十八番
門をくぐって下駄箱のところに行く。そうすると下駄箱の手前にクラスの振り分けの紙が掲示されていた。しかし、人だかりが出来ていて到底近づけない。
どうしようか、と悩んで横にいる啓太のほうに顔を向ける。
「あれ」
啓太がいない。さっきまで、遥と一緒でありますように、遥がいないと生きていけないとか一生懸命拝んでいたのに。
……一応言っておくけどそういう関係ではない。
「遥ー!遥ー!!」
その場で啓太を探していると、掲示板の人だかりの中から啓太がひょっこり顔を出した。その顔はとても嬉しそうだが、人にもみくちゃにされたのだろう、せっかくの新しい制服がしわくちゃだった。
背が小さいと得だな……。
「一緒!一緒のクラスだぜ!」
「おー、よろしくな」
「え、なんか微妙な反応ですね」
「いや、小さいの得だなと思って……」
「は?馬鹿にしてんのか」
啓太が突っかかってくる前に俺は下駄箱に歩き出す。
「……で、何組?」
俺はまだその場で拗ねている啓太を振り返ると、「一組」とこれまたふてぶてしい口調で返してきた。
この学校は一年生の時は文理にわかれず時計台のある校舎で勉強をし、その後二年生になると門を背にして左側を文系、右側を理系に分けて勉強している。つまり、校舎の形は上から見れば山の形だ。
見学に来た時はそんなに変には思わなかったけど、滅多にないつくりのような気もする。
ぼーっとそんなことを考えていると隣に啓太が来ていた。拗ねるのはやめたらしく、新しいクラスメートに会うのを楽しみにしている様子だ。
啓太はすぐにそいつらと仲良くなるんだろうな。俺は無理だけど。
一組のカードがかかった教室に到着し、俺は肩から落ちかかった鞄のひもをかけなおす。新しい場所に行くのはいつも心臓がドキドキしている。
「まーた、緊張してんの?遥はいつもそうだかんなー」
その様子に気づいた啓太が俺の背中をたたく。
「いってー」
「お前と違うんだよ。俺は目立たず平和に過ごしたいんだ」
そのためには最初が肝心。啓太は不満そうに、しかしすぐ諦めたようにため息をついた。
「はいはい。それが遥君の十八番ですね」
「ほっとけ」
そう、俺は絶対に目立たない。どこにでもいる平凡な男子高校生。
あの時からずっとそうであったように。
黙ってしまった俺を見て啓太は再びため息をついた。しかし、すぐに笑顔を作って言った。
「ま、また三年間よろしくな」
「ああ、よろしくな」
そして俺たちはこれから一年間お世話になる教室へと足を踏み入れた。