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星醒のアマテラス番外クロウ過去編

作者: 度肝抜造
掲載日:2026/10/02

番外編「黒羽クロウ編」

第一話「黒い影を知る者」

アルカディア。

その巨大な研究施設の最深部。

無数のモニターに、魔力波形が映し出されていた。

「……またか」

一人の女性が画面を見つめていた。

天城シズカ。

レイヴンの妻。

そして――

黒羽クロウの母親。

シズカは、ここ数年。

夫の研究を見続けてきた。

最初は、理解しているつもりだった。

闇影。

古代から存在するとされる謎の存在。

それを研究することが、七つの星を守ることにつながる。

レイヴンは、そう語っていた。

しかし。

最近の彼は違った。

研究室に籠もる時間が増えた。

食事もろくに取らない。

人との会話も減った。

そして何より――

闇影について語るときの目が。

以前とは違っていた。

「……レイヴン」

シズカは小さく呟く。

「あなたは……何を見ているの?」

そのとき。

研究室の扉が開いた。

「シズカ」

レイヴンだった。

「ここにいたのか」

「ええ」

シズカは振り返る。

「あなたの研究記録を見ていたの」

「そうか」

「最近……少し変よ」

レイヴンは答えない。

シズカは夫を見つめる。

「闇影の研究に、そこまで執着する必要があるの?」

「必要なんだ」

即答だった。

「これは人類の未来に関わる」

「本当に?」

「……何が言いたい」

シズカは少し迷った。

「あなた自身が……闇に近づいているように見える」

レイヴンの表情が変わった。

「馬鹿なことを言うな」

「……そうね」

シズカはそれ以上言わなかった。

だが。

胸の奥に残った違和感は消えなかった。

---

第二話「少女」

数日後。

シズカは研究施設の一角で、一人の少女を見かけた。

白い髪。

まだ幼さの残る顔。

白蓮ハクレン。

当時、十六歳。

少女はレイヴンの研究室から出てきた。

「……ハクレン?」

シズカが声をかける。

「……シズカさん」

ハクレンが小さく頭を下げる。

「どうしたの?」

「先生に呼ばれていて……」

「そう」

シズカは笑顔を作る。

だが。

ハクレンの顔を見ると。

何かがおかしい。

以前より疲れている。

そして。

どこか怯えている。

「大丈夫?」

「……はい」

「本当に?」

「……」

ハクレンは少しだけ笑った。

「大丈夫です」

その笑顔が。

シズカには無理をしているように見えた。

そして数日後。

決定的な事実を知る。

ハクレンが――

レイヴンの子を身籠もった。

「……嘘」

シズカは言葉を失った。

まだ十六歳。

自分の夫が。

まだ幼さの残る少女に。

自分の子を宿させた。

胸の奥から。

吐き気が込み上げる。

「……レイヴン」

夫の研究室へ向かう。

扉を開ける。

「どういうこと?」

レイヴンは振り返る。

「何の話だ」

「ハクレンのことよ」

沈黙。

「……そうか」

レイヴンは淡々としていた。

その態度が。

シズカの怒りをさらに強くする。

「あなた……何を考えているの?」

「必要だった」

「必要?」

シズカは震える。

「十六歳の子に自分の子を産ませることが?」

「そうだ」

「……!」

シズカは拳を握る。

「あなた、本当に……どうしてしまったの?」

レイヴンは答えなかった。

その瞳の奥に。

黒い光が揺れていた。

---

第三話「闇影」

その夜。

シズカは一人で研究室を調べていた。

レイヴンの研究記録。

闇影の魔力波形。

古代文献。

そして――

一つの研究資料。

「……アマテラス大巫女……」

シズカの目が止まる。

資料には。

ハクレンの魔力。

胎児の魔力。

そして。

闇影に関する記録が並んでいた。

「……まさか」

シズカはページをめくる。

そこに書かれていたのは。

アマテラス大巫女の生まれ変わり。

その魂が――

ハクレンの胎内に宿っている可能性。

「……この子を」

シズカの手が震える。

「闇影は……消そうとしている?」

さらに読み進める。

そこで。

シズカは凍りついた。

研究対象。

クロウ。

「……クロウ?」

自分の息子の名前。

そして。

その身体に関する異常な魔力適合性。

「……違う」

シズカは気づいた。

闇影が狙っているのは。

レイヴンだけではない。

「クロウの身体……」

その瞬間。

背後から声がした。

――そうだ。

「……!」

振り返る。

誰もいない。

だが。

部屋の隅に。

黒い影が立っていた。

人の姿。

しかし。

人間ではない。

――器。

――クロウ。

――そして光の娘。

シズカは震えた。

「……あなたが」

闇影。

「あなたが……レイヴンを……」

影がゆっくりと近づく。

シズカは後退する。

「ハクレンの子を……」

――消す。

「……!」

シズカは確信した。

闇影は。

アマテラス大巫女の生まれ変わりを消そうとしている。

そして。

そのために。

クロウの身体を利用しようとしている。

「……そんなこと」

シズカは拳を握った。

「絶対にさせない」

---

第四話「黒羽」

その夜。

シズカはクロウの部屋へ向かった。

「クロウ」

「母さん?」

十四歳の少年が振り返る。

「どうしたの?」

シズカは息を整える。

「ここを出るわよ」

「……え?」

