04-11.遊園地デート・続
「詩葉……ダメ……行かないと……人来ちゃう……」
「……」
これで何度目だろう。詩葉に物陰に連れ込まれたのは。どうやら火が付いてしまったらしい。これまで散々我慢してきたのを取り戻すかのように啄んでくる。
「響のせいよ」
「ごめっんん!?」
ダメだ。全然止まってくれそうにない。
「あっ!? ちょっ!? そこは!?」
しまいには手まで出してきた。
「鼓動が速いわ」
「……そりゃあね。誰かに見つかっちゃうかもだし」
「羞恥プレイが好きなのね」
「なんでそうなるのさ」
「今日は違うもの」
「詩葉もね」
「最初にしてきたのは響よ」
「詩葉が誘ってきたんじゃん」
「本当にするなんて思わなかったわ」
「よく言うよ。何度も煽ってきておいてさ」
「忍耐力が足りないんじゃない?」
「詩葉こそ。忍耐力に自信が無いから逃げたんじゃん」
「そうよ。わかっていて突き崩したのでしょう?」
「ここまでとは思わなかった。せめてTPOは弁えて」
「だから隠れているじゃない」
「もう終わり。帰ったらいくらでもさせてあげるから」
「ここじゃなきゃ意味が無いわ」
「ここでだって意味はないよ」
「自分で言ったんじゃない」
「そういう意味で言ったんじゃない」
「同じよ。緊張も欲情も」
「極端過ぎるよ。ずっと避けてたくせに」
「響のせいだって言ってるでしょ」
「わかったから。謝る。だから今は戻ろうよ」
「そんなに嫌なのね」
「うん。嫌だよ。こういうドキドキは好きじゃない」
「意気地なし」
「どうせなら幸せな気持ちになりたいもん。教えてって言ったのはそういう意味でだよ」
「私は響の心を動かしたいの」
「安直過ぎるんだってば。もっとテクニックを駆使してよ。真っ当な手段で私を夢中にさせてみて。そうしたら喜んで受け入れるから」
「それじゃあダメよ。少しくらい抵抗しなさいよ」
「意味がわからないよ」
「初めての経験に緊張して戸惑って恐怖を感じる方が恋らしいじゃない」
「姉や母親のように包み込むのはダメだって言いたいの? それは杞憂だよ。私だって緊張くらいするんだよ」
「足りないわ」
「だからってこっちの方向性はやだよ。普通に集中出来ないもん」
「少しは合わせなさいよ」
「詩葉は勘違いしてるよ。さっきの。暗闇のさ。コースターでさ。最初の一回目は良かったでしょ? あんな感じにさ。誰にも見られないところでさらっと交わすのが良いんだよ。秘密にドキドキする方が健全だとは思わない? 危機感で緊張するのは違うと思うんだよ。やっぱりさ」
「……わかった」
ようやく開放してくれた。
「じゃあ戻ろっか。次はどこに行く?」
「お化け屋敷」
「味をしめたね」
「まだまだ味わい足りないもの」
「よく今まで我慢できてたよね」
「反省なさい」
「詩葉の気持ちは嬉しいよ」
「無駄なことだとでも言いたげね」
「そんなこともう二度と言わないよ」
「……そう」
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詩葉は機嫌を直してくれた。隙を見ては口付けてくるものの、あからさまな暴走は控えてくれている。
「そろそろ時間だね」
「そうね」
「まだ物足りない?」
「……そうね」
「詩葉のエッチ。そっちじゃないよ。見過ぎだよ」
「……」
どっちがキス魔なんだか。
「あ、ほら。ママたち居たよ。お~、むぐっ!?」
詩葉!? なに突然!?
「おい! 今の! やっぱオシロちゃんだ! 言ったろ! 聞こえたって! この近くだ! きっとヒコマちゃんも! あの子たちじゃねえか? さっきも近くに! お~い! そこの君たち~!」
マズい!?
「あ! 逃げた! あの二人だ! 間違いねえ!」
詩葉に手を引かれて駆けていく。パレードを見に集まってくる人混みに逆らって走り続けるのは困難だ。早く隠れる場所かスッタフさんを探さないと。
「足速!? ちょっと! 誰か! その二人捕まえて!」
なっ!?
「ちっ!」
人が集まってきた!? なんでよ!? まるで私たちが悪いみたいじゃん!?
「違うんです! 私たちは!」
「やめなさい!」
詩葉は私の言葉を遮って駆け続けた。私の手を引いたまま、どうにか人混みの隙間を抜けていく。
「いた! スタッフさん! 助けてぇ~!!! 追われてるんです!!! えっ!? 詩葉!? 待って! あっち! あっちだよ! 詩葉!」
「黙って!!」
なんで!?
「”うたは”だってさ! ヒコマちゃんの本名で間違いねえよ! 『vicky-utalove』ってそのまんまじゃん!」
そんなっ!?
