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第百二話 神様ピアス回収戦

第百二話 神様ピアス回収戦


 揚羽と、私と萌の命を懸けたゲームを繰り広げているが、懸命の抵抗にも関わらず、私が直接持っていた神様ピアスは五個とも無残に破壊されてしまった。揚羽の攻勢はそれだけにとどまらず、犬の人形に私の匂いを覚えさせて、残りのピアスの回収に向かってしまった。私も急いで後を追わないといけないのに、この髪が邪魔で邪魔で……。


 どうしても切断してやろうと、特殊能力も全部試してみたけど、全然切れない。本当に何なのよ、この髪は!? ここまで切れないとなると、ただの髪じゃないわ。


 生憎と、刃物も持っていない。でも、持っていたところで、この髪がちゃんと切れてくれるかどうかは微妙……。何か普通じゃないみたいだし、もしかしたら、効かない可能性の方が高いかも……。


 頭が完全にパニックに陥っていて、ろくでもないことばかりが頭をよぎる。脳内が慌ただしく動き回るのと対照的に、体の動きは徐々に弱まっていった。このまま終わりという考えが徐々に現実味を増していく。


「どうした? もう終わりか?」


 絶望とパニックが最高潮に達しようとしていた時に、声がかけられた。地獄に仏の想いで、声の主を見た。


「この声は……、フードのお姉さん」


 私の問いかけには応じるより先に、お姉さんは、髪の毛をきれいに切断してくれた。拘束が解かれて、自由になった体で見上げると、刃の部分が緑色に輝いているナイフを持っていた。すぐに消滅してしまったので、能力で作られたナイフなのだろうということは分かった。


「済まないな。来るのが遅れてしまった。君と揚羽が決闘する時には、すぐに駆け付けるつもりだったんだが……」


「そんな……。気にしなくていいです」


 こうして私を拘束する髪の束を切ってくれるだけでも、最高のファインプレーです。そんな頭を下げないでください~。


 感激のあまり、お姉さんに抱きつきそうになるが、その前に髪がまた私に抱きついて、……いや、絡まってこようとした。


「! こいつら。本当にしつこい」


 二度も同じ手を食っている場合ではないので、さっと身をひるがえして、髪からのアプローチを避けた。


「……しつこいやつにはお仕置きが必要だな」


 お姉さんの服の袖から、黒い霧が、一斉に放射された。人形たちにもそれなりの恐怖心は感じるらしく、あちこちから獣の雄叫びのような声が上がる。


「さあ、今の内だ」


「はい!」


 また拘束されてはたまらないので、お姉さんに手を引かれて、その場を離れた。


「あの髪から強力な力を感じた。他の能力とは一線を画しているような強い力だ」


 強い力? 『魔王シリーズ』のことかしら。でも、揚羽は既に、『スピアレイン』を使用している。その他にまだ強力な力を隠し持っているなんて、勘弁してほしいわ。


「それで? 今はどういう状況なんだ? 切羽詰まった状況じゃなければいいんだが……」


 お姉さんに現状を聞かれて、ハッとなった。そうだ、こんなことをしている場合ではなかったことを思い出す。隠し場所に急がなくては!


「移動しながら説明します。実は結構不味い状況なんですよ!」


 お姉さんの返事を待つのももどかしくて、私は走り出していた。私の返事を予想していたようで、お姉さんは慌てることもなく、後を追ってきた。




「なるほど。そんなことがあったのか」


 私の説明を聞きながら、お姉さんは一言だけ呟いた。


 急ぎ足で、隠し場所の一つに行ってみると、既に犬の人形が来た後なのか、あからさまに荒らされていた。


「派手にやったな」


 盗賊の所業に、呆れているお姉さんをよそに、私は神様ピアスを隠していた場所へと急いだ。


「やっぱりないわ……」


 奇跡的に発見されていないことに、淡い期待を寄せたが、駄目だった。ここまで壊しておいて、手ぶらで引き上げる訳がないか。


「既に回収されていたか……」


「はい。今頃は、もう破壊されているでしょう」


 私の身に異常が起こっていないということは、外れだったようだけどね。


「落ち込んでいる暇はない。すぐに次の場所へ急ぐぞ」


「はい!」


 もし、全部の神様ピアスが回収されてしまっているのなら、私はもう事切れている。こうして動き回れるということは、まだ無事なピアスがあるということだわ。だったら、それが揚羽の手に渡る前に、先回りして阻止しないと。




