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04-12.炎上騒動




『響ちゃん!!』

『詩葉ちゃん!!』


 わっ!? 声でっか!?


 詩葉の電話の方まで聞こえてきたよ。



『『無事なの!? 怪我はない!?』』


 どうやら二人もSNSで私たちの情報を見かけたようだ。或いは詩葉が根回しでもしたのだろうか。あの二人は色々知っているからね。知らないクラスメイトから何か聞かれるかもだし。



「うん。こっちは大丈夫」


 一先ず身体的な害はなかった。そこだけは喜べよう。


 SNSも一部では激しく盛り上がっているけれど、それでも恐れていた程じゃない。まだそんなに時間が経っていないからっていうのもあるのだろう。けどまあ、登録者十万人ってことは、国の人口の0.1%にも満たない数字だ。千人に一人も知らないのだ。うちのクラスでは何人か知っている様子だったけど、普通に考えれば学校に一人知っている人がいるかどうかって程度だ。当然年代とかでも偏りはあるんだろうから確実にどうこうとは言えないけど。ヒコマちゃんの知名度はまだそこまででもなかったのが幸いだった。



『登録者どんどん増えてるよ!』


 え? マジ? 肝心なとこ見てなかった!


『もう十二万人越えたって!』


 は? え? なんで?


『拡散されてるの! 二人の写真も!』


「そっちは詩葉が申請出してるから。直に消えるとは思うんだけど……」


 とはいえそれも何時間も後の話だろう。


「とにかく琴音たちも落ち着いて。クラスの誰かから連絡来るかもだけど、絶対に何も答えないようにしてね」


『うん! そうするよ!』


「ありがとう。迷惑かけてごめんね。それから奏との件も」


『気にしないで! それより今はそっちのことだよ! ごめんね! 電話かけちゃって! スマホ使ってるよね! また今度ね! 何かあれば何時でも相談してね! 頑張って!』


「うん。琴音もね。奏と仲良くやるんだよ」


『大丈夫だってば! じゃあ切るからね!』


「ふふ♪ ありがとう♪ 琴音♪」


 詩葉の方は先に通話を終えていたようだ。再びスマホを使って火消し作業に集中している。



「本当に増えてる……」


 おかしい。いくらなんでも不自然だ。炎上したからって速すぎる。


 現状詩葉はなんの反応も示していない。ヒコマちゃんとしてもオシロちゃんとしても一切コメントは上げていない。ただ粛々と対処しているだけだ。だというのにSNSは盛り上がり続けている。知名度の高い遊園地だったからその辺りも原因なのだろうか。目撃者が多かったことも関係しているのだろう。


 しかも私たちが物陰でコソコソしていたことも見られていたらしい。流石にそっちの写真は無いようだけど、根も葉もない噂に混ざってそんなコメントまで流れてくる有り様だ。


 まさかこれ程多くの人たちが注目しているとは思いもしなかった。当然この殆どが根拠のないデタラメではあるのだろう。しかし本当の目撃者たちも確実に混ざっている。あの場で逃げ出したことでかえって影響を広げてしまったのかもしれない。とはいえ捕まっていたら何をされたかわからない。あんな場所で追いかけ回すような奴らだ。思い返したらムカムカしてきた。ダメだ落ち着け。詩葉が必死に頑張っているんだ。私が邪魔をするわけにはいかない。



「響はもう見ないで」


「……うん。わかった。けど一人で抱え込んだらダメだよ」


「なら触ってて」


 どこをじゃろ。取り敢えず腿か? 両手は塞がってるし。今の御時世、後部座席も横になったりしちゃダメだもんね。シートベルト付けてないとだから。膝枕も論外だ。



「エッチ」


「どこ触ればいいのさ」


 腕に触れたら邪魔でしょうに。まさかキスしろって話でもないだろうし。ないよね?



