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第十二話 黒い霧

第十二話 黒い霧


 久しぶりに行った学校で、百木真白の時に親友だった小桜から入部を勧められた。現在部員が二人しかいない状態なので、勧誘にも力がこもっていた。


 親友の頼みに、私が入るかどうか考え込んでいると、もう一人の部員である瑠花もやってきた。


「瑠花ちゃん、待望の新入部員がやってきたよ」


「ほんまか!」


「いや、まだ入るとは言っていないから」


 いつの間にか入部したことにされてしまっている。


「誰かと思えば、転校生やないか!」


 私の顔を見ると、瑠花が嬉しそうに笑った。転校初日に睨まれてしまって、それが元で嫌われていないか冷や冷やしていたので、内心ホッとした。


「しばらく二人の状態が続いていたけど、やっと新しい部員が増えたわ。仲間は多い方がええからなあ」


 瑠花の発した仲間という言葉に、思わず全身が身震いしてしまう。私は、この二人と、数か月前まで紛れもなく親友だったのだ。その時に戻れたような気がして、心が躍ってしまう。余りにも嬉しくて、自分が入部したことにされていることへのツッコミが遅れてしまった。


「旅行に行く時以外はすることもない緩い部活だから、気後れすることはないよ。よろしくね、水たまりくんが入ってくれたおかげで、また三人の状態に戻ったよ」


「水無月ね……」


 また間違えられた。悪気がないのが、唯一の救いだが、そろそろ覚えてほしいな。というか、まだ部活に入ると言っていないから。だが、二人はノリノリで私の代わりに、入部届を書き始めた。うう……、入ると一言も言っていないのに、二人の強引さに押し切られてしまった。




 二人と別れると、私はすぐに学校を出て、異世界にログインした。


 この日にログインした異世界は全てがガラスで構成されている世界。地面も建物も見渡す限りガラスばかりだ。道を歩いていると、木の形をしたガラスまで出てきた。


 まだこの世界の神様ピアスは発見されていないので、キメラ探しと並行して、探索を続けている。


 しかし、こうガラスばかりだと、神様ピアスを探し出すのも一苦労だ。しかも、神様ピアスと同じ青い色をしたガラスがかなりあり、見分けがつきにくい。


 せめて神様ピアスを探知するレーダーでもあれば、楽に探し出せるのに……。


 ハッキリ言って、床に落ちた針を探すような作業で、しらみつぶしに探す羽目になった。実を言うと、この世界の探索を始めて、もう一週間なのだ。だが、成果が上がらないことに業を煮やして、あと三日探して神様ピアスが見つからなければ、別の世界に移ろうと思っていた。


 この日の私には運があった。ようやく神様ピアスを発見したのだ。ガラスで出来た女神像の首に大事そうに掛けられていた。


 もう半分駄目だと諦めていたところだったので、発見した瞬間、飛び跳ねて喜びを爆発させた。


 苦労が報われたのを感じながら、神様ピアスに手を伸ばした。だが、そこで思わぬ邪魔が入ってきた。


「は~い、そこまで!」


 声をかけられたので、振り返ると、そこには明らかに不良という男が三人立っていた。


「悪いんだけど、その神様ピアス、俺たちの物なんだよね。勝手に取らないでくれる?」


 勝手なのは、お前らだろう。要するに、自分たちが取るから、お前はすっこんでいろと言いたいのだろう。神様ピアスは早い者勝ちの筈だぞ。


「あなたたち、ハンター?」


 ハンターと言うのは、未開の異世界に侵入して、神様ピアスを回収して売り払うことを生業にしている連中で、私も実際に目にするのは初めてだった。


「そうだよ。俺たちのことを知っているのなら、話は早い。その神様ピアス、譲ってくれるよね」


 ニヤニヤと人を馬鹿にしたような薄ら笑いで、ふざけたことを言ってくれる。


「そんな要求に素直に従うとでも思っているの?」


「くくく……。素直に従わなかったら、強引にもらうだけだよ。言っておくけど、逃げられると思わないことだ。君がログインした場所もチェックしていたんだから、現実世界で痛い目を見てもらうだけだから。そうなる前に穏便に済ませた方が良いよね」


 良くないわよ。結局、あんたたちの丸儲けじゃない。


 異世界にやってくる人間が増えたせいで、こういう連中も出てくるようになった。しかも、ずっと人の後ろを付けていたなんて、腹立たしい話だわ。次からは異世界にログインする場合はもっと気を付けないと。


「おい! 俺たちの話を聞いてんのか? 何、考え込んでんだ、こら!」


 今まで黙っていた男が怒鳴ってきた。なるほど。最初は真ん中の男が丁寧な口調で話しかけて、相手が自分たちの意にそぐわないと見るや、他の二人が威圧的な態度で脅しにかかる。なかなか役割分担がしっかりしているじゃないか。まあ、所詮は下衆だけど。


 とにかく今はこの状況をどうにかしないといけないな。牛尾さんに作ってもらったアレがあるから、ここで撃破するのは容易い。だが、こいつらは私がログインしている場所を知っているから、そこで待ち伏せして報復に出てくるに違いない。いや、既にこいつらの仲間が待機している可能性も高い。


