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第百五話 金髪の龍

第百五話 金髪の龍


 巨大なミミズの一匹に、神様ピアスを飲み込ませたのだが、そいつがどこに行ったのか分からなくなってしまった。後から考えると、何とも間抜けな話だけど、悲しいことに私は本気で悩んでいる。


 しかも、神様ピアスを欲しがる、変な女の子にまで付きまとわれるようになる始末。こっちはそれどころじゃないのに……。


「ねえねえ。頂戴頂戴」


 いくら断っても、諦めることなくせがんでくる。そのスピリットは素晴らしいけど、他のことで活かしなさい。お姉ちゃんは忙しいのよ。


 あまりにもしつこいので、全力で奪取して振り切ろうとするが、女の子は余裕で追ってくる。足には自信がある方だったので、軽くショックを受けたが、よく考えてみたら、こんなところに女の子が一人でいる訳がない。きっと何か裏があるに違いないわ。


 私の疑念が高まっているのを意に介せずに、女の子はまだ神様ピアスをせがんできている。


「駄目よ。このピアスはお姉ちゃんにとって、とても大事なものなの。人にあげることは出来ないのよ」


 今私が持っている三個の神様ピアスの中に、当たりが混じっている可能性はかなり高い。それを他人に上げるなど、言語道断だ。


 それまでは優しく断っていたけど、埒が明かないので、わざと素っ気なく突っぱねた。それでも、女の子は尚もしつこく食い下がってくる。最初は子供だと思って、紳士な対応を心掛けていたんだけど、こうしつこいとだんだんイライラしてくるわね。


「大体、このピアスを貰ってどうするの? アクセサリーにでもするつもりなのかな?」


 女の子は首をブンブンと横に振った。


「食べるの!」


「……」


 言うに事欠いて、何てことを言い出すのか。でも、これで決定したわ。この子は普通の子じゃない。


 誤解がないように付け加えると、この子の頭がおかしいという意味ではないわ。異世界の力によって生み出された子供という意味で、普通の子じゃないと表現したの。


「そんなに持っているんだから、一個くらい良いじゃん」


「駄目! お姉ちゃんには、一つ一つがとても大事なものなんだから」


 仮に一個一個が大事でなくても、見ず知らずの子にあっさり渡したりはしないけどね。


 女の子は怒るでもなく、駄々をこねるでもなく、ただただ不思議そうな顔をした後、何かを閃いたのか、パッと明るい表情になった。


「そうか! ただで頂戴って言っているから、駄目なんだね」


「……違うよ」


 駄目だ。全然分かってくれない。無視しても、どこまでもついてくるし、何なのよ、この子は!?


「じゃあ、一個くれたら、お姉ちゃんに力を上げる。これでおあいこでしょ?」


 力? この子は何を言っているのかしらね。いくら神様ピアスが欲しいからって、もう少しまともな嘘をつけないものかしら。


「あのね。そんなことを言うものじゃないよ。大体、力というのはね。日々のたゆまぬ訓練のもとで身に付くものなんだから、君みたいな子があっさりと授けることは出来ないんだよ」


 そう言っている間も、私は全速力で女の子を撒こうとしている。女の子もちゃんとついてきていて、「私には可能なんだよ」とか言っている。やけに自信満々ね。


 この子……。おそらくこの異世界の住人よね。神様ピアスはあげないけど、力について聞いておくことくらいは出来るかな?


 これだけしつこく迫られると、妙に興味を持ってきてしまう。もし、罠だったら、撃退すればいいだけだし、話だけでも聞いてみようと言おうとした瞬間だった。


 ビキビキと何かの裂ける音がする……。


 この音……。聞いたことがある。以前、キメラの世界に招待された時に、空間が裂けて入口が姿を現したけど、あの時に聞いた空間の裂ける音にそっくり。


 音は上空からする。見上げると、そこには空間の裂け目が広がりつつあった。


 揚羽に追いつかれたのかと肝を冷やしたが、そこから姿を現したのは、金色の龍だった。


「わあ~! ドラゴンさんだ!」


 女の子は龍を見てはしゃいでいたが、私は震撼した。あの龍は、間違いなく私を狙っている。


 実際、龍は私の姿を確認すると、こっちに向かって威嚇するように吠えた後で、向かってきた。しかも、巨体の割にかなり速い。そこら辺の巨大ミミズとは大違いだわ。


「くっ……!」


 龍の突撃を、女の子を抱えて躱す。


 躱す瞬間に、龍の体を見ると、何か糸状の物が編みこまれているようになっている。これは……、膨大な量の金髪!?