「え? ヒコマちゃん?」
「あの逃げてる子?」
「ヒコマちゃんって誰?」
「バーチャルアイドル? まじ? 身バレしたの?」
「ヒコマちゃんの本名”うたは”なの?」
「ならもう一人がオシロちゃん? vickyも本名?」
「写真写真! マジ美少女じゃん!」
「俺推しちゃうかも♪」
「やばくね? 追っかけてるやつ取り押さえようぜ」
「誰を抑えんだよ。すげえ人数だぞ」
「てかスタッフの方に逃げねえの?」
「なんかやましいことでもしてた?」
「彼氏でもいんじゃね? 追っかけてる奴だったりして♪」
「一人じゃ抑えらんねえっしょ。あんなの」
「あれ? あの二人ってさっき……」
「あ、マジじゃん。なんで追っかけられてんの?」
マズい! マズいマズいマズい!! このままじゃ余計に広まっちゃう! なんとかしなくちゃ! けどどうやって!
「うたっ!? ちょっ!? まさか!?」
そっちはパレードの!?
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「「ごめんなさい!!!」」
「はい。お話は十分にわかりました。お客様にお怪我がなくて何よりです」
パレードの近くにいた警備員の方々に保護して頂いた私たちは、外の状況が落ち着くまでバックヤードに匿ってもらえることになった。
「他にお連れ様はいらっしゃいますか?」
「親が来ています。私から連絡します」
「ではこのようにお伝え下さい」
スタッフさんの案内の下、ママたちと合流した私たちは園の外まで連れ出して頂けることになった。
「重ね重ね申し訳ございません。本当に助かりました」
「はい。ご無事で何よりです。どうかお気をつけてお帰りください」
本当にご迷惑をお掛けしました。
詩葉ママの車に乗り込み出発した私たちは、ようやく一息つくことができた。
「ごめんね、ママ。詩葉ママ」
「「二人が無事でよかったわ」」
うん……。
「そうとも言い切れないわ……」
詩葉はスマホを覗き込んで苦々しい顔をしている。
「写真上がっちゃってる?」
「名前も。私だけじゃなくて響もよ。いったいどこで聞いていたんだか」
「そっか……。ごめんね、詩葉。こんな事になっちゃって」
もう続けられないよね……。ヒコマちゃんは……。
詩葉は黙々とスマホを使って証拠集めと火消しを始めた。盗撮写真と実名を乗せている投稿をスクショして、プラットフォームの通報機能を使って削除申請を送っていった。
「お母さん。次の配信で最後にするから」
詩葉はスマホを注視したまま、運転中の詩葉ママに短く告げた。
「そうね。あなたはよく頑張ったわ」
折角ここまでやってきたのに……私が……。
「響ママ。ごめんなさい。約束が」
「ちがっ! 詩葉が約束を破ったんじゃないよ! 私のせいなんだよ! 私のせいでバレちゃったの! 私が!」
「大丈夫よ、響。正直ね。その約束って詩葉ちゃんが勝手に言ってるだけだから。こんな言い方するのはあれだけどね」
「え……」
「詩葉ちゃんはね。響を養えるようになったら自分にくださいって言ってくれたの」
「それで……」
「私たちは言ったのよ? 二人ともまだ子供なんだから、子供らしい恋愛をしなさいって」
ママ……。
「ふふふ♪ けれどこうなってしまった以上は責任を取ってもらわなくちゃよね♪ デジタルタトゥーって怖いのよ? ヒコマちゃんの知名度がまだそこまでだからって安心してはダメよ。責任の取り方はわかっているわよね♪ 詩葉ちゃんが貰ってくれるのよね? 私の可愛い娘よ♪ 一生大切にしてくれるかしら?」
「……はい。必ず」
「ちょっと! 車の中でする話じゃないでしょ!?」
「そう思うなら響は大人しくしていなさい。詩葉ちゃんなら大丈夫よ。それに何かあってもママたちがいるわ。取り敢えず夏休みいっぱいはこっちに居ることにしたから。後はみんな任せておきなさい」
そう言ってママもどこかへ電話を掛け始めた。たぶん知り合いの弁護士さんか何かだと思う。今後の対応を相談しているようだ。詩葉に任せるって言いながら本当に黙って待っているつもりもないらしい。たぶんパパたちにも連絡してあるのだろう。飛行機だってキャンセルした筈だ。遊園地のお客さんやスタッフさんたちだけじゃない。みんなに迷惑をかけてしまった。それもこれも私が油断したせいだ。詩葉だけならヒコマちゃんだってバレなかった筈なのに。私が上手く声を変えられていなかったから。私が大声で詩葉の名前を呼んだりしたから。私が……。
「響」
「ごめん……ごめんね……詩葉……」
「響のせいじゃない。全部私のせい」
「違うよ。だって詩葉は頑張ってたもん。私が」
「響を巻き込んだのは私よ。響」
「それだって……」
「"響のため"は"私のため"なの。私が響に振り向いてほしくてしていたことなの。全部私の責任。だからね響」
「……」
「これからも付いてきてくれる?」
「……うん。なんでもするよ。詩葉を信じるよ」
「ありがとう。響」