 だから、まずはこいつらより先に異世界からログアウトして、現実世界でこいつらを迎え撃つ必要がある。


「そろそろ返事を聞かせてもらってもいいかな?」


 口調こそ丁寧だが、目が座っていた。断ったらただじゃおかないという雰囲気を放っている。


 もちろん、そんな脅しに引っかかる私ではない。


 「この神様ピアスは私のものだ。お前らはその辺の石ころでも拾っていればいいんだよ!!」。良し、喧嘩を吹っかける言葉はこれでいい。男たちの表情が凍りついたと同時に、ログアウトして、現実世界で叩きのめしてやる。


 だが、開戦の言葉が私の口から出る前に、事態が動いた。


 私たちの間に、頭からフードをすっぽりかぶった女性が割って入ってきたのだ。男たちと会話に夢中になっていたというのもあるが、気配がまるで感じられなかった。まるで、私たちの間に瞬間移動してきたような感じだった。


「ん? 何だ、お前は。俺たちは話し合いをしているんだ。どこかに消えろよ」


 脅し役の男は、わずかに震えた声だが、それでもむりやり凄んだ声を出して、威嚇を続けている。


「まあまあ、いいじゃないか。鴨は多い方が」


 丁寧な口調の男は、ただ一人冷静さを保っていた。おそらく三人組の中でリーダー格とみて、間違いあるまい。しかし、目についた者は、片っ端から獲物にしていくとは、口調とは裏腹に見境のないやつだ。


 男の言葉は女性にも聞こえたらしく、侮蔑を含んだため息をするのが聞こえてきた。それが男たちの癪に障ったらしい。すぐに女性に対して、服を全部脱いで、ライフピアスを渡すように要求した。第一印象から良くなかったが、今はっきりした。こいつらは女性の敵だ。異世界でも、現実世界でも、どちらでも叩き潰す。


 女性を助けようと、一歩前に出たところであることに気付いた。女性から、黒い霧が発生しているのだ。


 服で隠されている部分が霧になっているかのように、服の隙間から霧が発生して、男たちへと迫っていく。


「なんだ、これは?」


 唯一、冷静を保っていた男も、さすがに顔色を変える。


「この世界の神様ピアスはまだ回収されていない。だから、こんな異能の力を使えるやつはいない筈だ!」


 男の言いたいことは、私にも分かる。だが、この女性は明らかに特殊な力を使って、男たちを潰そうとしている。


「き、聞いたことがある。神様ピアスを持たなくても、どの異世界でも、特殊な力を使える不死身の存在がいると。まさか、こいつが……」


「な!? あれは都市伝説の筈だ」


「でも、実際に目の前にいるじゃないか、「キーパー」が!!」


 同様の余り、会話に集中し過ぎてしまったのか、霧から逃げるのが遅れた。脅し役の男が「キーパー」という言葉を口ずさんだと同時に、黒い霧が男たちを飲み込む。


「ああああああ~~~~!!!!」


 黒い霧の中から、恐怖の絶叫が聞こえてきた。まるで途方もなく恐ろしい目に遭ったような叫びだ。この霧には幻覚を見せる成分でも含まれているのだろうか?


 霧の正体を探ろうと、手を伸ばしたところで、女性に止められた。


「止めときな。それに触れると、あんたも怖いものを見るよ」


「……これは何ですか? ただの霧じゃないですよね」


「私の力だよ。最近は異世界にも素行の悪い奴が増えたからね。定期的に見回りして、見つけ次第、潰すようにしているのさ」


 パトロールでもしているつもりなのだろうか。異世界は基本的に治外法権で、安全を取り締まる機関は存在しないので、自発的にやっているのだろう。


「「ログアウト!!」」


 霧の中から三人組がログアウトする声が聞こえてきた。恐怖に耐えきれなくなって、現実世界に戻るらしい。


 男たちの様子が気になったので、後を追うように私もログアウトした。現実世界に戻ると、ちょうど男たちが命からがら逃走していくところだった。私のログインした場所を知っているというのは本当だったらしい。現実世界で待ち伏せしているやつがいないのが、唯一の救いだが、これからは本当に気を付けよう。


 地面に目を落とすと、ログイン用のパスカードが三枚落ちていた。


「お~い、あんたたちのパスカードが落ちているぞ~!」


 親切心で教えてやったが、連中は逃げるのに夢中で、そのまま走り去ってしまった。捨てるのも忍びないので、このカードは私たちが有効利用することにした。


 カードを拾って、顔を上げると、さっきの女性が立ってこちらを見ていた。


「あ、さっきはどうも……」


 助けてもらったので、お礼を言ったが、女性は私をじっと見たままで、何も語ろうとはしない。そして、ぷいと視線を外すと、そのまま歩き去ってしまった。


 一体何なんだろう。私に危害を加える気はないようだから、気にしないけど。


 というか、男たちの話していた「キーパー」って何だ?


登場人物の一人である小桜ですけど、「こはる」と読みます。

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