K雨 3
しばらくの間抱きしめ合うと、私たちは突然我にもどり、傘を拾ってから二人で学校へ向かった。
「なんか……色々と、ごめん」
Kにはない左目元のほくろが、細められた目に引き寄せられる。
白い傘に、二人。相合傘をして、ほんの少し、さっきのように寄り添った。
「ううん、私こそ……」
背中に手を回したとき、彼から体温は感じられなかった。それくらい、彼の体は冷えていた。一体、どれくらいの間、雨に打たれていたんだろう。
謝罪をした後、沈黙。それを破ったのは、冷温の彼。
「……俺ら、どうかしてたな。お互いを、好きな人と勘違いしていたなんて」
「そう、だね。好きな人……年下なのに、私。同じ制服着てることすら、気づかなかった」
「年下……。俺の顔って、そんなに幼い?」
困ったように笑う彼は、Kではなく、同じクラスの山吹君、……山吹一那君だった。
落ち着いた今、山吹君の顔を見たら、何故彼をKだと思ったのか、不思議に思えてならない。また彼も、私と同じだと言った。
「けい……って、やっぱ元彼の名前?」
私は一度、首を縦に動かした。
「そっか。こっちのニカってのも、元カノのあだ名」
恥ずかしそうに頭をかく彼は、背中に背負っていた鞄をはずし、二枚のタオルを取り出した。私の傘と、同じ色をしたタオルを。
「ちょっと、拭いていこっか。雨の日に正門で挨拶するのは、生活指導のゴリ松じゃないはずだから」
少し拭けば、変なこと言われずにスルーできると思う。彼は自分の言った言葉に、そう付け加えた。