03-10.報告
「……はぁ」
「どったの? 詩葉?」
「響のせい」
「何がさ」
「奏から妙なメッセージが来るの」
どれどれ? ……ああ。
「バカ」
「ごめんて」
奏ちゃんは初めての恋人が嬉しくて堪らないようだ。
「相談に乗ってあげたら?」
「響がやって」
詩葉がスマホを渡してきた。
「~♪」
「待った」
「もう送っちゃった♪」
「なんて……はぁ……」
まあまあ♪
「詩葉♪ 詩葉♪ ぴぃーす♪」
詩葉の肩を抱いて写真を撮り、奏に送信した。
「待ち受けにしよっと♪」
「……やりたい放題しすぎ」
「まだまだだよ♪ 詩葉には付き合う義務があるんだよ♪ 私のことずっと放っておいたんだから♪」
「二人は関係無い」
「お裾分け~♪」
「余計なお世話」
「大丈夫だって♪ 放ってはおかないからさ♪」
「後で後悔しても知らないよ」
「そんなこと言わないで♪ 詩葉の協力が必要なの♪」
「なにする気?」
「勉強会♪」
「……それくらいなら」
「ありがとう♪」
これは出来る限り早くやらないとね♪
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今日は終業式だ。早い時間に家に帰り着いた私たちは、ママズと四人で外食に行くことにした。
「詩葉ママ♪」
「響ちゃん♪」
感動の再会だ♪ ふふ♪ 詩葉ママも良い匂い♪
「離れて、お母さん」
詩葉が詩葉ママを引っ張った。
詩葉とうちのママは既に挨拶が済んでいたようだ。昨晩、家に帰って来る前に隣家に寄ったのだろう。自分の娘より先に詩葉と会うなんて。うちのママってばもう。
「早く行こ。私時間無いの」
詩葉は相変わらず忙しいようだ。
私たちは早速車に乗り込んだ。運転は詩葉ママだ。助手席にうちのママが座り、私たちは並んで後ろに乗り込んだ。
「ねえねえ♪ 詩葉♪」
「大人しくしてて」
詩葉の手を取り指を絡める。
「やめて」
「なんでさ。照れてるの?」
「順序があるでしょ」
「ねぇねぇ♪ 詩葉ママ♪」
「はぁ~い♪ 響ちゃん♪」
「詩葉ちょうだい♪ 一生面倒見るから♪」
「おっけ~♪」
「やった~♪ ありがとう♪ 詩葉ママ大好き♪」
「うふふ♪」
「……はぁ」
「もう。何が不満なのさ。うちのママにも伝えてあるよ?」
「……バカ」
「バカバカ言い過ぎ。ちゅーしてあげるから機嫌直して♪」
「やめて」
「響。しつこくしてはダメよ」
「は~い」
しゃあない。今はこれくらいにしておいてやろう。詩葉も本気で嫌がってるっぽいし。
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「あらま。個室なの? コース料理?」
「奮発しちゃった♪ 後でパパにもお礼言ってあげてね♪」
「りょ♪」
うふふ♪ お料理楽しみ♪
「響はここ座って」
「うん♪」
詩葉から誘ってくれた♪
全員で席に着くと、詩葉が姿勢を正して口を開いた。
「響ママ。お母さん。お話があります」
「「はい」」
え? あれ? なんか空気が?
「ごめんなさい。まだ約束は果たせていません」
「「そう」」
「響に気づかれてしまいました」
どれの話?
「ごめんなさい」
詩葉は何を謝ってるの?
「けれど。けれど、あともう少しなんです」
「「うん」」
「必ず約束は果たします。もう少しだけ時間をください。お願いします」
詩葉は深々と頭を下げた。
「ちょっと詩葉!? いったい何やってるの!?」
「詩葉ちゃん。頭を上げて」
「詩葉。私たちと話す前に響ちゃんに説明しなきゃ」
「……それは」
そこで言い淀むの? この期に及んでまだ話さないの?
