第十三話 異世界テーマパーク
第十三話 異世界テーマパーク
異世界で探索中に、ごろつき三人組に絡まれるという、あまりありがたくない経験をしてしまったが、謎の女性に助けられた。女性の助けがなくても、自力でどうにか出来たが、ちゃんとお礼は言った。
深く被っていたフードのせいで、女性の顔は確認できなかったが、乙女の勘で美人の部類に入ることは分かった。
ともかく大事に至らなくて良かった。
無事に危機を回避出来たことで、それで終了といきたかったのだが、私に絡んでいた男の一人が、女性のことをキーパーと呼んでいたのが気になった。
牛尾さんなら、知っているんじゃないかと思い、異世界から戻るとすぐに彼女の元へと向かう。
「キーパーって何ですか?」
挨拶もそこそこに、牛尾さんに質問をぶつけた。
「お前みたいなやつ」
私の投げた質問を華麗にスルーするように、説明を一言で片づけてしまった。そして、もう説明は終えたとばかりに、研究に戻ろうとする牛尾さんの肩をがしりと掴む。
「いやいや、何の説明にもなっていませんから」
「? 今ので十分なんだけどな」
「ちんぷんかんぷんです。私に分かるように噛み砕いて説明してください」
明らかに面倒くさそうにしていた牛尾さんを根気よく説得して、追加の説明をさせることにした。
「お前がこの間、私に見せてくれた姿があっただろ?」
この間というのは、お願い事を聞いてもらう代わりに、面白いものを見せてやると、黄色のピアスの力でログインした時のことを言っているのだろう。
「あの時はデータが足りなくて、不覚にも驚いてしまったが、あの時のお前もキーパーだったんだぞ」
「え? そうなんですか?」
「おい、そこはもっと強く揉め」
「あ、すいません……」
指摘を受けたので、牛尾さんの肩を揉む力を若干強めた。追加の説明をしてもらう代わりに、肩揉みをさせられているのだ。
「一言でいうとだ。黄色のピアスの力でログインして、特殊な力が使用可能になったプレイヤーのことをキーパーと呼んでいるんだ」
何だ。もう私が手にしている力だったのね。必要以上に心配しちゃって損したわ。都市伝説っていうから、悪魔みたいなものを想像していたんだけど、肩透かしもいいところね。
「じゃあ、黄色のピアスさえ手に入れば誰でもキーパーになれるんですね。都市伝説って言うから、どれほどの物かと思えば、たいしたことなさそうですね」
「そうでもないぞ。他のピアスと違って、黄色のピアスは誰でも使えるという訳ではないからな」
牛尾さんによると、私の持ってきた黄色のピアスを使って、何人かが異世界にログインしようとしたのだが、ことごとく失敗に終わったらしい。何か特別な資格が必要なのかもしれないと、牛尾さんは説明を締めくくった。
「まだまだ分からないことだらけですね」
知れば知るほど、新しい事実が判明してくる。一体、異世界には、私の知らない謎がどれほど残っているというのだろうか。
「うむ! だが、いずれは私が全て解明して見せる」
「頼もしいお言葉です」
もちろん、私も尽力するつもりだ。私の体と、お父さんがかかっているのだから。
「そう言えば、絡んできた連中から奪ったというパスカードはどうするんだ?」
「ちょうど三枚あるので、学校の友達と使うことにします」
「でも、ガラスの世界なんて行ってどうするんだ? 加工してアクセサリーでも作るのか?」
「違いますよ。あいつらが落としていったのは、別の世界へのパスカードです」
しかも、今話題になっている異世界のものだ。素行不良の連中にしては、なかなかのものを持っていたじゃないか。
もちろん、一緒に行く友達というのは、瑠花と小桜だ。旅行部の活動範囲を異世界に広げると宣言していたし、さぞ喜ぶことだろう。
実際、瑠花と小桜に、異世界にログインできる専用パスカードを見せると、飛びあがらんばかりの勢いで喜ばれた。
「どうやって手に入れたんですか? 確か一枚十万円ですよね」
一回の高校生には手の届かない値段だ。そんなものを三枚も持ってきた私に、興味と不信感が混じった質問が飛んできた。
