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第十話 男の体でみんなと再会

第十話 男の体でみんなと再会


 ひょんなことからキメラに体を奪われて、代わりに水無月という少年の体を使わせてもらうようになってから、私は当然ながら、高校に通わない日々を送っていた。


 いくらなんでも、男子の姿で、女子の制服を着て、百木真白を名乗って登校する訳にもいくまい。


 私はそれを好機ととらえて、自分の体を取り戻すために、キメラの足取りを探ろうと、異世界に入り浸る日々を送っていた。


 生活の面倒は主に月島さんが見てくれていたので、働く心配もないのを良いことに、異世界に入り浸る私の姿は、周りから見れば、もうすっかりゲーム廃人だった。


 そんな私の姿に危機感を抱いたのか、突然、月島さんからの命令で、高校に通うことになってしまったのだ。


 私は今の居候ライフを続けたかったのだが、私の事情を知るおじいちゃんと月島さんで相談して決めたことらしい。


 納得のいかない私は、どうせ仮の体なんだし、百木真白に戻ってから通い始めればいいじゃないかと文句を言ったが、月島さんは受け付けてくれなかった。


「健全な若者が一日中ぶらぶらしていたら駄目だよ」


 などと諭されたが、月島さんが高校時代はほとんど学校に顔を出していなかったのを、私はしっかり知っているんだからね!


「え? 水無月くんも学校に通うんですか? しかも、私と同じ高校に?」


 横で話を聞いていた萌が嬉しそうに、会話に割り込んできた。


「うふふ! 同じ高校に通えるなんて、運命を感じますねえ。毎朝、一緒に登校しましょうよ」


 そう言って、思わせぶりな視線を投げかけてくる。月島さんがにやつきながら見ているのを感じながら、私は愛想笑いで誤魔化しておいた。


「すぐに元の体を戻せると言っているけど、実際のところは手こずっているじゃないか。最近、君が異世界に入り浸っているのも、元の体を取り戻すためだろ? だが、有力な手掛かりをつかめないで、長期戦の様相を呈してきている。こうなると、ニート生活をいつまでも続けている訳にもいかないんじゃないか?」


「ぐううう……」


 反論の隙が全くないほどの正論だ。確かに、このまま数年経つような事態にでもなったら、元の姿に戻っても、ブランクがあり過ぎて、社会に復帰するのが難しくなってしまう。事態を重く見た私は、保険という訳ではないが、観念して渋々学校に通うことを了承した。




 そして、登校初日。とはいっても、高校に通うことを強制的に決められた翌日だけどね。


 何という偶然なのだろう。転校先は、以前に通っていた学校だったのだ。これもおじいちゃんの力によるものだろう。私が少しでも、変化のない日々を過ごせるようにとの配慮のようだ。


 憂鬱な気分で朝食を取っていると、萌が珍しく早起きしてきた。


「水無月くん。今日から一緒に登校しようよ」


 なるほど。早起きの理由はこれか。


 未だに家出中の萌が二人で登校しようと誘ってきた。同じ屋根の下に住んでいて、且つ同じ高校に通うのだから、結果的にそういうことにはなるが、ずいぶん単刀直入に誘ってきたものだ。


 行き先が同じのため、断ることも出来ずに、押し切られる形で一緒に登校した。だが、萌のやつ、登校中、ずっと私の腕に抱きついてきた。


 何も知らない人が見たら、完全にカップルだ。時々オタクっぽい姿の男が、私たちを睨むように見てくるくらいだから、相当ラブラブに見えたことだろう。ただし、私にはその気は全くないけどね。実の妹と禁断の関係を築くつもりはありません。


 萌は学校に到着してからも、一緒にいたがっていたが、学年が違うということで強引に別れた。


 ようやく萌から解放された私は、大きくため息をついた。何で朝っぱらから、こんなに疲れなきゃいけないのだ。


 廊下を歩きながら、つくづく実感する。今日は厄日だと。姿を変えて、同じ高校にまた入り直すことになるし、萌に付きまとわれるし。しかもクラスまで同じ。何て皮肉な運命なのだろう。


 朝のホームルーム。先生に連れられて、クラスメートに紹介された。教室中から、「何だ、男かよ……」とか、「へえ! 結構イケメンじゃない」とか、好き放題な言葉が聞こえてくる。


