長年の友
「じゃあ、いってくる」
俺は新しいこげ茶色のローファーを履き、洗い物をしているであろう母さんに声をかける。新しい靴は少しきつくて、今日から高校生なんだなと実感させてくれる。
「いってらっしゃい。啓太君によろしくね」
「ん、わかった」
洗い物を置いて母さんは、玄関先まで見送りにくる。こういうところは昔から変わらない。母さんはいつもそうだ。新しい学年や学校になる日はいつもこうやって見送る。
少し照れくさくて、母さんの顔は見れない。
「いってきます、母さん」
母さんはにこりと笑って、手を振った。
玄関を出て道路に出たところで啓太に会う。
「おはよう、啓太」
「はよっ!時間ぴったりだな、遥」
「お前こそ、今日は遅刻しなかったな」
「母ちゃんがうるさくってさ」
啓太が今朝のことを思い出したのか少し身震いをした。啓太の母さんは啓太んちの中心らしい。いつも大きな口を開けて笑っているのが印象的だ。
俺たちはそれから昨日のテレビの話や週刊マンガの話をしながら歩き出した。
「いやあ、それにしても遥と同じ高校で良かったわー」
高校まで一直線の坂の中腹で啓太が言った。
「宿題うつせるもんな」
「そうそう……ってちげえよ!!」
啓太が少し頬を膨らませながら怒る。啓太は身長が低く、顔だちも可愛らしいためこういう顔をすると、怖いというより正直言って可愛い。小動物って感じだ。
「遥とは小学校から同じだからな。やっぱりそういうやつがいると嬉しいんだよ!」
なかなか嬉しいことを言ってくれる。
「ま、同じクラスだったら勉強面はよろしくってことで!」
……いい根性だよな。
俺は小さくため息をついた。
そんなやり取りをしているといつのまにか坂は終わり、目の前には白い門、そして奥には時計台を中心にして左右に校舎が立っていた。
この時計台はこの町のシンボルにもなっている。なんでも昔外国人がデザインしたもので学校設立のころから作りはいっさいかわっていないらしい。
そう、ここが俺がこれから三年間通う高校、皐月高校である。