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02-01.すれ違い




「え!? 響ちゃんもう戻ってきちゃったの!?」


「うん。先生ももう大丈夫だろうって」


「……本当にぃ?」


「だってほら。顔見てよ。もういつも通りでしょ?」


「……う~ん……まだ顔色悪いと思うんだけどなぁ」


「私ほら。家で勉強しないからさ。授業聞き逃すと後が面倒なんだよ。一日寝てたらそっちの方が気分悪くなっちゃう」


「……顔に似合わないことを」


「あぁん?」


「ごほん……。わかった。信じるよ」


「それでよし♪」


 よしよし♪ これで第二関門突破だね♪ なんとか隙を見て逃げ出した甲斐があったぜ♪



 不審げな様子の琴音から視線を逸らして二限目の授業の準備を始める。


 果たして授業に集中出来るものだろうか。まあどのみち今の時期に大切な事はやらないだろう。というかテストの返却がメインの筈だ。(後で一限目のやつを受け取りに行かないとだ)だから大丈夫。考える時間は十分にある筈だ。なんならベッドの上で考えていてもよかったかもだけど、なんか寝ちゃいそうだったしね。普通に授業でも受けている方がかえって集中出来るってもんよ。それに一人で居るとクヨクヨし続けちゃうもんね。もうそんな事は終わりにするって決めたんだ。



 私は決意した。今度こそ詩葉を捕まえてみせると。そして全ての決着をつけるのだ。私は詩葉の呪縛から逃れねばならない。いつまでも縛られ続けるわけにはいかない。私も先に進むべきなんだ。だからお別れを告げよう。ただ待つのではなく自分から。私の為に。詩葉の為に。


 今度こそ覚悟は決まった。本当だ。朝まで泣いていれば振り切れるものだってあるだろうさ。或いは擦り切れただけかもだけど。ともかく私はもう大丈夫だ。もう一年以上もクヨクヨしていたんだもの。もう十分悩んだ筈だ。何より琴音に心配をかけてしまった。鏡も見ないで学校に来たのは間違いだった。そんなのも今回きりだ。辛いことはさっさと終わらせてしまうに限るのさ。



 さて。覚悟を決めたからには方法を考えないと。


 私がケジメをつけるには詩葉と直接話をする必要がある。正直詩葉からの返事は無くてもいい。けれどスマホでメッセージだけ送って済ませるなんてわけにはいかない。とにかく面と向かって言わなきゃ意味が無い。だからどうにかして二人きりにならないとだ。


 スマホのメッセージで呼び出したって、今更来る筈もないだろう。詩葉には悪いけど、不意打ちでいかせてもらうとしよう。


 しかしどうしたものか。単純に追いかけても捕まらない。詩葉は私よりも足が速い。頭も良い。のらりくらりと交わし続けるだろう。伊達に一年以上も取り逃し続けているわけじゃない。同じクラスにいながら捕まえられずにいたのだ。


 当然、クラスの皆も巻き込むつもりで今すぐに大声を上げれば、詩葉の耳にだって届きはするだろう。けれどそれで日和って表面上だけの仲直りでもされたら最悪だ。そうでなくとも私は誤解されるし、皆に迷惑がかかってしまう。あの噂だって妙な尾ひれがついて今よりもっと広まってしまうだろう。


 それはダメだ。琴音にも迷惑がかかる。三角関係が拗れただのと噂されれば洒落にならない。今の時点でだって影で何を言われているのかはわかったもんじゃないんだ。琴音を悪く言う人達だっている筈だ。そんな人達がより増長してしまうかもしれない。だから論外だ。他の方法を考えよう。



 やっぱり家に居る時にすべきだろうか。ちづ姉なら遠野家の合鍵も持っている筈だ。事情を説明して協力してもらえれば、決別の場にだって立ち会ってくれるかもしれない。


 皆に迷惑をかけるのはマズいったって、ちづ姉に黙って進めるべき事でもない。ならば最初から甘えさせてもらうのも一つの手だ。ママ達まで介入してからでは遅いのだ。


 ただ当然の話だが、ちづ姉は私達を仲直りさせようと働きかけてくるだろう。私がどれだけ耐えてきたのかなんて説明しても、聞き入れてくれる事は絶対にない。ちづ姉の立場からすれば当然だ。私達は二人揃って可愛い妹分だもの。両家の両親から世話を頼まれている立場でもある。私達の決裂を良しとする筈もない。だからかえって話が面倒になるかもしれない。ちづ姉には悪いし、道理には悖るけど、事後報告しか現実的な選択肢はあり得ないのかもしれない。



