表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

the…



「親父さんは元気か?」


「……はい」


『帚木』の摩耶が露骨に嫌そうな顔でそっぽを向いた。


 ベージュ色のカラオケボックスは、相変わらず極端に静かだ。


「そんな嫌そうな顔しなくても…」


「わかっているでしょう?私があの人たちのこと嫌いなの」


「……」


「あの人たちが離婚さえしなければ、三年間も燈理に会えないなんてことはなかったんですから…」


苦々しそうに吐き捨てる摩耶に、燈理はただ目を背けることしかできなかった。


摩耶は、燈理の父の妹の子、つまり従姉妹にあたるわけだが、その両親が離婚して夫方に引き取られたため、戸籍上の繋がりが切れた燈理とは会えなくなってしまったのだ。


「だからDDNには感謝しているんです」


「俺と唯一会える場所…だから?」


自分で言っていて恥ずかしいようなセリフだが、摩耶は心底嬉しそうに頷いた。


普段は真一文字に結ばれて変わり映えしない口元が、僅かに緩んでいるのがその証拠だ。


「あ…でも燈理と結婚しやすくなったという意味では…」


「その冗談は笑えないぞ…」


無表情で言葉を紡ぐ摩耶には、ある種の恐怖をも覚える。


「そういえばお前、受験まであと」


「1ヶ月。それ以上言わなくていいです」


がっくりとうなだれる摩耶。


「受験勉強、飽きてきました…」


「後少しなんだから、がんばれよ。合格したら…」


「燈理と一つ屋根の下?」


「…学校でな。その言い方はどうなんだ」


大っ嫌いな親元を離れ、燈理の通う高校へ。


もちろん親には秘密だ。


燈理の親にも、摩耶の親にも。


例え『逃げ』と言われようとも、彼女にとっての『解放』には安い代償だった。


「待っててくださいね。後少しで、必ず…」


燈理の手に優しく触れる。


中身のない幻の手には、曖昧な温もりしか伝わってこない。


本当の意味での『会合』、夢を超えて触れ合える時まで、きっと後少し――。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