01-04.騒々しい来客
暇だ……暇すぎる……。
折角の休みなのにショート動画を見ながらゴロゴロするだけだ。これは果たして良い週末と言えるのだろうか。
何かやる事でもないかなぁ……。
もちろんヒコマちゃんの動画に飽きたってわけじゃないんだけね。ただ他にやるべき事があるんじゃないかって。そう思うだけなんだよ。青春真っ只中のうら若き乙女としては。
「詩葉がいればなぁ……」
こんな時はいつだって詩葉が隣に居た筈なのに……。
私はそれでも同じように「暇だ暇だ」って呟くのだろう。けれど、それでも言葉を返してくれる人が側に居るっていうのは大きなものなのだ。無くしてしまってから改めて実感する。私にはやっぱり詩葉が必要だ。
……ダメだ。こんなんじゃ。いつまでも詩葉に頼りっぱなしだから捨てられてしまったのだ。詩葉と本当に仲直りがしたいなら、もう一度努力するべきだ。私が変わったと思えば詩葉だってきっと……。
……出来るわけない。私だって努力しなかったわけじゃない。見捨てられるだなんて考えても居なかったけれど、それでも詩葉が望むならって頑張って応えようとしていたんだ。
けどそれも……。
「ピ~ン~ポォーン~~~♪」
……え? 誰?
なんでチャイム鳴らさないの?
なんで自分の口で叫んでるの?
「う~た~は~ちゃ~ん!」
あ、そっちか。
「あ~そ~び~ま~しょ~!」
小学生かな?
「あれ~? いないのかなぁ~?」
あの子はまったく……。
そういうのダメだって、ほんとにさ。
世の中意外と物騒なんだからさ。一軒家に女子高生の一人暮らしとかバレたら何があるかわからないんだよ。流石に止めないと。詩葉に何かあれば悔やんでも悔やみきれない。
「ちょっと!」
ベランダに出て通りの方へと呼びかける。
「あ! 響ちゃん!」
なんで名前の方で呼ぶのさ。昨日は鳴宮さんだったじゃんさ。
「そこで待ってて!」
「うん! わかった~!」
しかたない……。
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「いや~♪ ごめんね~♪ 突然お邪魔しちゃって~♪」
ほんとだよ。
「あ♪ これどうぞ♪ 詩葉ちゃん居ないみたいだし一緒に食べようよ♪」
え? ケーキ? 甘い物なんて久しぶりだ。詩葉は好きだけど私はあんまりだから。昔は私も好きだったんだけどね。しかもこれ、詩葉の好きなお店のやつじゃん。きっと中身も詩葉好みのやつなんだろう。この子は本当に詩葉の友達らしい。信じ難い事だけど、家に上がったのも一度や二度じゃないのだろう。
「ありがとう。お茶淹れるね」
「うん♪」
未だに名前も思い出せないクラスメイトのAさんをリビングに通しつつ、私はキッチンに向かう。
グラスに氷を入れて、ペットボトルの珈琲を注いで持っていく。
「ごめんね。これしかなかった」
「ううん♪ ありがとう♪」
お茶淹れるとか言っておいてなんだけど、私は珈琲しか飲まないから家にはお茶っ葉なんてありはしない。いや、もしかしたらちづ姉が買って置いておいてくれているのかもだけど、その場所もわからない。
「あ、ごめん。やっぱりお砂糖だけでも貰えるかな?」
「え? 砂糖?」
「え?」
「ああ。うん。砂糖ね。あったかな」
「え? 料理にも使うでしょ?」
そりゃそうだ。
「そうじゃなくてさ。シロップがないかなって」
「あはは♪ そういうことね♪」
普通はアイスコーヒーに砂糖をそのままぶち込む事はしないだろう。かと言って私はブラックしか飲まないからそれこそ買い置きがあるとは思えない。それでも以前は欠かさず置いてあったものだけど。
とはいえまあ、探すだけは探してみよう。砂糖の方は見つかるだろう。シロップを探すふりをすれば時間が稼げる筈だ。ついでに牛乳でも持ってこよう。そっちは冷蔵庫で見かけたし。珈琲用のミルクじゃないけどまあいいよね。
……あれ? 無いぞ? 砂糖すら見つからない? そんなことある? もしかしてちづ姉ってここで料理してるわけじゃないの? そんなわけないか。痕跡はあるし。単に砂糖はたまたま切らしていただけなのだろう。
「ごめん。砂糖の買い置きもなかった。ちょっとコンビニ行ってくるね」
「え!? いいよそんな!」
「そう? 牛乳はあるからこれでもいい?」
「うん! ありがとう! 十分十分!」
そっか。ならお言葉に甘えて。
新しいグラスを取り出し、珈琲を少しだけ入れて牛乳を注いでいく。
「こっち飲んで。それは私が貰うから」
「ありがとう♪ わ♪ 丁度良い♪ 上手だね♪」
「詩葉も飲めないから」
「あ♪ そっか♪ 詩葉ちゃん甘党だもんね♪」
あの頃は買い置きもあったんだけどね。もしかしたらよく探せばまだ残っていたのかも。賞味期限が残っているかは疑問だけど。
「詩葉に連絡しなかったの?」
「既読付かなくてさ~」
それでなんで来たし。しかも手土産まで持って。
「前から約束してたの?」
「ううん♪ けどほら♪ 今日って詩葉ちゃんの誕生日だから♪」
「え? 違うよ?」
「え?」
「私達の誕生日は来月だよ?」
「え? あれ? あっれぇ~?」
わざとらしい。でも何故そんな嘘を?
「そういう理由ならケーキは貰っちゃったらダメなやつじゃん。まだ箱も開けてないし冷蔵庫に入れておこう。詩葉が帰るまでうちで時間を潰してなよ」
「あ! いや! そこはちがくて! これはほら! 響ちゃんの分もあるの!」
最初から私達を集めるつもりだったってこと? 誕生日を一月早とちりしたと言い張って、私と詩葉をお茶の席に着かせて秘密を暴こうとしたの?
「なんで私にまで? こんな事を言うのはあれだけど、私はあなたの名前も覚えてないんだよ?」
「え?」
ああ。これはマジっぽい。
「ごめんね。興味本位で首を突っ込もうとしているならやめてほしいな」
「ちがっ! 違うの! 私はただ!」
「私と詩葉はあなたが思っているような関係じゃないよ」
ここはハッキリ言っておくべきだろう。これ以上引っ掻き回されても嫌だし。
「ごめんなさい! 違うの! 私はただ二人が一緒に居られるようにしてあげたくて!」
「余計なお世話だよ。私達の意思で今の関係を続けてるんだから」
「そうだよね! ごめんなさい! 本当に!」
本当に余計なお世話だ。こういう子は何度言っても同じ事を繰り返すだろう。詩葉にもそうやってしつこく付き纏っているのかもしれない。詩葉はお人好しだから。私と違って。
「悪いけどやっぱり帰ってもらえるかな。ケーキも持って帰ってよ。本当に詩葉を祝ってあげたいだけなら来月また出直したらいいよ。私には構わないで。あなたは詩葉の友達であって私の友達じゃないでしょ」
「響ちゃん……」
「そんな呼び方をされる理由も無いと思うけど」
「……そう……だよね」
……流石に少し言い過ぎたかな。
「わかった! 出直してくるよ!」
何もわかってない……。
「私は奏! 夏空 奏! 友達になろう! 響ちゃん!」
えぇ……。




