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ブラックスター・サバイバー

作者: 中山佳映

 いじめなんて些細なきっかけで起きる。

 あたしが標的にされたのは修学旅行から帰った後。

 うちの小学校は田舎だし人数が少なくて、一学年二十人いればいいほう。

 一クラスじゃないよ、一学年。

 そんなだから修学旅行は隣の小学校と合同。

 隣の学校も、同じくらいの規模だったんで。

 そんときあたしの心情としては、自分とこの学校の友達とは、この先も毎日のように会うわけだし、この際なかなか合えない隣校の子達と遊んどこうと思って、わりと積極的に彼らと交わった。

 夜も、隣校の子達の部屋で、消灯ぎりぎりまで楽しく過ごした。

 で、旅行からは、つつがなく帰ってきて日常に戻ったわけだが。

 その日常というのが。

 最初に感じた、きな臭い違和感。

 ……あたし、皆に避けられてる?

 友達の輪に入ろうと話しかけたら、沈黙がおりる。

 一度くらいなら気にしないけど、二度三度と重なったあげく、これ見よがしに団体で席を立って移動し、そこから遠巻きにあたしを眺め、くすくす笑い出す始末。

 きわめつけ。

 教室を出るとき、入れ違いに入ってこようとする男子とぶつかったら。

「やべ、中山にさわっちまった、ここから腐る、腐っちゃうよお」と、ぶつかった肩をおさえて叫ばれた。

 数人が「そりゃ大変だ」「とんだ災難だったな」などと、ぶつかったヤツを介抱する真似をした。

 周りを見れば、教室にいる生徒全員の視線が、あたしに。

 そいつらの目は、上限の三日月をふたつ並べて横にしたような形でニタニタしてた。口元も蔑みにゆがんでた。

 これは、とピンときた。

 なんでかと言うと、こういうのはもう保育園で経験していたからだ。いじめ抜かれた。小学二年生まで、そういう状態は続いた。あるきっかけで、それも些細なことではあったけれど、たった一度手向かいしたら、そのいじめはぱったり、おさまった。

 それ以来「見直された」あたしは、いじめっ子に立ち向かう側に回った。

 その後、少なくともうちの教室では、特定のだれかに対するいじめはなかったんだが、どうやらまた風向きが変わった。

 あたしの、いじめられる側からいじめに立ち向かう側への転身は、目立ちすぎたようだ。

 とはいえ、いじめに関しては、とっくに免疫ができていた。というより、もうすっかり


 できあがっていた


 てめえら、サバイバーなめんなよ、と思った。

 闘志に火がついた。

 まずは、切り崩し作戦だ。

 近所に住む、西郷くんちへ乗り込んだ。

 こういうときは、学校で集団を相手にするより個別の自宅訪問が効く。

 西郷くんは学年の中で、リーダーではなかったけど温厚で誠実で人望があった。

 あたしみたいに、いじめられ→いじめクエスト的な振幅大きいワル目立ちもなく、保育園から男女の別なく安定した人気者。

 また、テストの成績が、あたしとどっこいで(中の上くらい)お互い「好敵手」と見なしてる感ありありの仲、おまけに家はご近所さんだ。

 温厚で誠実で優等生で、つまりはいい子ちゃんの西郷くんは、おかあさんや妹のまえで、家まで訪ねてきた同級生のあたしを邪険には、できない。そこまで計算ずみ。

 で、家の前へ呼び出してサシで、最近のあたしへのあんたらの態度はどういうことなんだこら、と西郷くんに詰め寄ってみた。

 この年代のあたしたちっていうのは、体格差ってもあんまりなくて、下手したら女子のほうが成長早いから大きかったりもするんだけど、あたしは小柄なほうだった。腕力もそんなに強くはなかったんだけど、いわゆる雰囲気で「押す」技術はこころえていた。なんとなれば、先述のとおり、このころにはもうすっかり


 できあがっていたからな。


 一対一だったら、なんぼでも相手を圧倒できるんだ。

 ましてや、いじめられた修羅場の経験もない、ぼんぼんの西郷くんなんか、消しゴムのかすみたいに、吹けば飛ぶ。

 いや、飛ばさんけども。

 とにかく西郷くんはうなだれて、あっさり白状した。おおむね、あたしの予想通り。修学旅行中、隣校の子達と遊んで、夜も自分たちのところへ帰ってこないで消灯ぎりぎりまで「あっち」で過ごしていたあたしが「生意気」だよな、って話になったんだと。

「中山って、あいつ昔、弱かったよな」「最近調子のってんじゃねえの」「こらしめてやろうぜ」と盛り上がり、おもに男子の間で「シカトするか」って決まったんだと。でも、うちの学年って人数すくないから、しかもどっちかというと女子のほうが多かったから、女子が中山を庇ったら効果は半減するってんで、はじめ「ええーそんなのかわいそう」と乗り気でなかった女子連中も、あたしが「あっち」に入り浸ってる間に、シカト仲間に引き入るべく説得して、結局それも成功したってわけ。

