01-05.お節介フレンズ
結局夏空さんは帰っていった。お詫びにとケーキを押し付けて。
これどうしようかな。三つも食べられる気がしないよ。そもそも食べる気も起きないし。ちづ姉に持って帰ってもらおうか。きっと喜んで食べてくれるだろう。
私も昔は甘いものが好きだった。いつからだろう。詩葉と好みが合わなくなっていったのは。そういったズレが積み重なって今があるのかな。私と詩葉は別れるべくして別れたのかな。そういう一つ一つのズレが詩葉にとっては耐え難いものだったのかな。
あの子だって努力していたんだ。私が珈琲を好きになってからは自分も飲むんだって意地を張っていた。私はそんな詩葉を笑っていたっけ。私は何もわかっていなかった。詩葉がどんな気持ちで頑張っていたかだなんて考えもしなかった。やっぱり私のせいだ。私のせいで詩葉は……。
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気付くと夕暮れ時だった。タオルケットが掛かっている。ちづ姉が来ていたのかな。相変わらずのブラウニーさんだ。
……ケーキも無くなってる。一つを残して。これは私の分ってことかな? 全部持っていってくれてよかったのに。けどまあ、それはそれで夏空さんにも悪いか。あの子は本当に悪意があるわけでもないみたいだし。好奇心で首を突っ込んだというよりは、行き過ぎたお節介でしかないのだろうし。
「……美味しい」
悪くない。私好みの味だ。甘さ控えめ。ちょっとだけホロ苦いビターチョコレート。今の私にはぴったりだ。
「お腹いっぱいになっちゃった」
晩御飯は無理そうだ。たっぷり寝ちゃったし眠気もない。今日のヒコマちゃんの配信までは時間もある。先にお風呂にでも入ろうかな。今日はちょっと長めにするのも悪くない。
支度を整えて浴室に向かう。今日は入浴剤も使っちゃおうかしら? うん?
スマホが鳴り出した。琴音からだ。今日はもうバイトが終わったのかな。
「もしも~し」
『あ、響ちゃん。今大丈夫?』
「うん。大丈夫。お風呂入るとこだから少しだけ待ってて」
『え? なら後にするよ』
「いいからいいから。そのまま繋いでて」
手早く身体を洗い、防水ケースに入れたスマホを持って湯船に浸かる。
「~♪ お待たせ~♪」
『……』
「琴音? どうしたの?」
『あ、うん。えっとね』
なんだか声が上ずっている。
「うふふ♪ もしかして想像しちゃった? 響ちゃんの入浴シーン♪」
『え!? えぇ!?』
まさかの図星? 意識するもんでもないでしょうに。
「それで? 何か話したい事があるんでしょ?」
『あ! うん! そうなの!』
あからさまにホッとしてる。このムッツリさんめ。
『さっき奏ちゃんから電話があったの』
「え? 誰?」
『奏ちゃん。夏空 奏ちゃんだよ。響ちゃんも今日会ったんでしょ?』
「ああ。うん。来てたよ。夏空さんがどうしたの?」
『響ちゃんの事を聞きたいって言うから。何があったのかなって』
「話したの?」
『うん。当たり障りのない事はね。ダメだった?』
「琴音の判断なら心配は要らないけどさ。というか琴音って夏空さんの友達だったの?」
『同じ中学だったから』
「そっか。その割には教室で話してなかったよね」
『去年は別のクラスだったから。少しね』
距離が出来てしまったと。あるよね、そういうの。ただ少し意外だ。あの子が気にするとも思えないのだけど。
「もしかして仲良くしろって話?」
『ううん。そうじゃなくて。気になったから』
「そっか。別に何も無いよ。詩葉が留守だったからこっちに来たってだけ」
『それは聞いてるよ。けどそうじゃなくて。昨日の放課後の事。響ちゃん何してたの?』
……げ。
「ちょっと買い物しただけだよ。夏空さんにもそう言った筈だけど?」
『……ハンドクリームを買うだけなら別に駅前に行く必要ないよね? 響ちゃんの家の近くに薬局だってあるんだし』
なんで知ってるし……。
「別に良いでしょ。気まぐれだよ」
『真っ直ぐ帰るって約束したよね?』
