呼ぶ声。
「では、また明日。明日からは普通授業なのでさっき配った時間割を確認して準備してきてね」
担任の声を合図に皆が立ち上がり、ついさっき決まったばかりの委員長が号令をかけた。
委員長は、これこそが優等生といった感じの男子生徒だ。シルバーのフレームの眼鏡がとても似合っていて、清潔感もある。声も澄んでて、意志の強さがうかがえた。
「遥、帰ろうぜ。今日は部活見学ないらしいし」
ドアのところで新しく出来た友達と挨拶を交わしながら啓太が声をかけてくる。
啓太はもちろんサッカー部に入る予定だ。だから、部活見学というより早くボールに触りたいのだろう。
「おう」
俺は横にかけた鞄を取って啓太と共に教室を出ようとした。
その時だった。
『――――見つけた』
さっきの少年の声だった。
今度はさっきよりはっきりと。
俺は足を止めて教室の中を振り返る。
しかし、そこには帰り支度を始める同級生しかいない。俺に声をかけた人間はいなさそうだった。
「はーるかー」
「お、ごめん」
納得はいかないが姿が見えない以上、どうすることもできない。俺は今度こそ啓太と教室を出て廊下を歩きだした。
廊下には他の教室から出てきた生徒であふれていた。ちらほら同じ中学出身の奴がいた。
「なあなあ、後で遥ん家行っていい?読みかけの漫画の続きが気になるんだよー」
「了解。来る時メール入れろよ。前みたいに無断で入ってきたら追い返す」
「なんだよー。女みたいなこと言うなよな」
「俺は礼儀を重んじるタイプだ」
そう言いながら隣でぶーぶー文句を垂れている啓太に念を押した。
『―――の者よ。---の者よ』
反射で後ろを振り向く。確かに呼ばれた。
あの声に。