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04-03.恋心




 詩葉は私の机に向かって作業を始めた。



「それ何やってるの?」


「動画編集」


「手伝えることある?」


「いずれ教える」


「見てていい?」


「好きにして」


 今日はいっぱい喋ってくれている。嬉しいな♪



 私も画面を覗き込むためにママの部屋から椅子を拝借してきた。



「~♪」


「……」


 詩葉はこちらから問いかけない限り口を開かない。ただ黙々と手を動かし続けている。



「もうすぐ十万人だね♪」


「記念配信するから」


「楽しみだね♪」


「……そうだね」


 そうでもなさそう。緊張してる? それとも忙しいから?



「詩葉は将来どうするの? バーチャルアイドル続ける?」


「うん。暫くは」


「なら私は普通に就職」


「しなくていい」


「え゛?」


「私が養う」


「やだよ。普通に社会人になってみたいもん」


 具体的な夢はないけど、普通の大人には憧れるお年頃なのだ。響ちゃんは。



「ダメ。響に進路の決定権なんて無いよ」


「愛が重い……」


 監視カメラ仕掛けるくらいだもんね。今更か。



「嫌なの?」


「嫌だって言ってるじゃん」


「諦めて」


 取り付く島もない。



「私だって詩葉を養いたい欲求はあるんだよ?」


「認めない」


「詩葉の言う恋って随分と一方的なものなんだね」


「だとしたら我慢なんてしてない」


「詩葉は私をコントロールしたいの?」


「将来二人の時間を作るため。そのために今頑張ってるの」


「なんで一人で頑張っちゃうのさ」


「響だって頑張った。一人で耐えてくれた」


「それだって先に言ってくれたらよかったのに。私はそんなに信頼できない? 詩葉の邪魔をするって思われてるの?」


「響との関係が続いていたら私は頑張れなかった。絶対に」


 だからか……。



「それが答え?」


「半分。後は自分で気付いて」


 それに気付いたら信じてくれるのかしら?



「やっぱり私たちには必要だと思う。別々に過ごす時間が」


「そうすれば気付いてくれるの?」


「どうかな」


 確かに詩葉の言う通りなのだろう。私は詩葉に恋をしていない。詩葉と一緒に居てドキドキする事はない。安心感しか感じない。詩葉は私の片割れだ。私の一部だ。私の半身だ。



「努力して」


「ならキスして」


「やだ。自覚のない響に手なんか出せない」


「気を遣ってるの?」


「勿体ないから」


「今更じゃない?」


「意味が薄れる」


「溜めておきたいんだ」


「けどいつまで我慢出来るかはわからない」


「それを知られたくなかったの?」


「……」


 図星っぽい。なるほど。詩葉は私を押し倒したくて堪らないわけだ。だからこそ私を遠ざけたのだろう。私はきっと受け入れた。けれどそれは詩葉の望む形ではなかった。


 詩葉の我慢とはそういう意味か。ずっと私相手に欲情していたんだ。私が気付けないずっと前から。けれど私は気にもせずにくっついていた。詩葉の手を握って、抱きついて、口付けして、お風呂に入って、一緒に眠って。


 詩葉はずっと我慢を続けていた。私が恋に目覚めるのを待っていた。そうでなければ手を出せなかった。全部今まで通りだ。詩葉が先に進んで私が追いかける。けれど今回ばかりはいくら待っても追いかけて来なかった。だから詩葉は私を遠ざけた。私の心を目覚めさせたかった。どんな手を使っても。詩葉はそんな悩みをママたちにも打ち明けたのだろう。



 本当に全てを正直に明かしたんだと思う。


「お宅の娘さんに恋しています。けれどあの子は気付きもしないんです。私の気も知らずにベタベタ触ってくるんです。もう気がおかしくなりそうです。いつ襲ってしまうかわかりません。だから距離を置きます」


 と。そんな風に伝えたのだろう。ママたちもそこまで打ち明けられたからこそ協力したのだろう。ちづ姉も。



「ねえ。やっぱり無理だよ」


「……」


「私は詩葉が愛しくて堪らないの。ドキドキはしないけど抱きしめていたいの。これが恋ってことにならないかな? 詩葉も受け入れてくれないかな?」


「やだ」


「詩葉は我儘だよ」


「全部響が悪い」


「詩葉のせいだよ。詩葉が私に優しすぎるから悪いんだよ」


「だから突き放した」


「もっと徹底的にやるべきだったね。一度本気で喧嘩するべきだったんだよ。お互い別の高校に進学して一度忘れるべきだったの。けれど詩葉は逃げた。詩葉は臆病者だ。私が詩葉と決別しようとした途端にボロを出した。詩葉は最初から私を遠ざけられてなんていなかった。けどそれじゃあダメなんだよ。詩葉だって私にとって詩葉がどれだけ大切な存在なのか理解してないんだよ。詩葉は私の一部なの。それを忘れさせたいなら完全に距離を置かなきゃダメだったの。私に諦めさせなきゃいけなかったの。詩葉は私の前から姿を消すべきだったの。けれど詩葉はそのチャンスを逃した。もう二度とそんな方法は選べない。私は知ってしまったもの。だから諦めて詩葉。私に別の感情を抱かせるなんて無理な話だよ」


「……」


 泣いている。突きつけるべきではなかったのだろうか。



「でもさ。一つだけ方法はあるかもしれないよ」


「……」


 少し怒っている。私が気休めを言おうとしているとわかるのだろう。



「いっぱいキスしようよ。そういう行為って普通はドキドキするものでしょう? 逆になっちゃうかもだけどさ。詩葉が育ててみてよ。詩葉って教えるの上手だもん。きっと上手くいくよ。今までみたいにさ」


「……バカ」

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