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Epilogue





 燈理は空っぽになった病室のベッドを見つめていた。


時計は気にしていない。


ゆっくりと、指でシーツをなぞり、枕に触れる。


「燈理くん」


病室の入り口で、汰一が心配そうに呟いた。


「大丈夫です。過去を清算しにきただけなんで」


汰一は目を伏せるように頷くと、病室に足を踏み入れた。


消毒の匂いが、どうしても嫌なイメージを掻き立てる。


「大丈夫」


もう一度燈理は呟くと、一枚のメモをベッドに置き、そして笑顔を作った。


「行こっか」


自分に言い聞かせ、燈理は病室から出て行った。


ぽつんと残されたメモには、たった一言『長い間お世話になりました』とだけ書いてあった。



「弓麻ー」


「は、はいっ!」


びくっと肩を震わせる九稲。


いつも通りの反応に、燈理はつい笑ってしまう。


「改めてありがとな。それと、ごめん。ぷりしらのデータは…」


「気に…しないで!やめる、いいきっかけ…だった…から!」


相変わらず人見知りで目を合わせられない九稲は、顔を真っ赤にして微笑んだ。


「そっか…。復活したら教えてくれな。新アカウントの方に申請送るから」


「う、うんっ!」


二人は笑顔で別れる。


次、ぷりしらと向き合う時、彼女はどんな心を持って、それを駆るのだろうか。




 「とがめー!お客さんだよ?」


「お客さん…?わかったぁ、今行くー!」


すれ違いざま、文芸部の友人が「ごゆっくり」と言ったのを不思議に思いながら部室から出ると、


「た、高原先輩!?」


「はじめまして、天川とがめ…ティアラで合ってる?」


「は、はい…あの、はじめまして」


燈理はその場で深々と頭を下げた。


「本っ当に、ありがとう。君が全てのバックアップをしてくれたんだよな。アカウントデータも…」


「あ、いやそんな。気にしないでください。最後は結局、Traum側の選択をしちゃったんですし…」


「あれはTraum側として取らなきゃいけない対処だったんだから、仕方ない」


「…とにかく、お礼ならさら先輩に言ってください。あの人がラプンツェルを勝ち取ったのは、高原先輩を助けたいって本気で…。あ、それで…その…摩耶さんの方は?」


「摩耶のことは……今、ちょうど大変みたいで」


高原先輩を助けたいって本気で…。あ、それで…その…摩耶さんの方は?」


「摩耶のことは……今、ちょうど大変みたいで」

高原先輩を助けたいって本気で…。あ、それで…その…摩耶さんの方は?」


「摩耶のことは……今、ちょうど大変みたいで」

燈理は少し困ったように言った。


「進級…できちゃうかもって」


「成績…いいんですね」


「ああ…驚くほどにな」


乾いた笑いが生まれる。


「新アカウント、できたんで申請しておきますね。ご贔屓に、アマクサお兄ちゃん☆」


「ああ…また、何かあったらな」


情報屋ティアラ、彼女は再び情報のために走り回る。


今日も楽しいことを、求めて。




掃除の時間帯は、屋上には誰もいない。


「挨拶は終わったの?」


「ああ、あとはさらだけだよ」


樹沙羅は設置されたベンチに座って、手招きした。


燈理はそれに従い、彼女の隣に座った。


二人の距離は、わずか10cmほどしかない。


「やっぱり俺、みんながいないとダメかもしんない」


おどけて笑う燈理を、樹沙羅は優しく見つめた。


 消滅寸前、樹沙羅が置き土産に繋いだ、たった一本のラプンツェルの糸が、摩耶とアマクサを接続。


ギリギリで眼を覚ました樹沙羅が、イヤホンを引っこ抜いたのだ。


アマクサのアカウントを軸に、引っこ抜かれる形で、摩耶の精神は救済された。


偶然が重なりあった中で、心の強さが勝ち取ったこの結末は、合理的な奇跡だ。


「なんの方法も準備しないで、ただがむしゃらに追いかけてた」


「うん」


「天川が情報をくれて、方法をくれて、弓麻がピンチを助けてくれて」


「私も助けられちゃったね」


そして?そして。


「さらが…隣にいてくれて」


二度も救い上げてくれて。


「何か恩返ししないと、俺…」


「燈理くん」


樹沙羅が燈理の手に自分の手を重ねる。


「これからも隣にいさせてくれたら…それで」


キーンコーンカーンコーン…。


掃除時間終了のチャイムが鳴る。


樹沙羅はタイミングの悪さに苦笑すると、燈理の手をとって立ち上がった。


今度は樹沙羅が言う。


「…行こっか」


二人は屋上を出て行った。


秋だというのに、柔らかな風が吹き抜けていった。




 「なににやけてんだ?陽」


「お前、斧導さんと最近仲いいじゃんか。"さら"なんて親しく呼んじゃって…」


「ん、あぁ一緒のベッドで寝てから」


「万死に値する!」


放課後、用の無い人々は帰路につき、


「大丈夫、何もなかったから」


部活がある者はそっちへ。


「そういうことがあったのは冗談じゃないのか!?」


「声が震えてるぞー」



笑い、泣き、怒り、考え、やっぱり笑い。


試行錯誤と遠回りを繰り返して、人はその場しのぎでも幸せを目指す。


「あ、そうだ陽。俺さ…」


夢も希望も"在る"ものではない。


"探し"、"求め"、"掴む"ものだ。


そうやって今日も――


「部活、始めることにしたんだ」


人々の夢多き日常(Day Dream)は転がったゆく――。







END

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