「アルカディアから逃げる」

クロウは母を見る。

「何があったんです?」

「今は説明できない」

シズカはクロウの手を握る。

「でも、信じて」

クロウはしばらく母を見つめた。

そして。

「……分かりました」

二人は夜のアルカディアを抜けた。

誰にも見つからないように。

何度も道を変え。

森を抜け。

やがて。

夜明け前。

二人はアルカディアの外へ出た。

シズカは振り返る。

「……もう、戻れない」

クロウが言う。

「なら」

「はい」

「これからは……」

クロウは母を見る。

シズカは微笑んだ。

「黒羽」

「……黒羽?」

「あなたと私の新しい名前」

クロウは少しだけ笑った。

「……いいですね」

こうして。

天城シズカは。

黒羽シズカとなった。

そして。

息子も。

黒羽クロウを名乗るようになった。

---

第五話「母の願い」

逃亡生活は。

決して楽ではなかった。

二人は小さな家を借り。

身を隠しながら暮らした。

シズカは研究者としての知識を使い。

薬を作り。

クロウは剣の鍛錬を続けた。

「クロウ」

「はい」

「強くなりなさい」

「……はい」

「でも」

シズカはクロウの頭を撫でる。

「強さは、人を傷つけるためだけにあるんじゃない」

クロウは母を見る。

「守るためにもある」

「……守る」

「そう」

シズカは笑った。

「本当に大切な人を守れる人になりなさい」

クロウは頷いた。

「分かりました」

しかし。

シズカの心には。

もう一つの心配があった。

ハクレン。

そして。

ハクレンの胎内にいる子供。

「……無事に生まれて」

シズカは夜空を見上げる。

「この子を守らなければ」

それは。

母親としての強い使命感だった。

---

第六話「追跡者」

それからしばらくして。

二人の居場所が――

闇影に見つかった。

夜。

家の外。

黒い魔力が漂っている。

シズカは窓から外を見る。

「……来た」

クロウが剣を取る。

「母さん」

「逃げるわよ」

「はい!」

二人は家を出る。

森へ入る。

しかし。

追ってくる黒い影は速かった。

「……もう逃げ切れない」

シズカが立ち止まる。

クロウも止まる。

「母さん?」

シズカはクロウを見る。

そして。

優しく笑った。

「クロウ」

「はい」

「ハクレンと、その赤ん坊を助ける為に――」

シズカはクロウの頬に手を添える。

「貴方は生きなさい」

「……何故です? 母さん」

「自分は母さんの盾に――」

「お願い」

シズカは首を横に振る。

「あなたは逃げるの」

「でも……!」

「クロウ」

シズカの声が優しくなる。

「あの人は……」

一瞬。

目を伏せる。

「貴方の父、レイヴンもまた……闇の被害者なの」

「……父さんが?」

「助けてあげて」

クロウの目が揺れる。

「母さん……」

シズカは息を吐く。

「そして」

「ハクレンの子は――」

少しだけ微笑む。

「貴方にとって、妹です」

「……妹」

「守りなさい」

シズカはクロウを抱きしめる。

「兄として」

そして。

「貴方が守るのです」

「……母さん!」

黒い魔力が迫る。

シズカはクロウを突き飛ばした。

「走って!」

「母さん!」

「振り返らないで!」

クロウは涙を流しながら走る。

「母さん!!」

シズカは一人。

迫り来る闇影を見つめる。

「……あの子たちには」

剣も持たず。

ただ。

静かに立つ。

「指一本、触れさせない」

黒い影が迫る。

そして――

夜の森が。

黒い光に包まれた。

---

第七話「遺言」

どれほど走ったのか。

クロウには分からなかった。

ただ。

母の最後の言葉だけが。

頭の中に残っていた。

――ハクレンの子は、貴方にとって妹です。

――守りなさい。

クロウは立ち止まる。

拳を握る。

「……母さん」

涙を拭う。

「約束します」

夜空を見上げる。

「俺が……守ります」

そして。

数か月が過ぎた。

クロウは十五歳になった。

一人で生きるには。

まだ幼い。

それでも。

剣を握る手は震えていなかった。

「ハクレン……」

母の残した情報を手に。

クロウは再びアルカディアへ向かう。

「アオイ……」

まだ生まれていない。

自分が会ったこともない妹。

それでも。

守ると決めた。

---

第八話「潜入」

夜。

アルカディア。

巨大な施設群。

クロウは遠くから施設を見上げていた。

「……ここか」

腰には剣。

黒い外套。

そして。

胸には母の遺言。

――守りなさい。

クロウは目を閉じる。

「母さん」

小さく呟く。

「行ってきます」

そして。

闇の中へ歩き出した。

目的は一つ。

ハクレンを救う。

そして。

その腕の中に生まれる――

小さな命を守る。

クロウはアルカディアの警備網を抜け。

施設内部へ侵入する。

やがて。

その先に。

一人の少女の姿が見えた。

白蓮ハクレン。

そして。

その腹部。

そこに宿る小さな命。

クロウは息を呑む。

「……この子が」

初めて見る。

自分の妹。

アマテラス大巫女の生まれ変わり。

「……待っててください」

クロウは剣を握る。

「必ず、助けます」

そして。

クロウは――

アルカディアの闇の中へ消えていった。

番外編「黒羽クロウ編」――完。

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