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三つの月のはじまり 創世の民間伝承 ―三つの月の年代記―

作者: しろくま
掲載日:2026/09/07

いまだ地に名なく

海にも名なく

命の息吹さえなきころ


白き月 天に昇り

そのひかりより

地に命は生まれたり


蒼き月 天に昇り

そのひかりより

世に魔力は満ちたり


そして遅れて

赤き月 天に昇り

生まれしものに活力を


白き月は 地を見まもり

その眷属へ慈悲を示し


蒼き月は 海を見まもり

その眷属へ研鑽を示した


赤き月は 全てのものを見まもり

古きものを新しきものへと導いた


三つの月の下

命は生まれ

命は巡り

命は姿を変えてゆく


されどいつしか

隣り合うことを嫌う者あり


共に生きるを選ばず

己が道のみを望む者あり


彼らは天を仰ぎ

赤き月にその拠り所を求めたり


かくて地には争い起こり

血は流れ

火は野を焼いた


そのとき白き月は

地上の者らより

原初の王たちを選びたり


王たちは剣を取り

王たちは民を束ね

荒れし地に

ひとときの安らぎをもたらした


されど海は深く

王の手も届かず


蒼き月の見まもる海の底

争いはいまだ絶えることなし


地に平穏ありとも

海には古き争いの声が残る


やがて時は巡り

原初の王たちは

ひとり またひとりと倒れたり


その座を継ぎしは

王たちの子

そのまた子


使命は血へと変わり

務めは権威へと変わり

いつしか王権は

民を守るものから

民に守られるものへと


その者らは赤き月を恐れたり


変わる力を恐れ

新しきものを恐れ

己が権威を揺るがすものを恐れたり


かつて命を前へ進ませた月を

争いの月と呼び


変化をもたらした月を

災いの月と呼び


ついには

赤き月を害月と呼びたり


白き月は善なる月

蒼き月は聖なる月

赤き月は禍なる月


次王はそう語り

民へ伝え

その子もまた

子へ伝えたり


されど忘れるな


白き月は 生命をもたらした

蒼き月は 魔力をもたらした

赤き月は 活力をもたらした


いずれが上でもなく

いずれが下でもなく


三つありて

この世は生まれた


恐ろしきは月にあらず


月を善し悪しに分けた

人の心なり


三つの神にも等しき月を


二つの神と

ひとつの悪神へ変えたもの


それこそが――


げに恐ろしき

人の業なり


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