 協力者と言えば。夏空さんに手を貸してもらうのはどうかな? これも騙し討ちになってしまうけど、どうしても詩葉と話がしたいのだと頼めば誘い出してくれるかもしれない。


 うん。実際これはかなり現実的な手段だ。自分での呼び出しも、公開決別も、自宅に押し入るのも不可能なら、後はもうこれくらいしか無い気さえする。


 ただやっぱり、夏空さんを騙すことが前提の作戦だ。そんな風に加担させるのは外道のする事だ。自分の事しか考えていない独りよがりの方法だ。夏空さんはきっと後悔するだろう。自分のせいで私と詩葉の仲が決裂してしまったとさえ思うかもしれない。私は別に詩葉と夏空さんの仲を引き裂きたいわけじゃない。だからこの作戦は没だ。他の手段を考えよう。



 詩葉が出かけるのを見計らって家の前で待ってみようか。もちろんそんな作戦は既に試している。けれど今度は不意を突けるかもしれない。可能性が皆無とまでは言い切れまい。


 ……いや。本当にそうだろうか。何故か詩葉は私の目論見を回避し続けてきた。幼馴染だから、私の事をよく知っているから。それだけでは納得しきれない程に。


 舐めてかかるべきじゃない。詩葉は油断ならない相手だ。必ず私の目論見の裏の裏まで読んでくる。そのつもりで策を練ろう。けれど誰かに協力してもらうのは無しだ。それでは本末転倒だ。他人に迷惑をかけるくらいなら、大人しくママ達に委ねるべきだ。誠心誠意話せば私達の考えを理解してくれないわけでもない筈だ。


 そもそも私に後ろめたい事はないのだ。詩葉を守る為でもあるからって限度はある。詩葉が最後まで逃げ続けるというなら、いずれ彼女も相応の報いを受けるだろう。どんな理由があったにせよ、詩葉の行動が褒められたものでない事もまた事実なのだから。私にそれを責めるつもりはないけれど。




----------------------




 響が私を見ていない。何やら考え込んでいる様子だ。


 間違いなく私の事だ。響があそこまで思い悩む事はそれ以外に存在しない。園崎さんなんかに言われなくたってわかってる。けれどわからない。昨晩はいったい何があったのだろう。響が寝ていたから私も早々に眠りについてしまった。こんな事なら今朝の内に録画を確認しておくべきだった。配信を観てくれなかったからって不貞腐れている場合じゃなかった。響の考えがわからない事が不安で堪らない。


 私はいったい何を見逃してしまったのだろう。早く帰りたい。昨晩の様子を確認したい。響は独り言の多い子だ。間違いなく口にしていた筈だ。


 あの子の部屋は常に監視している。私は響の全てを知っている。だから知らない事が不安で堪らない。響があそこまで憔悴する程の事だ。いったい何があったのだろう。あの子の全てを知っている筈なのにどうして私にはわからないのだろう。私は本当の意味で響を理解しているわけではないのだろうか。ううん。そんな筈はない。今回は偶然だ。その筈だ。



 お母さん達が帰って来る事と何か関係があるのだろうか。それとも昨日の昼間の出来事が原因? 確かにあそこまで接近したのは珍しかった。けれど致命的ではなかった筈だ。


 まさか噂を気にしているのだろうか。優しい響の事だ。園崎さんに申し訳ないと思い悩む可能性はある。けれどあそこまでではない筈だ。あれは間違いなく私に起因する何かだ。


 きっとお母さん達と何かを話したんだ。今朝メッセージが入っていた。二人の一時帰宅を知らせるものだった。それを聞いた際に何かを言われたのだろう。きっと私に関係のある事だ。私と疎遠である事を相談したのだろうか。ううん。それはない。響なら私を庇おうとする筈だ。だからその後だ。響はいったい何を考えたのだろう。



 待ち遠しい。早く学校が終わってほしい。早く響の事が知りたい。いっそ早退してしまうのも手かもしれない。そんな事をしたら響に心配をかけてしまうだろうか。それとも今の響はそれどころじゃないのかな? 私が居なくなっても気付かない? それは嫌だなぁ……。


 響。話したいよ、響。本当は直接話して全部聞かせてほしい。今の私に対してどう思っているのか。響の悩んでいる事がどんな内容なのか。全部響の口から告げてほしい。


 けれどそれは出来ない。全ては【響のため】。


 もう少しだよ、響。それできっと響は……。


 ああ……。待ち遠しい……。

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