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どく【毒】

①生命または健康を害するもの。特に、そのような薬物。

②人の心をきずつけるもの。悪いもの。「-のある言い方」「毒手・毒舌」

③わざわい。「害毒」

⇒「慣」-にも薬にもならない

⇒「慣」-をくらわば皿まで

⇒「慣」-を以て毒を制す


「で?」僕は言わずにはいられない。工藤はぴっとこちらを指差した。「だから何?」

工藤はむ、と小さく言うと、辞書へ視線を落とした。辞書の内容をノートへと書き写していく。

「毒、なんて言葉出てきたっけ?」

「沙石集だよ」とんとん、と教科書をたたく。「小児になんとかかんとか」

「古語辞典はあっちだ」

「別に古典の勉強してないから」

「どっちだよ」

僕はというと、数学のワークをやっていた。「なぁ、ここ分かんないんだけど」

「君に分からない問題が、私に分かるわけがない」工藤は顔をあげようともしない。

分からん、と僕はぐちぐち言いながら問題を解き続けた。「どうしてこんなにベクトルってややこしいのかしら」

辺りがしんと静まり返った。図書室にいる他の人の話し声が、どこか遠くに聞こえる。

僕と工藤は無言でペンを走らせ、各々の課題を進めた。

数十分した後のことだ。毒リンゴ、と誰かが言うのがが聞こえ、はっとする。僕は思わず顔をあげ、工藤を見た。工藤は下を向いて、何か本を読んでいる。

昨日、毒リンゴの都市伝説について話していた、工藤の顔が思い浮かんだ。次に、毒リンゴの呪いにかけられ、ぐったりとしている工藤が、浮かぶ。最後に、工藤の顔に自分の顔を近づける。映像が思い浮かんだ。このままではキスするな、と思った。工藤は、呪いにかけられたのか、と分かる。

「なあ、工藤」僕は自分の声が震えているのが分かった。どうしてか、と焦る。

ん? と顔を上げずに答えた。「お前、どこかに行ったりしないよな?」

「はぁ?」工藤は眉をひそめ、怪訝な顔をした。本に栞を挟んで、閉じる。一体こいつはなにを考えているのだろう、と思っているのかもしれない。

十秒ほど僕の顔を見つめた後、ふっと口元を緩めた。

「大丈夫だって」工藤が笑って言う。「呪いにかけられても、君が助けてくれるでしょ?」

自分の頬が熱くなるのがわかった。「いや、なんか、急に」言葉がうまくでてこない。「なんか」

工藤が口元に手を当て、にたにたと笑っていた。「君、面白いね」





臨時収入、といいながら、工藤は五千円札をひらひらとした。「ゲーセンでも行こうぜ」と言って僕の手を引く。

駅のすぐ近くのゲーセンへと入った。僕はあまりこういう雰囲気が好きではないが、工藤は週一で行くくらい好きだ。何度も何度もUFOキャッチャーをして、くまのぬいぐるみであるとかペンギンのぬいぐるみであるとかを連れ帰っている。こないだ工藤の部屋に上がったときには、数十個のぬいぐるみがベッドの周りを取り囲んでいた。だいぶ月日が空いているので、もっと増えていることだろう。

始め一時間ほどは工藤の後ろをついてまわり、工藤が両手の荷物を増やすのを見つめていた。どんどんと荷物が増えていく様は、見ていて気持ちがいい。「これ、持って」と工藤が大きなクッションを僕に手渡した。

「どれくらい使った?」「ちょうど半分くらいかな」工藤は千円札をもって両替機へと向かった。「まだあと二千五百円あるのか」と、時間を確認する。六時半だった。

「ちょっとそこらへんに座っとく」と工藤に告げて、ベンチへと向かった。

後ろを向けば、工藤の後ろ姿が捉えられた。工藤の操るアームが、小さなくまのストラップの腹の部分に食い込んでいた。かわいそう、と思いながら姿勢を正して座り、携帯を確認した。

メールが着ている。ゲーセンでは騒がしくて聞こえない。

宮野さんからメールが着ていた。「カラオケ来る?」という本文とデコメに、写真が添付されていた。永友さんと綿引さんが写っている。最近カラオケ行ってないな、と思ったが、朝練があるから、やめておく、と返信する。

胸ポケットに携帯をしまって、後ろをちらりと見る。工藤が先程みたぬいぐるみとは別のぬいぐるみへと手をかけていた。今度はペンギンのぬいぐるみだ。ペンギンの口なかにアームがむぎゅうと食い込んでいく。うわあ、と目をそらした。

携帯が音を立てて震えた。ちりん、と音が鳴る。

返信早いな、と思いながらメールを開く。「そうなんだ。今何してるの?」と絵文字付きで返信がきていた。なんだか文面があれっぽい。

すぐに返信をしては暇人と思われるのではないか、と思ったが、工藤がクレーンゲームを蹂躙しているのを見ているだけの僕は間違いなく暇人であったし、「女子は手紙感覚でメールしてるから、返信はなるべく早い方がいい」、と九条に聞いたのを思い出して、工藤とゲーセンに来てる、と返信した。

こちらがメールを送った瞬間に、入れ替わるようにちりん、とメールが来た。これはメールが届かなかった時に来るあれではないか、と焦る。誰から来たのだろう、と確認する。見たことのないアドレスだった。添付ファイルがついている。これは、あれか、「ウィルス的なやつか」と呟く。後ろでがこん、と音がする。

添付ファイルがダウンロードされているのをぼうっと見つめた。

何時か、とふと思って、腕時計を確認する。七時前だ。そろそろ帰ろうかな、と携帯へと視線を移して、添付された写真を見て、はっとする。

工藤の後ろ姿が映っている。いつの写真、今日の写真だとすぐに分かった。先程のくまのぬいぐるみが側に置いてあった。


後ろを振りかえる。

工藤がいない。

ぐったりとした工藤の姿が思い浮かんだ。嫌な汗が垂れる。

久々すぎて辛いっす

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