 一通りの自己紹介が済むと、私は空いている席に座ることになった。案内されたのは、こともあろうに百木真白の席だった。まさか、自分の席に案内されることになろうとは。


 ため息交じりに座ろうとすると、鋭い視線が突き刺さってきた。第六感で、視線の送り主を見ると、百木真白の時に親友だった古城瑠花と神宮寺小桜だった。


 二人とも私を睨んでいる。百木真白の席に着くのが気にくわないらしい。いくら気付いていないとはいえ、親友から睨まれるのは悲しいものがあった。


 だが、席に座らないことには、授業が出来ないので、やむなく座る。全く……、どうして自席に座るだけでこんな気苦労を味なければならないのだ。


 げんなりする私を尻目に授業は開始された。


 最初の時間は日本史だった。初日だというのに、教師は私にどんどん質問してきた。初日だからサービスだと言っていたが、それなら逆に全く当てないでほしかった。どうして、教師という生き物は、生徒の気持ちを理解してくれないのだ。


 この教師は人気がないのか、他の生徒も授業中なのに、話を聞いている様子はない。携帯型のゲーム機で遊んだり、携帯電話をいじったり、思い思いに過ごしていた。


 高校生とは気楽な身分だ。教師の目にさえ止まらなければ、授業に出て、テストの点数が良ければ進級できるのだから。


 ぼんやりと話し声に耳を傾けていると、神様フィールドとか、異世界と言う単語が聞こえてくる。どうやら高校生の間でも、「神様フィールド」は話題の中心らしい。


 バイトの金が貯まったら異世界に旅立つとか、大金を貯めて神様ピアスを購入して豪勢な余生を送るとか、健全な高校生には似つかわしくない会話ばかり聞こえてくる。本当に、この国はどうなってしまうのだろうか。


 日本史の授業が終わると、あっという間にクラスのみんなから質問攻めにされることになった。私のことなど、とっくに知っているだろうということだったが、外見が違ってしまっているので、分からないか。下手に自分が前にこのクラスの生徒だった百木真白だといって、変な顔をされるのも嫌なので、質問に一つ一つ丁寧に答えてやった。


 本音を言えば、瑠花や小桜とも話したかったのだが、二人にとって、は私は転校生の男子なので、話しかけづらいものがあった。


 次の時間は体育だったが、私は自然とみんなの注目を浴びることになった。無理もない。自分では普通だと思っているが、世間的にはイケメンの部類に入るそうで、すでに何人かの女子から憧れの目で見られているのが手に取るように分かった。


 男子からしても、転校してきた私がどれくらいの実力なのか、興味津々のようだった。注目されながら、授業に出るというのは、どうも気持ちが落ち着かない。それでも、私なりには頑張ったつもりだ。


 体育の授業はサッカーをやったのだが、結果だけ言うと、私は大活躍だった。元々運動が得意だったのに加えて、筋力のある男子の体になったおかげで、鬼に金棒なのだ。


 あまりの大活躍に運動部に所属している生徒からは、熱心に入部を勧められる始末だ。特にサッカー部からの勧誘がしつこかった。巧みなボールさばきを見せた後なのだから、無理もない。だが、私は部活で汗を流すより、異世界でキメラを探す方が大事だったので、勧誘は全て断ることにしていた。


 どうにかサッカー部の追撃をかわして、制服に着替えようと更衣室に戻ることにした。サッカーでかいた汗を早く洗い流そうと、更衣室のドアに手をかけた時、厳しい声で止められてしまった。


「おい、自分!」


「え?」


「転校早々に女子更衣室に入ろうなんて、ええ根性をしとるやないか! 目的は何や。覗きか?」


 一方的にまくしたててきたのは瑠花だった。大阪に一年間しか住んでいないため、中途半端に覚えている関西弁は相変わらずだった。


 どうして自分が絡まれているのかは、すぐに判明した。私が入ろうとしていたのは、女子更衣室の方だった。


「あ……」


 何たることだ。いくら本当は女子とはいえ、今の姿は男子なのだ。だったら、入るべきは男子更衣室だろう。


「何や。ただ部屋を間違っただけか。まあ、転校初日やし、大目に見たるわ。次からは気を付けるんやで」


 唖然としていたら、私のうっかりに気が付いてくれたのか、瑠花は大目に見てくれると言ってくれた。とりあえず助かった。


「ただし、次に見たら、先生に突き出すからな」


 胸を撫で下ろす私に、釘を刺して瑠花は去っていった。


 危ないところだった。転校初日からいきなり停学を食らってしまうところだった。


 瑠花には、その内に話しかけるつもりだったのに、こんなことで元親友の方から声をかけられるなんて、不覚だ。


 しかも、最悪の形で。絶対に瑠花の中で、私は変態として認定されてしまった。雌雄の瑠花と、まだ話せていない小桜の二人には、私の身に起きたことをこっそり打ち明けるつもりだったのに、これではそれどころじゃないではないか。


瑠花の関西弁はかなり怪しいです。本人が言えているつもりになっているだけなので、かなり間違いがあります。

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