プロローグ
りんご【林檎】
バラ科の落葉高木、およびその果実。
工藤が説明を読み上げた。「だから、何だ?」と僕は返す。「工藤、お前、林檎好きなのか?」
僕は図書室の椅子を引きながら尋ねた。鞄を脇に置き、勉強道具を取り出す。
「君さ」工藤が辞書から顔をあげ、非難の目で僕を見た。「なんで半年付き合った彼女の好物を把握してないの?」呆れながら顔をしかめる。
「それに、たまたま目に入ったから読み上げただけだって。たしかに、りんごは好きだけど」
「そうだな」僕は机をくっつけ、向かい合って弁当を食べる時の光景を思い出す。工藤の弁当からは、居て悪いのか、とでも言うように、うさぎ型に切られた林檎が鎮座していた。毎日入っていたな。
「それで、あれだ」僕は工藤の鞄に目をやる。「だから何?」
工藤は不潔なものでも見るように、不快感をあらわにする。辞書を音を立てて閉じ、横に置いた。「何でもない」
工藤が髪を揺らしながら、シャーペンを手に取った。英文をノートに書き写していく。
「それで、今回は大丈夫なの?」顔をあげずに、工藤がたずねた。「わざわざ勉強しようって誘ったくせに、遅刻するし」
「ああ、微妙だ」十二月の中頃、期末テストまで一週間を切っている。「今回はやばいかもな」
「君、いっつもそう言いながら私より点数良いじゃん」工藤が顔をあげずに言った。
「今回は、やばいんだって」僕は筆箱をいじり、シャーペンを取り出す。後ろの消しゴムがなくなってきたな、と思った。
「あー。いるよね、そういう風に言いながら点数取るやつ」工藤は手を動かしている。「こいつの『やばい』は、信用できない『やばい』だ」
「そうそう」消しゴムを抜いて、芯を入れた。「僕みたいなやつだ」
ふん、とだけ言って、工藤は黙った。ペンを滑らす音だけが響いた。
林檎、か。僕は熱心に勉強する工藤を見つめながら、言葉を反芻していた。
内ポケットに入れた携帯が震えているのが分かった。
初心者です。
完結を目標に頑張ります。