「ごめん。途中で思いついちゃったからさ。悪かったよ」
『響ちゃんって普段使ってないよね?』
……そうだった。琴音は全部お見通しだ。私が料理なんてしてないって事も含めて。
もちろん普通の女子高生はそういうの常備してるもんだとは思うけど。実際詩葉も琴音も持ってるし。けれど私は気にしたことがない。なんなら詩葉や琴音が勝手に塗ってくるものって印象しかない。
『お砂糖の場所もわからなかったんでしょ?』
「いやいや。切らしてただけだって」
『響ちゃん』
「……ごめんなさい」
『本当はどこに行ってたの?』
「……下見に」
『下見? なんの?』
「ほら。いつもお世話になってるからさ。ちづ姉にプレゼントを贈ろうと思って」
『それでハンドクリーム?』
「そうそう♪ だから全部本当の事だから♪ ちょっと近場に無い物を求めてただけだから♪」
今度琴音にもプレゼントするからね♪ いつものお礼とサプライズを兼ねて♪ 明日の予定は決まったぜ♪
『誓って?』
「……誓います。私は親友に嘘を付きません」
『なら話してくれる?』
「いいよ♪ 琴音の質問にならなんでも答えてあげる♪」
『遠野さんと何があったの?』
「……それはズルいよ」
『ごめんね。こんなやり方はよくないと思うんだけど』
「なら取り消して。誰にだって踏み込まれたくない事はあるんだからさ」
『……奏ちゃん言ってたの』
「なんて?」
『遠野さんは響ちゃんの事ばかり話すって』
「……え?」
『誰の事かはボカシてるけど、あれは間違いなく響ちゃんのことだって』
「……そっか」
『遠野さんがそういう態度だから噂も広まったんだと思う』
「琴音も知ってたの?」
『うん。私だって無関係じゃないもの』
「……そういうこと?」
『三角関係だって。私は二人の間に割り込む略奪者なの』
「……冗談でしょ?」
『本当だよ。皆そんな風に噂してるの』
「なら夏空さんは?」
『あの子はほら。どこにでも首突っ込むから』
ああ。琴音もそういう認識なんだ。さもありなん。
「ごめんね。迷惑かけちゃったよね」
『ううん。そういう話がしたいんじゃなくてね』
「違うの?」
『迷惑だなんて思ってないよ。そうじゃなくて。どうして響ちゃんは諦めちゃったのかなって』
「……」
『遠野さんは』
「やめて」
『……うん。ごめん』
「……うん」
『……あの、ね』
「うん」
『奏ちゃんとも仲良くしてあげてね』
「結局?」
『悪い子ではないんだよ……悪い子では……』
今目逸らした?
「大丈夫。怒ってないよ」
『そっか。よかった』
「今日のバイトは?」
『これからなの。昼間は部活行ってたから』
「忙しいね。来年は受験生なのに」
『響ちゃんこそ』
「私は授業聞いてれば十分だもん」
『本当にテストの点数だけは良いんだもんねぇ~』
「だけって何さ」
『今度また勉強を教えてくれる?』
「いいよ、もちろん。私も誰かと一緒じゃなきゃ勉強なんてしないし」
『それはそれでどうかと思うなぁ……』
「別に将来やりたい事もないし」
『本当に? 何も無いの?』
「うん。今のところは」
『バーチャルアイドルとかは?』
「あはは♪ 何言ってるのさ♪」
『そっか。そういうのは興味ないんだ』
琴音は何が言いたいのかしら?
『大学は……遠野さんと同じところに行くの?』
どうして話を戻すのか。
「そうだね。推し活は続けるよ。たぶんね」
『……』
ドン引きさせちゃったかな?
『頑張ってね。私、応援してるから』
「え? ……え?」
『本当は諦めてなかったんだね』
「何か勘違いしてる?」
『ううん。ごめんね。余計なこと言っちゃった。けど少し安心したよ』
「何が何やら」
『私は響ちゃんの親友だもん。いつだって味方だよ』
「そっか。それはありがとう」
『もう切るね。そろそろ出なきゃだから。響ちゃんも気を付けて。あんまり長く浸かってると風邪引いちゃうよ』
「うん。ありがとう。琴音も頑張って。私も応援してる」
『うん♪ ありがとう♪ いってきます♪』




