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第百二十九話 アップデートの誘い

第百二十九話 アップデートの誘い


 苦労の末、神様ピアスを手に入れて、新しい能力を得ることが出来るようになった。でも、それと同時に、喜熨斗さんと殺し合うことにもなった。


 殺し合いは、月島さんが私の代わりに請け負うと申し出てくれたけど、だからといって、安心できるものでもないわ。


「月島さん。やっぱり大事を取って、新しい能力を習得しておいた方が良いです。この勝負に負けたら、死ぬかもしれないんですよ?」


 一度は拒否されたが、再度神様ピアスを、月島さんに渡そうとする。喜熨斗さんには悪いけど、月島さんに死んでほしくない。だから、能力で強化して、少しでも勝率を高めてやりたかったのだ。


 何が何でも受け取ってもらおうと、身を乗り出して迫る私に、月島さんは困ったような表情で答えた。


「真白ちゃんの気持ちはありがたいんだけどね。自分の親友を殺すために強くなるというのもね。あまり気が進まないんだよ」


 これから殺し合う喜熨斗さんのことを、まだ親友と呼んでいることにも驚いたけど、その一言には、説得力を感じてしまった。それがネックになってしまい、月島さんを説得するのを諦めた。だからといって、新しい能力の習得を止めるほど、私たちに余裕はないので、結局、私が能力を習得することにした。


「どんな能力がいい?」


 私が能力を得ることを申し出ると、イルは早速リクエストを聞いてきた。でも、どんな能力を得るべきなのかしら。


「そうね……」


 習得できる能力のカタログでも出してくれれば助かるんだけど、申し込んだところで、そんなものはないと、何故か自信たっぷりに拒否されるのよね。じゃあ、口で説明してといっても、面倒くさいとぐずるし。肝心なところで、手に余る子なのよね、イルって。お父さんも、この子のこういうところに辟易して、見捨てたんじゃないかしら。


 とりあえず記憶を整理する。私の知っている未習得の『魔王シリーズ』の能力は、『最終審判』と、揚羽の使っていた金髪人形。あと、お姉さんの使っていた緑のナイフね。う~ん、どれを習得しても、キメラに勝てそうな気がしないわ。


「キメラと同等の力を持てる能力がいい」


 回答に窮した私は駄目もとで、こんなリクエストを出してみることにした。月島さんはストレートすぎると苦笑いしていたが、喜熨斗さんは大口を開けて大笑いしていた。


「そんな都合の良い能力はないよ。能力一つで、メインプログラムと肩を並べようなんて、虫が良すぎるね」


「ぐ……」


 私の試みは、年上のような口調のイルに諭されてしまって失敗に終わる。駄目もとだったとはいえ、正論で言われると、へこむものがあるわ。


 でも、ここで仕方なく既知の能力をもらうのも、値切られた感じがして嫌だわ。


「じゃ、じゃあさ。イルが渡せる能力の中で、私がキメラと闘う際に、役立ちそうなものを頂戴よ」


 幸いにも、この聞き方は有効だったらしい。イルは、ちょっと頭を捻っていると、一つの能力名を告げた。


「『アップデート』はどうかな?」


 『アップデート』……。何かすごそうな名前ね。名前から推測するに、能力を大幅に強化する能力かしら。


「それを使えば、キメラにも勝てるの?」


「上手く使えばね」


 何か思わせぶりな態度ね。怪訝に思って詳細を尋ねてみると、イルは快く私にだけ聞こえるように丁寧に説明してくれた。不思議そうにこっちを見る月島さんたちをよそに、しばらく真剣に耳を傾けるが、その後に出てきたのはため息だった。


「……なかなか面倒くさい能力ね」


 それが説明を聞き終えた私の口から出た言葉だった。


「使いこなせば最強を誇るでしょうけど、使い勝手が少し悪いわ……」


 イルは弁解染みたことを口にしているけど、……悩むわ。


「おいおい。俺はあまり気が長くないんだから、焦らすんじゃねえよ」


 なかなか決断を下せない私を、喜熨斗さんが急かしてきた。喜熨斗さんは敵だから、私が強くなるのを、本来なら妨害しなければいけない立場の筈。こっちの都合など、お構いなしで、襲いかかってきても良いのに(というか、むしろそうすべき)、わざわざ待ってくれるなんて、喜熨斗さんは自分が思っているより、よほど気が長いわ。