 白状したあとの西郷くんの弁がまた、ふるっている。

 こんなのゲームだから。悪気はないんだから。軽い気持ちでやってるから。そのうち飽きるよ、みんな。だから。だから。

 だから、それまで耐えろ、ってか。あはははは。

 いかにも、温厚で誠実で優等生の、いい子ちゃんな西郷くんの発言ですねえ。なるほど、枠からはみ出さずいられる人っていうのは気楽でいいねえ。傍観者の仮面をかぶるのがお上手だねえ。自分のやってること、あたしをシカトしてるって自覚を持ってて後味わるい思いをしながらも、それをやめる意志もなければとめる勇気もない。あんたはね西郷くん、なにもしてないんじゃない、傍観者じゃない、シカト仲間に加わってるって段階で加害者なんだよ。あたしの敵なんだよ。

 でもわかるよ。あんたにあたしを庇う義理はない。そんなことしたら自分も標的にされちゃうもんね、なんだよ西郷おまえ中山に気があるのかよ、とでも噂されようもんなら温厚で誠実で優等生なきみなんか、ひとたまりもないもんねえ。保育園からサンドバッグにされてそれで生き残ってきたあたしとは出来がちがうもんねえ。

 ともあれ有益な情報は得た。それだけでも西郷くんには感謝だ。彼はあたしの味方ではないが、根っからの悪人てわけでもない。それだけでも西郷くんには感謝。

 さて。

 彼らに悪気はない、これはゲーム、ならば。

 あたしも、遊ぼう。

 あたしのほうが、遊んでやろう。

 そう決めた。

 先生も親も大人はあてにならない。そんなのは保育園から知ってる。味方はいない。それも保育園から知っている。あたしはそこから生き延びた。今度だって何度だってやれる。経験つんで知恵もついてる以上、保育園の頃より、うまくやれる。

 翌日。

 あたしを汚いもの扱いしてはばからない悪ガキの一団へ近づき、その内の一人へ、こっちからわざとぶつかってやった。

「うわあ、中山にさわられた!」おおげさに悲鳴をあげるそいつの顔面へ、さらに一発グーでお見舞い。そんなに痛くはなかったと思うけど、精神的によほど衝撃を受けたらしく、相手は床にしりもちをついた。

「ふん、これでさわられたとこが腐るどころじゃなく、おまえは死ぬぞ。あすから学校へも来られないな、気の毒に」

 捨てゼリフを床にしりもちをついた相手に吐いてから、悪ガキの一団を見回し、

「おまえら、こいつの葬式に出てやるか、それともあたしがさわってやるから、仲良く棺おけに入るか?」

 手近の一人に手をのばすと、そいつは後ずさった。なんだか「死神役」も、楽しくなってきた。

「次に死にたいやつ、だれ?」

 舌なめずりして一歩ふみだすと、連中は散り散りになって逃げた。あたしはそいつらを追いかけた。

「ほらほらあたしにつかまるよ、さわられたら腐るよ、死ぬよ、わははははははは」

 この瞬間から、あたしへのいじめは「鬼ごっこ」に変化した。悲鳴はいつしか歓声に変わっていた。あたしは再び「見直され」悪役レスラーみたいな人気者になった。

 中山は鬼、誰とも交代しない、絶対の鬼=最強。という設定をあらかじめ彼らが勝手に作り上げてくれていたもんだから、それに乗っかってる以上、あたしはもう怖いものなし。

 ウルトラマンの怪獣か仮面ライダーの怪人なみの。ダークサイドだがある意味アイドル的なね。そうなれば面白くないのは女子連中だ。男子がこぞってあたしを、しまいにはもうほとんど畏敬の念をもって崇拝すらしちゃって下手したら女神か、くらいに特別視するもんだから、とうとう事態を収拾するべく担任へのご注進、という切り札を使った。

「先生、男子が中山さんをいじめています」

 たちまち緊急ホームルーム、って今さら遅いんですけど、女子諸君よ、あはは。

 まあその切り札のおかげで、この一連のばかばかしい騒ぎには終止符が打たれた。

 あたしの思い出のなかでは、この出来事は「お祭り騒ぎ」のカテゴリに入ってる。

 最強の鬼だったあたしは輝いていた。スターだった。

 まっくろい星ではあったけれどね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄いです。の一言です。主人公がいじめを経験して嫌な思いをしているのにあんな風に克服しちゃうなんてすごいし、話として面白いです。普通のいじめをテーマにした小説は暗いか復讐的なもので読みにくいで…
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