04-01.特別な顔
「あ~♪ 美味しかったぁ~♪」
「よかったね」
「うん♪」
詩葉は穏やかな表情だ。
「お腹撫でて♪」
「やだ」
「お願い♪ お腹いっぱいで苦しいんだもん♪」
「そうは見えない」
「変なとこ触ってもいいから♪」
「気でも触れたの? お母さんたちいるんだよ?」
「二人は気にしないって♪ ママも言ってたじゃん♪ 押し倒してもいいよって♪」
「……はぁ」
詩葉は窓の方に視線を向けてしまった。
「ごめんね、詩葉。嫌な気分にさせちゃったんだね」
「……別に」
詩葉は外を向いたまま片手を差し出してくれた。私はそれを握りしめた。
「ふふ♪ ありがとう♪ 詩葉♪」
今はこれだけでも十分♪
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家に着くなり、詩葉は用があるからと自室に籠もってしまった。今日は夜から配信だ。やっぱり私も一緒に配信するのかな? 詩葉モードだと全然喋ってくれないんだよね。ヒコマちゃんの時はあんなにお喋りなのに。
「ねぇ~ママ~」
「な~に~」
リビングで一緒にゴロゴロしているママが応えた。
「ひま~」
「詩葉ちゃんとのデートプランでも考えてみたら~」
「ナイスアイディア~」
「頑張って~」
「お化粧教えて~」
「お化粧~……え? ……え?」
なにさ。
「こうしちゃいられないわ!」
すっと立ち上がって慌ただしく準備を始めるママン。何故だかテンションバク上がり中だ。
「響♪ いらっしゃい♪」
私の洗顔も含めてあっという間に準備を整えたママは、そのままの勢いで手際よくお化粧を始めた。
「見て覚えろってこと?」
「黙って。動かないで」
あい。
真剣なママの気迫に押されて大人しく膝に手を置いた。
「いいわ。いいわ。あなた最高よ」
ぶつくさと真剣な声音で言われるとちょっと怖い。しかも至近距離で。覗き込まれながら。
「流石私の娘ね」
自画自賛。あと親バカ。
「うふふ♪」
しまいには変な笑いまで漏れ出した。
……。
…………。
………………。
「できたわ♪」
たっぷりと時間をかけてようやく手を止めた。
「ほら♪ 見てみなさい♪」
「お~♪ ……気合入れ過ぎじゃない?」
できればもっと普通のメイクを教えてほしいんだけど。
「笑って笑って♪」
全然聞いてない。
そのまま撮影会が始まった。ファッションショーも始まった。どこにそんなドレスなんてあったのさ。なんで今のサイズにぴったりなのさ。不思議。
「最高よ♪ 響♪ これなら詩葉ちゃんもイチコロよ♪」
詩葉ちゃんはとっくにベタ惚れだから大丈夫だと思うよ。
「まあ♪ 響ちゃん♪」
詩葉ママも現れた。詩葉ちゃんはまだ引き籠もっているそうだ。しゃあねえ。私の晴れ姿を送ってやるか。送信、と。
……もう返信きた。
『 (# ゜Д゜) 』
なんで怒ってるの? 『詩葉もおいで』送信っと。
『 ( ー`дー´) 』
どういう感情?
「響ちゃん♪ ほらスマホは置いて♪」
あなたの娘を呼び出そうとしてるんです。詩葉ママ。
「きゃ~~~~♪ 可愛い~~~♪」
ちょっと恥ずかしくなってきた。
「もう。ママ燥ぎすぎ」
「これが燥がずにいられるもんですか!」
まるで念願の夢が叶ったかのようだ。
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やらかした……。
「詩葉ちゃんから?」
「うん。連絡入ってた」
配信始めるよって。やっぱり私も参加させるつもりだったらしい。もう始まっている時間だ。今からでも参加していいのだろうか。取り敢えず連絡を入れてみよう。
『すぐ来て!!』
ブチギレていらっしゃる。
「ママ、スマホ貸して」
「はいどうぞ」
ちょちょいのちょい。
「これ観てて」
「もしかして詩葉ちゃん?」
「よくわかったね」
というか最初から知ってたんじゃないの?
「まあ♪ あの子ったら♪ こんなことをしていたのね♪」
詩葉ママも知らなかったの? 本当に? というかなんでまたこっち来てるの? 夕飯食べに一回戻ったのに。詩葉が相手してくれないからか。納得。
いや。今は考えている場合じゃないんだった。
「響は観ないの? 詩葉ちゃんからの用事ってこれのことでしょ?」
「ううん。そうなんだけどそうじゃないの。悪いけど暫く部屋には入ってこないでね」
「「は~い♪」」
察しのいいこって。明らかに声音が期待している。私が何をするのか気付いたのだろう。理解ある親だね。ほんと。