 しばらく考え込んだけど、最終的に『アップデート』を習得することにした。単純に攻撃するだけなら、『スピアレイン』を既に所持している。同じような能力は、二つもいらない。あまり多用は出来なくてもいい。切り札になりうる能力が欲しかった。


「それでいいわ。この神様ピアスと交換でお願い」


「ほ~い!」


 私から奪い取らんばかりの勢いで、私の差し出した神様ピアスを掠め取ると、一心不乱に咀嚼しだした。


「おうおう。美味そうに食うねえ。神様ピアスって、そんなに美味なのか?」


 イルの至福の表情を見ながら、喜熨斗さんが感心しているが、少なくとも人間の食べ物ではないわね。そもそも噛み砕けないわ。


 ピアスを腹の中に収めると、約束通り、私に新しい能力をくれた。勢いで選んじゃったけど、実は使いこなせるか、まだ不安だったりするのよね。


「さてと……」


 さっきまでの恐いながらも、フレンドリーに接してくれた面影は急激になくなっていき、対照的に、眼に殺気が宿っていく。


「真白が新しい能力を手にしたことだし、そろそろ始めようか……」


 この人、心底戦うのが好きなのね。この瞬間を心底心待ちにしていたのか、全身から限りなく殺気の洪水を放っている。


 喜熨斗さんから殺気を向けられている月島さんは、落ち着いた顔で言い切った。


「そうだな」


 これから命のやり取りをするとは思えないくらい軽い表情をしている。そんな訳はないんだけど、これから殺し合いをすることを分かってないんじゃないかとすら思ってしまうほどだわ。


「殺し合いを始めるに至って、ルールを説明しようか」


「なるべく簡単に頼むぜ。俺はあまり頭が良くないんでな」


「心配するな。お前もよく知っている危険な遊びだ」


 月島さんの手に立派な装飾銃が出現した。イルに聞いてみると、神様ピアスと引き換えに、月島さんに習得させた能力らしい。ということは、これも『魔王シリーズ』に属する能力なのかしら。頻繁に発砲する月島さんには、ピッタリの能力ね。


 その拳銃から、弾を五発抜き取りながら、語りかける。


「これで雌雄を決しないか」


「……ロシアンルーレットか」


 ロシアンルーレットって、弾を一発だけ装てんして、順番に引き金を引いていき、不運な人間が死ぬまで続けるという度胸試しじゃないの。


 ポカンとする私をよそに、月島さんは皆まで聞かずとも、月島さんの言いたいことが分かったらしい。この息の合い方を見ていると、これから殺し合うのが、本当にいたたまれない。


「俺は殴り合いでも構わないんだが、そういうのも一興だ。その勝負、受けて立とうじゃねえか」


 一瞬、呆けた喜熨斗さんだったが、すぐにまた愉しげな顔に戻り、月島さんの提案を二つ返事で了承した。ただ一人反対したのは私だ。


「で、でも、それだと、運で決まっちゃうじゃないですか。何というか、理不尽です……」


 正々堂々戦えば、月島さんは、誰にも負けないのに、どうして不利になるような提案をわざわざするのか分からないわ。


「真白ちゃん。世の中、そんなものだよ。君だって、そんなことを何度も経験してきたんじゃないか?」


 確かに。キメラに体を盗られたこと。連続殺人鬼に、たいした理由もないのに、命を狙われたこと。萌が眠ったままになっていること。理不尽な状況など、上げていけば切りがない。


 でも、だからといって、自分から理不尽な状況に追い込むことはないではないか。


 食い下がる私の頭に手を置いて、月島さんは優しく微笑んだ。


「心配するな」


 そんなこと言ったって……。


 不安が止まらない私に、背後から喜熨斗さんが話し出した。


「分かっているぜ、月島。ただのロシアンルーレットじゃないんだろ、これ」


「そりゃそうだ」


 俺は何でも見抜いていると言う顔の喜熨斗さんに、月島さんがニヤリと笑う。また私だけが蚊帳の外に置かれてしまった。こうなると、月島さんの「心配するな」を期待するしかない。


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