「知り合いからもらったんだよ。現実世界で満ち足りた生活を送っているから、自分はいらない。お前が友達と言ってきなさいって」
そのまま正直に説明しても、信じてもらえそうにないので、作り話をした。だが、言ってから思ったが、ひどい説明だな。
「何や、嫌味なやっちゃな。まあ、有り難く使うけど……」
私の説明を真に受けた瑠花が微妙な顔をしていた。こんなの嘘に決まっているでしょ、本気で気分を害さないでよ。
「しかし、異世界へのパスカードを手に入れてくるとは、たいしたもんや。もう、水無月くんが部長でええんとちゃうの?」
「おいおい、パスカード一つで大げさな! って、おい。キスするな」
喜びの余り、瑠花にキスされてしまった。瑠花からすれば、男に対するサービスみたいなものだが、親友からキスされた私の心中は、とても複雑だった。
「ふふふ。水災害くんをスカウトした私の目に狂いはありませんでした」
「水無月だって。どんどん正解から離れていってないか?」
もう同意を得ないで、入部させられていることには突っ込まない。もういいや、旅行部で。
「それじゃあ、早速次の日曜に行きましょうよ」
「そうやな。ああ~、どんな世界なんやろ。今から楽しみやわ」
とんとん拍子で話は進み、今度の日曜に行こうということで、まとまった。
そして、日曜日。学校の前に一度集合した私たちは、異世界にログインしようとしていた。
しかし、そこに邪魔するように電話が入った。こんな時に誰だと、ちょっとムッとしながら、出てみると、月島さんからだった。
「はい、真白です」
「あ、真白ちゃん。今、ちょっといいかな?」
これから遊びに行くところなので、本当にちょっとにしてもらいたいと思いつつ、大丈夫だと答えた。
「牛尾から聞いたんだけど、友達と異世界に行くんだって?」
「はい、ちょうど今から行くところです」
月島さんには今日異世界に行くことは伝えていなかった。どうせ異世界には散々行っているのだから、今更断るまでもないと思ったのだ。
それがこのタイミングで電話してくるとは、どうしたんだろうか。まさか、自分も連れて行けとか、言ってこないわよね。
「真白ちゃんが今日行こうとしている異世界なんだけどさ」
「はい、テーマパークの世界みたいで、巷で大人気らしいですよ」
これから行こうとしているのは、大胆にも異世界まるごとテーマパークにしてしまったという世界だ。だから、いつもと違って、危険なことなど何もない筈なのだ。
「最近、その世界で良くない噂が聞こえてくるんだよ。巻き込まれたら危ないから忠告しておこうと思ってね」
噂? どんなのだろうと気になりかけたが、そこで向こうで待っていた瑠花から催促された。
「水無月、行くで~!」
「あ、今行く。という訳で、月島さん。話の続きは異世界から戻ってきてからということで。すいません!」
電話口で月島さんが慌てて話を続けようとしていたが、親友を待たす訳にもいかない。自分から電話を切る無礼を謝ってから、通話を終えた。
これから行く世界の悪い噂も気になるが、私たちは一日楽しく遊んでくるだけなのだ。それだけで危ない目に遭う訳ないでしょ。
後で思えば、久しぶりに親友と遊びに行けるということで、浮かれていたのかもしれない。明らかに警戒心を欠いた考えだった。それが後に重大な事件に繋がってしまうことをこの時の私はまだ知る由もなかった。
「誰からの電話だったの?」
「知り合いの年上男性!」
「何や。その言い方、めっちゃ怪しいわ~」
瑠花に月島さんとの仲を茶化されたので、自分のそういう趣味はないとはっきり否定しておいた。
また月島さんから電話がかかってくるのも嫌だったので、念のために携帯電話の電源も切った。準備が整ったところで、私たち三人は、異世界にログインした。
最近執筆していて思うんですが、前作に比べて説明がやたら多いですね。ちょっと分かりづらくなっていないか心配です。もし、ここが分かりにくいというところがあれば、お手数ですが、お知らせください。