K雨 1
この頃。生きる理由を探すようになった私は、高校一年生の佐藤夏希と言います。なんて、心の中で自分を紹介する私は重症かな。
大型休暇が明けて一週間目。気が早すぎるかもしれませんが、もう来年の夏休みが恋しくてならない。そんな日に、眠たい目を無理やりこじ開けてまで起き、玄関の扉を開けば大量の水が地面を叩きつけている。ますます学校に行く気がなくなってきた。
自分しかわからないくらいに小さくため息をついてから、真っ白い傘に手を伸ばした。冷たい外気のほうへ向けて広げ、誰も居ない家の中に顔を向ける。
「行ってきます」
呟くように言葉を残し、私は扉を閉めた。
新しく買った黒いローファーが、雨に濡らされていく。私が靴を買うと、いつもこうなる。毎度のことで、もうショックを受けることもなくなった。
いつもの通りにやる気なく学校へ向かって歩いていると、手をつなぐ男女が視界に入った。その二人が交わす言葉は、雨にかき消されることなく全て、耳に。要約すれば、朝から甘い言葉を叫ぶバカップルだ。
そんなカップルを見て思い出す、一つ年下のK。ううん……慧。
Kとはいわゆる彼氏と彼女という関係だった。中学時代を含めて数えれば、多分一年半以上付き合ったはず。過去形なのは、お互いに会える時間が減り、好きっていう気持ちが弱まった、というKの一言により、別れたから。確か、夏休み前だったと思う。……付き合いをやめたあの日も、そういえばこんな風に雨が降っていたな。なんて。
通学路の道端に設置されているベンチには、Kとの昔の思い出がある。忘れはしない。仮にも初恋の人、なのだから。流石にその時々で鮮やかに色づいていた場面を浮かべる、なんてことは恥ずかしくもあり、それ以前に出来ないけれど、けして忘れることは無い。
珍しいこともあるもんだな。いつも座る人の居ないそのベンチには、男の子らしき人が座っている。傘も差さずに。何してるんだろう。そう思い、一歩一歩足を動かすたび、目に力が入るのがわかる。
K……慧……。野口慧。艶のある黒髪が、彼だ彼だと思わせた。
「……慧…………?」
語尾を上げ、確かめるようにして元彼の名をあげたとき、昔の思い出が一気に色づいたような気がした。