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第百二十八話 約束の時

第百二十八話 約束の時


 ドレスの隙をついて、神様ピアスを奪取することに成功した。腹いせともとれる攻撃を仕掛けてきたけど、それも無事に躱したわ。


 その後、追撃が激しく来るかと思えば、神様ピアスを取られたのに、ドレスはまだ優雅に椅子に座っていた。消滅する気配もない。


「これを取ったら、消滅すると思っていたのに、意外にしぶといのね」


 生命力には脱帽するけど、あなたの相手にも、もう飽きたのよ。だから、この一撃でさっさとやられて頂戴。


 神様ピアスの加護がもうないから、無敵状態も解除されているだろうと、警棒で思い切り叩いてやったけど、手ごたえは相変わらずなし。


「おかしいな。もう神様ピアスは持っていないから、攻撃は通る筈なんだけど……」


 月島さんも首を捻っている。終いには、私が手加減したのではないかと疑う始末。ついムキになって、本気で叩いたといってしまったわ。


 でも、それなら、どうしてこいつには攻撃がヒットしないのよ。ここまで攻撃が効かないとなると、しぶといを通り越して、ウザったく思えてくるわね。素直にやられてくれればいいのに。


 地団太を踏んで悔しがっていると、ドレスが、次は私の番だとでも言いたげに、攻撃してきた。


 今度は私だけでなく、月島さんとイルにも、シャボン玉を飛ばしている。神様ピアスを取られて怒ったのかしら。手当たり次第ね。


「無駄よ!」


 神様ピアスの力で、全員の前に壁を出現させた。直進するしか能がないシャボン玉は、次々と壁に当たって爆ぜていった。


 確かシャボン玉の向きを変えることも出来た筈だけど、それをやらなかったということは、こいつ、あまり頭が良くない?


「なあ、真白ちゃん。そのドレスにご執心なようだけど、もう行かないか? そいつもここからは出られないようだからさ。倒せなくても、特にいいんじゃないのか?」


「む……」


 この小生意気なドレスを倒せないのは不本意だけど、月島さんの言うことも一理あるわね。こいつをどうしても殺さなきゃいけない理由もないし、この後の喜熨斗さんとの戦いの方が、私たちには重要事項だものね。


 月島さんのアドバイスに頷こうとした時、何か雰囲気が変わったのを感じた。


 何の雰囲気が変わったのかと言われても、上手いことは言えない。強いていうのなら、空気が変わったとでもいうのかしら。それも、この場の空気というより、この異世界全体の空気が変わったような感覚がしたの。


「キメラ……」


 イルが遠い目で、自分を殺そうとしている兄を想い、呟いていたけど、私は聞こえていなかったので、スルーした。


「お姉ちゃん。このドレスを倒したがっていたみたいだから、教えてあげるけど、もう大丈夫だよ」


 場の雰囲気が変わったことに呆然としている私に近付いてくると、イルがそっと教えてくれた。


「大丈夫って、何が? そもそも能力が使えないのに、こいつをどうやって倒すというの?」


 私が質問すると、イルは簡単なことだと言った。


「能力を使えばいいんだよ。私がお姉ちゃんにあげた能力をね。それを使えば、こんな衣服、一発だよ!」


 能力が使える? 何度試してみても、ここに来た途端に、ぱったり使えなくなった能力が使える?


「嘘だと思うのなら、試してみて。絶対に使えるから」


 絶対にですか。たいした自信ね。イルがただの子どもだったら、一笑に付すところだけど、いいわ。あなたの言葉を信じてあげる。


 私は一呼吸すると、意識を集中した。すると、全く使えなかった能力が苦も無く発動できた。


「あれ? 使える?」


 驚く私の横で、イルが得意げにほほ笑んでいる。


「どういうことだ? どうして能力がいきなり使えるようになったんだ?」


 私と同じ疑問を持った月島さんが、イルに問いかけた。それに対し、「この世界のルールが変わったから」という、何とも中途半端な回答を返す。もちろん、そんな回答で分かる訳もない。私も、月島さんも、きょとんとして、互いの顔を見合わせた。


 まあ、いいわ。細かいことは分からないけど、私たちに有利な状況なのは、確かなようね。


「よく分からないけど、使えるのなら、それでよし。細かく考えることは止めましょう。という訳で、覚悟しなさい」


 したり顔で、ドレスの方を向くも、やつは相変わらず余裕の仕草を崩さない。奥の手があって余裕というよりは、単に恐怖の感情が欠落しているだけのよう。それでも、ただやられるだけということもなく、能力の炎を呼び出して、私に攻撃してきた。


 炎をあっさり躱すと、お返しに『スピアレイン』を放ってやった。光の槍が、ドレスの生地を焦がす。この攻撃は有効なようね。


 ドレスはまた、炎を呼び出してきたけど、そんな攻撃は私には通用しないわよ。どうやら『魔王シリーズ』の能力までは使えないようね。特殊能力で攻撃された時は驚いたけど、そういうことなら、こっちのものよ。私は『スピアレイン』を続けざまにドレスに見舞ってやった。


 自分の運命を悟ったのか、ドレスは最期には抵抗することを止めて、ティーカップを手にしながら、消滅していった。まるで本物の貴族みたいに、誇り高い塵際だったわね。そこだけは買ってあげる。


 面倒くさいドレスも始末できたし、目的の神様ピアスも入手出来たので、私たちは広間に戻ることにした。


「よお。無事にお宝を手に入れたようだな」


 一足先に探索を終えた喜熨斗さんが、まさしく首を長くして、私たちを出迎えてくれた。この後、殺し合いさえ待っていなければ、手を上げて喜んでいるところなのに、全く惜しい展開だわ。


 喜熨斗さんの方は外れだったらしく、手ぶらだった。この人のことだから、代わりにだいぶ暴れたんでしょうけどね。そのためか、無駄に爽快な顔をしていた。


「おら。お宝を手にしたんだから、さっさと強くなれよ。そして、俺と闘おうぜ」


 お預けを食らっている犬のように急かしてきた。こっちでも、イルがさっきから神様ピアスを、涎を垂らしながら、凝視している。あなたたち、節操がなさすぎよ。


 でも、神様ピアスをイルに渡して、新たな能力をもらったら、月島さんと喜熨斗さんが戦うことになる。そういう流れを嫌でも思い出すわね。


「月島さん。これはあなたが使ってください。この後、戦うのは月島さんですから」


 当初は、私がパワーアップする予定だったけど、事情が変わってしまった。どう考えても、この後戦闘を控えている月島さんを強化するのが筋というものだ。


 でも、月島さんは受け取ってくれない。今のままでも、勝てるという自信の表れなんだろうけど、それだと私の気が済まない。


「いや、本当に要らないって。俺と喜熨斗がこれから戦うのに、新しい能力は必要ないから」


「ほお?」


 俺を舐めるなと怒鳴っても良さそうなのに、喜熨斗さんは興味深そうに唸った。


「喜熨斗! 悪いけど、ルールはこっちで決めさせてもらうぜ。異論は許さない」


「ふん! 異論を挟んでも、挟まなくても、どっちにせよ、殺し合いになるんだろ? でも、いいぜ。好きにしろよ」


 ドレスと対峙している時に、月島さんが何かを閃いていたようだけど、それが名案であることを心底願うばかりだわ。もうこうなったら、あなたにお任せしますからね。頼りにしちゃいますよ!


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