「そこでいい」


 了解。



 ……。


 …………。


 ………………。



「響」


「うん」


 詩葉が指を絡めてきた。少し落ち着いたのかもしれない。或いは手の施しようが無い程に広がりすぎてしまったのかもしれない。



「もういいの?」


「ううん。続ける」


「休憩?」


「そんなとこ」


「私もやるよ?」


「ダメ。見ないで」


「これは二人の問題だよ」


「それでも」


「そっか」


「ごめん。響」


「いいんだよ。私こそごめんね。詩葉」


「響のせいじゃない」


「私のせいだよ。私の声でバレたんだもん」


「ハンドルネームも」


「そうだった。ごめん」


「どうして『like』じゃなくて『love』なの?」


「愛してるからに決まってるじゃん♪」


「私は『like』がよかった」


「なんでさ」


「恋はその中間だから」


「私の愛が不満と申すか」


「うん。不満。ずっと不満だった」


「今その話する?」


 ママたちもいるんだぜ♪ 空気読んでなんも言わんけど。絶対ニヤニヤしてるでしょ。間違いない。



「響は私のことが好き過ぎなの」


「それをわかっていて遠ざけるんだから酷い話だよね」


「なんでそんなに好きなの?」


「知らないよ。生まれた時から夢中なんだもん」


「……ぷっ」


「ちょっと。今笑ったの誰? 詩葉じゃなかったよね?」


「「「……」」」


 そうかいそうかい。惚けるつもりかい。



「てことはママだな」


「なんでよ。ふふ」


「ほらママじゃん。詩葉ママはちゃんと謝ってくれるもん」


「いやねえ。この子ったら。ぷぷ」


「もう。笑ってる場合じゃないんだよ? 可愛い可愛い娘たちの一大事だよ?」


「一緒に海外行く? 向こうの大学受けなさいよ。あなたたちなら何の心配も要らないわ♪」


「ちょっと楽しむのやめてよ。冗談じゃないんだから」


「わかっているわ。けれど根を詰めすぎても良い事はなにもないわよ。こうなった以上は一生付き合っていくしかないんですもの」


「親らしからぬ落ち着き具合だよね」


「まあ。響のママはこの私よ? いったい誰の様子と比べているのかしら?」


「パパが知ったらなんて言うか」


「ふふ♪ そうね。あの人が知ったら卒倒するわね♪」


「まだ伝えてないの?」


「タイミングを見て伝えるわ」


 まあそうね。今伝えてもね。



「数日は片っ端から証拠を集めて削除申請を上げ続けるしかないわ。早ければ明日以降にでも反映されるでしょう。それでいくつか大元になっている情報源を潰せる筈よ。けれど完全には消えないわ。そこはそういうものとして付き合っていくしかないわね。最後の配信もタイミングを見計らいましょう。明日はダメよ。少なくとも一週間は空けるべきね。状況次第では二週間以上時間をおきましょう。配信枠の取り消しと、SNSのコメント欄の閉鎖と、それからチャンネルの非公開設定は済んでいるのよね?」


「はい。そこまでは」


「結構よ。流石は詩葉ちゃんね。こういう時の下調べもバッチリね♪」


「ママこそどうしてそんなこと知ってるの?」


「知り合いに詳しい人がいるのよ」


 さっきの電話か。なるほど。



「後は学校にどんな影響が及ぶかよね。耳に入る可能性はあるわ。ちづちゃんにもまた協力してもらいましょう」


 マジごめん……。いつもいつも……。



「詩葉ちゃんはいつも学年で一番の成績だものね。きっと先生方も何かしら言ってくるとは思うの。だから夏休み中に全て終わらせてしまいましょう。あなたたちの高校はバイトが禁止ってわけでもないから、活動を辞めた後でならあまり厳しく言われることもないと思うの。もちろん実害の出ない範囲であればね。この後苦情が殺到するとかってなればまた話は変わってくるかもしれないけれど」


 よくわかんない人はいるもんね。なんの関係も無い人が何故か学校にクレームを入れてくるなんてこともさ。



「流れたのは容姿と下の名前だけよ。今のところ住所や学校に関することなんかは出ていないわ。だからって下手に根回しなんてしてはダメよ。それがかえって話を広げてしまうもの。元々正体を知っていて信頼出来る子以外には伝えないでね。あとは……」


 ありがとう、ママ。たくさん調べてくれたんだね。



「とにかく冷静にね。反応を示せば余計に長引くわ。あなたたちは少しばかり遊園地のスタッフさんや他のお客様方に迷惑をかけてしまっただけよ。他に悪いことは何もしていないわ。何を言われても気にしないでね」


「「はい!」」


「うん♪ 良いお返事♪ もちろんママたちも協力するわ♪ 頑張りましょう♪」


 うん!

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