「前にも言ったでしょ、詩葉ちゃん。響はそんなこと気にする玉じゃないわ。全部あなたの気にしすぎよ。詩葉ちゃんが何をしても私は責めないわ。少しはやり返したっていいの。詩葉ちゃんは十分に気を遣ってくれているわ」
「お母さんとしてはやっぱり複雑だけど、詩葉なら、響ちゃんなら、きっと幸せになれるって信じてる」
「えっと。つまり詩葉は約束してたの? 何か条件を満たしたら私と付き合うって? 私に内緒で?」
「……」
なんでそんな目で見るのさ。
「本当にいつでも押し倒しちゃっていいのよ。詩葉ちゃん」
「詩葉はよく頑張っているわ」
どうやら味方はいないらしい。
「……それはできません」
「なんでさ」
「響がそんなんだからよ」
どんなんよ。
「あなた本当にわかっているの? いいえ。わかっていないわよね」
「将来のこと? 女の子同士じゃ孫が見せられないとか?」
「全部よ。全部」
「そりゃあ私は恋とかよくわかんないけどさぁ……」
「そうよ。だから」
「響ママ」
「そうね。ごめんなさい。詩葉ちゃんは響を大切にしてくれているんだもんね。わかった。これ以上余計なことは言わないわ。詩葉ちゃんの好きにやりなさい♪」
「はい!」
つまるところ私の覚悟が足りないから問題なんだろうか。
「だからって私を蚊帳の外に置いた挙げ句、皆で寄って集って私が悪いって言うんだね」
「「「……」」」
「一年間も詩葉に口を利いてもらえなかった私の気持ちも少しは考えてほしいんだけど」
「理由があったのよ」
「それはどんな? それだけでも教えてよ。ママが言う程だもん。本当に悪いのは私なんだと思う。けどだからって何も教えてくれないんじゃどうにもならないよ。私にだって許せない気持ちはあるんだよ」
「響……」
「そんな顔しないで、詩葉。私は仲直りがしたいんだよ? 私のダメなところは私が直すからさ。私を信じてよ。お願いだからさ」
「……響こそ」
「……わかった。詩葉を信じるよ。もう言わない」
「……ごめん」
「ううん。きっと私が何かを我慢させちゃってるんだよね。ごめんね、詩葉。嫌なことばっかりさせちゃって。大好きだよ。詩葉。ずっと一緒に居ようね。それだけは約束だよ」
「……うん」
詩葉は嬉しそうにはにかんだ。
「あ、でも。高校出たら一旦離れようね♪」
「……」
「響? 何の話?」
「大学は詩葉と別のところに行きたいの」
「どういう意味よ」
「そのまんまの意味だよ? 一度距離を置こうと思って。でないとやっぱり私は許せないから。もちろんそれだけじゃないけどね。私と詩葉はずっと一緒だったから。私は詩葉にもっと大切に思ってもらいたいの。だから今度は詩葉の意思じゃなくて私の意思で離れるの。それが必要なことだと思うから。私と詩葉がいつまでも一緒に居られるように」
「「「……」」」
また変な顔して。
「……あなた。響も成長しているわ」
虚空に向かって呟くママ。
「どういう意味さ」
「正直ね。少し嬉しいの。詩葉ちゃんには悪いけどね」
「そうね。そうすべきよね。詩葉。お母さんは響ちゃんの意見に賛成よ」
「そんな!」
やっぱり認めてなかったか。
「詩葉のそういうとこだけは直すべきだと思う。詩葉は私のことを子供扱いしすぎなんだよ。本当に詩葉の抱える秘密は話せないことだったの? 私を無視してまで優先すべきことだったの? 私にはどうしてもそこが納得出来ないんだよ。今のまんまじゃね」
「……」
これはなんだろう。申し訳なさも確かにある。けどそれ以上に苛立ちのようなものを感じる。やっぱり私のせいだと思っているんだね。本心としては。
「ごめん、詩葉。もう言わないって言ったもんね。仲直りだよ♪ 詩葉♪ ほら♪ 席に座って♪ ね♪」
「……うん」
詩葉は我慢強い。今も何かを堪えたのだろう。やっぱり変な風に拗らせているのは間違いないとも思うけど。
ともかくもう少しだけ待っていてあげよう。せめて夏休みくらいはね。私も楽しく過ごしたいし。詩葉と一緒に。




