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あたりはすっかり暗くなっていた。僕は工藤と別れた後、一人家へと歩を進めていた。

僕の家は駅から十分ほどのところにある。駅から学校とほとんど変わらない。電車に乗っている時間は一時間なので、十分、一時間、十分、という感じだ。

等間隔で街灯が設置されている坂道を、白い息を吐きながら歩く。昔よく遊びに行った小さな公園の前を通った。ブランコや象のデザインの滑り台、青いジャングルジム、どれもこれも小さい。

よく見ると人影があるのがわかった。ブランコに学ランを着た男と、ブレザーを着た男の二人組が座っていた。頭を突き合わせて、なにか重要な出来事について話し合っているように見える。

大変そうだな、とは思ってもその話に加わり、悩みを解決してやろうとは思わなかった。



家に帰ると、時間は八時半頃だった。

「あ、お帰り、お兄ちゃん」

リビングでは妹の優佳がテレビを見ながらポテチをつまんでいた。「ただいま」と返す。

「お母さんは?」

「なんか用事ー。晩御飯はカレーあるよー」優佳はポテチをつまんだ手でキッチンを指差した。「お父さんはまだ帰ってないねー」

「そうか。優佳は食べたのか?」僕は鞄をソファの横に置きながら尋ねる。肩の重みがすっと無くなった。

「ううん」優佳はリモコンをいじり、チャンネルを変えた。「お兄ちゃんと一緒に食べたかったからさー」

「そうか」ブレザーを壁にかけ、ネクタイを外す。「じゃあ、今から作るよ」

おねがーい、と優佳はポテチをつまみながら手を振った。視線をテレビから外さずに言う。

僕はキッチンに立ち、コンロの火を点けた。お玉でかき混ぜる。数分もすると、ぐつぐつと音を立ててカレーは沸騰した。白い湯気が立ちのぼる。火を止めて、炊飯器の方へ向かった。ご飯を皿に入れ、カレーをかける。優佳はよく食べるので、多めにした。スプーンをとってきて、カレーと一緒にテーブルに並べる。「できたぞ」と、優佳に声をかけた。

「ありがとー」優佳はテレビを消し、席へと着いた。僕も向かいに座る。

いただきます、と二人でカレーを食べはじめる。

「そういえばさ」優佳がじゃがいもを崩しながら話を切り出した。「最近工藤さんとはどうなの?」

「工藤?」僕は人参を崩しながら答える。

「そうそう」優佳は口までカレーを運び、言う。「工藤さん」

「というか」言わずにはいられなかった。「どうして僕の彼女の名前を知ってる?」優佳の前で名前を出した記憶はなかった。

「この前駅前で九条くんに会ったんだ」

「あいつか」九条は優佳にくん付けで呼ばれている。「あいつは暇人だな」

「塾行くとこだったってー。いやぁ、おしゃべりだね、九条くん」

勘弁してほしいな、と思った。「あいつには彼女がいないから、彼女持ちの悩みが分からないんだ」九条は口が軽い。

「え、彼女いないんだ」優佳は意外そうだった。イケメンなのにねぇ、と呟く。性格が残念だからな、と僕も呟く。

「で、工藤さんとはどうなの?」

「どうもこうも」僕はそう答えるしかない。「普通だ」

「半年も付き合ってるんだし、キスくらいはしてるんでしょ?」優佳はスプーンをこちらへ向けながら言う。

スプーンを向けるな、と手を払う。「キスぐらいはしてるよ」

「ふーん。じゃあエッチは?」優佳は尋ねた後で、あ、おかわりいい? と空になった皿をこちらへ差し出した。

「エッチは……」僕は皿を受け取り、鍋の前に立った。「エッチはまだだな」

「まじかよ!」優佳はスプーンを振り回し、きゃあきゃあと言った。食事中に下品だぞ、と注意する。

優佳に二杯目のカレーを渡した後、僕は自分の皿と弁当を洗い、二階へと上がった。

荷物を適当に置いて、制服をハンガーにかける。普段着に着替えて、机に向かった。宿題をしなければいけないな、と思った。

二十分ほど勉強した後、携帯を確認して、そういえば城野姫子からの不在着信があった、と思い出した。こいつと電話すると時間がいくらあっても足りない、と僕は適当にメールを返す。どうせ、大した用ではないのだろう、と携帯を放り投げる。

二時間勉強して一階に下りると、優佳が二袋目のポテチをつまんでいた。チョコレートも散乱している。「よく食うな」と言いながらポテチに手を伸ばす。「成長期だからね」とテレビから視線を逸らさず、優佳は返した。



風呂から上がったころには十二時半だった。優佳はポッキーを咥え、飴を舐めていた。流石に目に余る。「お前、太るぞ」

「大丈夫だよー」優佳はポッキーをつまんで、手を振った。「私食べても太らないタイプだしー」とけらけらと笑う。

「そんな体質の人間はいない」と返す。

「んー! そういう体質なの!」優佳は足をばつかせた。

体質、ねえ。否定しつつも、僕は優佳の食べても食べても太らない体質、という認めざるを得なかった。この時間帯はいつもお菓子を食べているが、運動はしない。その割には全く太らなかった。羨ましいことこの上ない。

「ところで」と時計を確認する。「お父さんとお母さんは?」

「まだ帰ってないよー」優佳はポッキー二本をつまんで、手を振った。


久しぶりの更新です。

新学期とかいろいろありましたね!

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