「良かった……! ここはまだ荒らされていない」


 次の隠し場所には、私が隠した時と同じ状態で、神様ピアスが保管されていた。発見して手に取った時は、心底安堵した。


「この調子で、他の場所も確認して行こう」


「はい!」


 元気のいい掛け声と共に、引き上げようとしたところで、犬の人形から襲撃を受けてしまった。数は三体。きっと私が回収したばかりの神様ピアスを狙っているのだろう。人形とはいえ、犬だけあって、動きは俊敏そのもの。振り下ろされる警棒を潜り抜けて、一匹が私の喉元に噛みついてきた。


「黄色のピアスがなかったら、今ので致命傷だったな」


 あっぱれなくらいに、見事にのど元に噛みついてくれたものね。でも、知能がないので、私に通用していないことは知らないみたい。動き回っていたら、厄介だけど、こうして噛みついている間は動きも止まる。格好の的だわ。


「そういえば、あんたたち。私の体を散々嗅ぎまわってくれたわね……」


 あれって、結構屈辱的だったのよね。しかも、揚羽が横でニヤついてみていたから、怒りも倍増。ああ、思い出しただけで、腹が立ってきたわ……。


 のど元に噛みついていた犬がわずかに体を震わせるのを感じたけど、そんなのはお構いなし。私は警棒を振り上げると、怒りをすべて込めた、渾身の一撃を、遠慮なく犬の脳天に叩きつけてやったわ。


「こっちはちゃんと消滅するのね」


 犬の人形が消えていくのを見ながら、一息ついた。殺しても死なないのは、あの市松人形だけのようね。


「終わったようだな」


 見ると、他の犬の人形もお姉さんの手によって、破壊されていた。いつ見ても、お姉さんの腕っぷしには惚れ惚れするわ。




 次に訪れたのは、以前お姉さんの招待された異世界だった。


「私が管理している異世界にも隠したのか……」


「ここなら安全だと思ったんです」


 実際、ここでは犬の人形たちに遭遇することもなかった。神殿の中の瓦礫の隙間に隠しておいた神様ピアスも無事だった。


 三つ目は、異世界を生み出す巨大な花がある異世界だ。ログインしてみると、相変わらずの人混みだ。


「ここも無事なようですね。もし、襲撃を受けていたら、こんなに人は歩いていません」


 ある意味、通行人を盾にしているようにも聞こえるけど、そこはサラッと流しちゃいましょう。


 でも、気のせいかしら。何かみんな、余裕がないように見えるけど、何かあったんだろうか。今の私はそれどころじゃないから、神様ピアスを優先するけどね。


「ここにも隠したのか?」


 お姉さんも、人混みより神様ピアス派のようで、人混みそっちのけで聞いてきた。


「はい、そこに自販機の裏に隠しました!」


「……もう少し念入りに隠すべきなんじゃないのか?」


 私の自信満々な宣言を聞いて、お姉さんが唖然とした理由はよく分かる。隠し方が雑すぎるというのだろう。


「一応、神様ピアスの周りには、爆弾を仕込んでおきましたので、誰かが手を伸ばすと、爆発するように仕込んでおきました」


 だから、一般人に取られることはないと言いたかったのだが、お姉さんは微妙な表情のままだった。


 でも、神様ピアスの方は大丈夫だったわ。案外、人混みの中に隠した方が見つかりにくいのかもね。様々な体臭が混じり合って、私の繊細な体臭が嗅ぎ分けにくくなるのかしらね。


「そういえば、この異世界のシンボルにもなっていた巨大な花はどうした? いつもは見たくなくても、視界に勝手に入って来るのに、今日は姿を確認できない」


 残り一個の神様ピアスの回収に向かおうとしていた矢先、お姉さんがある筈のものがないことに気付いた。いや、元々はなかったものなんだけど、いきなり出現して、一躍観光名所になったというのが、正しい表現なんだけどね。


 それに、あの人混み……。どうも巨大な花のあった辺りに集まっているように見えるわ。


 一刻の猶予もない事態なのだが、どうしても気になってしまい、確認に向かった。そして、そこにあった光景を見て愕然としてしまった。


 巨大な花が根元からぶった切られていたのだ。切られた個所を見る限り、何か鋭利な刃物で切ったことは分かるが、一体誰が……?


また今回も投稿が遅くなってしまった……。

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