始まりの朝
「遥、今日のお話はなんだい?」
「今日は泣き虫な狼の話だよ!」
「それはとっても面白そうだね。遥の作るお話はどれも素敵だ」
「えへへ。いつかおじいちゃんの本屋さんに遥の書いた本を置いてね!」
「もちろんさ。そのかわり……遥の一番最初の読者はいつもおじいちゃんだよ?」
懐かしい夢を見た。
部屋から差し込む朝の陽ざしから目をかばいながら、重たい体を起こす。
今日は高校の入学式だ。だからといって胸が躍るとか、そういう感覚はない。
また中学と同じように静かに普通のどこにでもいるような高校生でいれればいい。
「遥ー、起きなさい」
下から母さんの声がする。起きてるよ、そう返事しながら勉強机の上を見る。そこには昨日まで読んでいた本が置きっぱなしになっていた。今日で読み終わるかな。
そして壁にかかっている皺一つないカッターシャツに袖を通す。その横には紺色のブレザーと赤と緑のチェックのネクタイがある。中学までは学らんだったため、ネクタイの結び方はまだぎこちない。
着替えて一階に下りていくと先に起きていた姉の彼方が牛乳を腰に手を当てて飲んでいた。
「姉ちゃん、それはお風呂出た後にやるからこそ良いんだよ」
「なあに、はるぼう。私の朝の習慣にけち付けようっての?」
姉ちゃんは美人な方だと思う。だからこそ、睨まれたりすると結構怖い。
「彼方!朝から喧嘩しないの」
「お母さんまでー」
「遥、お母さん啓太君のお母さんと一緒に学校に行くからね。啓太君が半頃に迎えに来るからそれまでに用意しときなさいよ」
啓太は小学生のころからの幼馴染だ。僕とは違って活発的な性格で友達も多い。
「わかった」
焼きたてのパンを頬張りながら答える。
後ろでいってきますと彼方が先に家を出て行った。