった。


「うおおっ!!」


 私にとっては、願ってもないプレゼントに、私は興奮のあまり、声を上げてしまった。


「あ、あの……、ありがとうございます」


 私を本気で殺そうとしていた人にお礼を言うのは、変な気もしたけど、世話になったのも事実だし、細かいことは置いておきましょう。喜熨斗さんは月島さんだけを見据えているけど。その月島さんは、楽しそうに喜熨斗さんをからかう。


「いいのか? キメラにばれたら殺されるぞ?」


「知るか。俺は愉しいのが好きなだけだ」


 とんでもないことを言っている気がするけど、私は前に進むだけよ。イルの手を握って、未来に向かって、一歩を踏み出すことにした。


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