01-03.週末の放課後
「~♪」
「お! 響ちゃん! 今日もご機嫌だねぇ~♪」
「やあ♪ 原さん♪ 出玉の調子は♪」
「絶好調よ♪」
「それは何より♪ 隣いいかな♪」
「もちろんだぜ♪ 俺と響ちゃんの仲じゃねえか♪」
預けていたメダルを機械から引き出し、それを持って隣の席につく。流石の私でも顔馴染みの側を選ぶ程度の危機感くらいは持っている。変な人に声をかけられても面倒だし。
「最近学校はどうでい?」
「絶好調♪」
「そうかい♪ そろそろテストの時期だろ? よっぽど自信があるのかい?」
「完璧だったぜ♪」
こう見えて成績だけは良いんだから♪ 詩葉の英才教育の賜物だぜ♪
「はぇ~。人は見かけに寄らねえもんだねぇ~」
「ちょっと。それはどういう意味さ。原さんの目には私がいったい何に見えてるの?」
「チンチクリンの不良娘」
「酷い!」
「事実じゃねえか」
「ちょっとタッパが足りないだけだもん!」
「ダメだぜ。お前さんみたいなおこちゃまがゲーセン通いなんかしてちゃ」
「誰かさんが守ってくれるからね♪ そんなおこちゃまでも安心だぜ♪」
「はは♪ 悪い大人もいたもんだ♪」
「パパって呼んであげようか?」
「バカ言ってんじゃねえよ。俺を嵌める気か?」
「冗談だよ♪」
「ダメだぜ。昨今そういうの厳しいんだ。俺が通報されたら響ちゃんだって補導されちまうぜ?」
「それはマズい。親友にバレちゃう」
「俺だってかみさんにバレちまう」
「仕事は?」
「そいつぁ聞かねえ約束だろ♪」
「これは失敬♪」
実際、原さんはどんな仕事をしているのだろうか。そういう話は聞いた事がない。大体いつもゲーセンにいるし。かといって引退したにしては少し早い。お爺さんではあるんだけど、なんというか、活力に満ちあふれている。ゲーセン通いの名物爺さんのくせしてやたらと身なりが良い。というか姿勢が良い。その上気前と気風も良い。まさに理想のオジサマだ。私にその手の嗜好は無いけれど。
暫くコインゲームで遊んでから、増えたメダルを持って席を立つ。
「もう帰るのかい? 今日は早いねぇ」
「うん。約束したからね。遅くなる前に帰るよ」
もう約束は破っちゃったけど。せめて日が暮れる前には帰らないとね。
「そりゃいいことだ♪ またな♪ 響ちゃん♪」
「うん。今日もありがとう、原さん」
「なぁに♪ お互い様ってもんよ♪」
私が一方的にお世話になってるだけだよ。原さんって迫力あるから。それに顔も利くからね。ナンパ避けの効力は抜群なのだ。その上、お悩み相談にまで乗ってくれるし。至れり尽くせりだ。私にそういう趣味があれば惚れていたかもしれないぜ♪
メダルを機械に預けてゲーセンを出る。そのまま迷うことなく帰路に着く。
「あ! 鳴宮さん!」
げっ!? 誰かに見つかった!?
「今駅前から来たよね? もしかして寄り道?」
「あはは~。ちょっと買い物にね~」
えっと……誰だっけ? クラスメイトの……あかん。
「そっか♪ 何買ったの?」
「えっと……ハンドクリーム……とか」
「あ♪ そっか♪ 鳴宮さんって今一人暮らしだもんね♪ 家事とか大変なんだね♪」
何故知っている……。
「あはは~。その話はさ」
「あ! ごめん! 外で話すような事じゃなかったよね! 行こう!」
クラスメイトのAさんは私の手を掴んで駆け出した。
暫く駆け抜けてから、周囲をキョロキョロと確認して誰も付いてきていないか警戒している。
「ほんっと! ごめん!」
「大丈夫大丈夫。もういいから」
どうやら悪い子ではないようだ。少しばかりお口は緩いみたいだけど。
「お詫びに家まで送るよ!」
「え? いや。そこまでしてもらう程じゃ……」
「いいから! 遠慮しないで!」
強引な子だなぁ……。
Aさんは私の手を引いたまま歩き続けた。
「あれ? というかなんで私の家知ってるの?」
学校でも殆ど話した事なんて無い筈なのに。
「え? だって詩葉ちゃん家の隣でしょ?」
なるほど。詩葉の友達の子か。そういえばよくクラスでも話してたもんね。道理で私との接点が無いわけだ。
「凄いよね♪ 家が隣同士の幼馴染なんて♪ まさに運命ってやつだよね♪」
この子は詩葉から何も聞いていないのだろうか。
いや。それにしたっておかしくない? 私と詩葉が学校で距離を置いている事はわかってるでしょ? 普通ここまでズケズケ言うものかな? いくら察しが悪いにしたって……。
「しかも二人って恋人なんでしょ?」
は?
「ふふ♪ だから教室では素っ気ないんだよね♪ 二人の時の詩葉ちゃんってどんな感じなの? 一度聞いてみたかったんだよね♪」
えぇ……。本気で言ってるのぉ……。
「あれ? もしかしてバレてないと思ってた?」
いや、バレるも何も……。
「あんだけ目で追ってたら丸わかりだよ♪ クラスの皆が察してるくらいだもん♪」
いやそういうんじゃ……。
というかそんな噂になってたのぉ……。
「ふふ♪ いいよね♪ そういう秘密の関係♪」
「……なら暴かないでほしいな」
「あ! ごめんなさい! 違うの! 悪気はなくて! そうだよね! 話したくないよね! 本当にごめんなさい!」
なんだか調子の狂う子だ。
「大丈夫」
「そっか! 良かった! ありがとう!」
変な子。
「どうせなら詩葉の事を聞かせてほしい」
「あ♪ そういうの気になるんだね♪ そうだよね♪ 恋人の事は全て知っておきたいもんね♪」
「……それやめて。恋人って言うの」
「わかった! もう二度と口にしないよ!」
グイグイ来るなぁ……。
「♪」
Aさんはニコニコと詩葉の事を話し始めた。私はすぐに後悔した。聞かなきゃよかった。楽しそうな詩葉の話なんて。モヤモヤする。
「ありがとう」
正直家の前に着いてホッとした。
「こちらこそ♪ また詩葉ちゃんのお話しようね♪」
やだよ。これっきりだよ。
「じゃあまた明日♪ 学校でね♪」
「明日は休みだよ」
「そうだった!」
そそっかしい子だ。あとちょっと空気が読めない。けど悪い子ではないのだろう。あの詩葉が側に置くタイプには見えないけど。ましてや家に招くなんて……私には関係ないか。
「ならまた来週だね♪ 良い週末を♪」
元気いっぱいに去っていった。結局名前はわからないままだった。
さて。頭を切り替えよう。モヤモヤを晴らすとしよう。ヒコマちゃんのアーカイブを見れば一発だ。すり減った精神を癒やさないと。良い週末を迎える為に。