 脇に抱えている少女の髪と、龍の体を交互に見る。確かに、糸というより、髪を編んで作られた龍という感じだ。


 でも、髪って……。こんな大量の髪、普通は用意できないわよね。となると、仕掛け人はあいつか……。


 私の推理を裏付けるように、龍のしっぽの部分に西洋人形がくっついていた。おそらく、西洋人形の金髪を伸ばしまくって、それを編んで龍を作ったんだろう。


 あの人形が肝だと断定すると、能力で炎を呼び出して焼こうとしたが、ダメージどころか、焦げ目すらつかない。それならと、直接攻撃しようとしたが、人形の周りにはバリアーが張られているらしく、攻撃しても跳ね返されてしまう。


「面倒くさいものを差し向けてくれるわね……」


 揚羽は今、お姉さんと応戦中の筈だ。ここに龍を差し向けるということは、お姉さんの身に何かあったのだろうか。


 不安で胸が締め付けられそうになるが、私もこの龍と応戦中で駆け付けることは出来ない。お姉さんの無事を祈りつつ、龍の突進を再び躱す。


 私の動きを見切って来たらしく、最初の一撃に比べて、龍の攻撃が上手くなってきた。徐々に攻撃を躱すのに余裕がなくなり、少しずつ攻撃を食らうようになってきた。


「!!!!」


 わずかだが、神様ピアスの一個にひびが入ってしまった。ということは、あの龍には神様ピアスを破壊する力がある!?


「なるほどね。これは『魔王シリーズ』に入ってもおかしくない厄介さだわ」


 これは『スピアレイン』と同じレベルの能力と考えて対処した方が良さそうね。


「ねえねえ。このひびの入ったピアスでいいから、頂戴!」


「君ねえ……」


 こんな状況下でも、女の子はまだ神様ピアスを所望している。本来なら、神経の図太さに尊敬の念を抱く頃かもしれないだろうけど、この状況下では嫌気しか起きないわ。


 私に助けてもらえると思っているから、ここまで落ち着いているのかしら。だとしたら、本当に腹立たしいわね。でも、だからといって、放っておく訳にもいかないし……。ずっとピアスピアス連呼されるのも、鬱陶しいし……。


 女の子のことで、気を反らしたのがいけなかった。私に生じた隙を見逃さなかった龍が、再度攻撃を仕掛けてきたのだ。不意を突かれつつも、どうにか躱して……。


「あっ……」


 躱したと思ったのに、わずかにかすってしまった。しかも、その衝撃で、所持していた神様ピアスが三個とも宙にばら撒かれてしまった。


「私の馬鹿……!」


 龍の狙いは神様ピアスの方だろう。神様ピアスが散らばったのを確認した途端、私には目もくれなくなり、代わりとばかりに、ピアスに向かって突進していった。


 まずいわ。他の人形と違って、あいつは神様ピアスの破壊が可能。あんな真正面から攻撃されたら、粉々に砕けちゃうわ。


 残り四個の内の三個が、一気に破壊される……。考えただけでもゾッとするわ。かなりの確率で、ジエンドじゃない……。


「破壊なんて……、させない!!」


 警棒に、能力で硫酸を付加させて、龍を叩きつけようと接近する。


 だが、それまで大人しくしていた西洋人形が、いきなり口をパカリと開けた。そこからは、おびただしい量の髪が一気に溢れだして、私に迫る。


 髪の洪水をもろに受けた私は、後方に叩きつけられてしまった。龍は、既に散らばった神様ピアスの目前まで迫っていた。


 もう駄目だと目を瞑りそうになったところで、誰かが龍の前に颯爽と割り込んだ。それは、龍より先に神様ピアスを回収すると、私の横に飛んできた。


「月島さん!!」


 私を研究所に預けて以降、目にしなかった月島さんが、かばってくれた。しかも登場と同時に、起死回生のファインプレー。さすが月島さん。魅せてくれるわ!


 月島さんは私からの挨拶を返す間もなく、私と女の子を抱えて、龍から撤退を始めた。後方では、獲物を横取りされた龍が怒りの雄叫びを上げていた。


「あれは相当キレているな。しかも、あの巨体。撒くのには、少しばかり骨が折れそうだ」


 合流早々、月島さんがため息交じりに呟いた。


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