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03-02.ぎこちない距離感




「~♪」


 詩葉に背中を流してもらうのはいつぶりだろう。考えてみたらお風呂に一緒に入るの自体数年ぶりかもしれない。その頃から詩葉は私のことを意識していたのだろうか。



「……」


 詩葉は真剣だ。私の背中を一心不乱に磨いている。かといって雑なわけでもない。程よい手つきだ。流石は完璧超人。



「交代しよ♪」


「え?」


 うん?



「交代しようって言ったの。ほら。ここ座って」


「っ!?」


 立ち上がって振り向くと、詩葉は慌てて視線を逸らしてしまった。



「どしたん?」


「……くっ」


 若干悔しそう? ちょっと怒ってる? まあいいや。背中向けてくれたし。



「~♪」


 ふふ♪ すべすべ♪



「~~~~~!」


 すっごく何か言いたそう。背中越しにも伝わってくる。



「懐かしいね~♪」


「……」


 やっぱり何かを堪えるのに必死みたいだ。返事はしてくれない。けどいいよ。眼の前に居てくれてるから。こうして手を触れられるから。全部許してあげる。今だけは。



 それから二人で湯船に浸かったものの詩葉はすぐに飛び出して行ってしまった。どうやら我慢の限界を迎えたようだ。


 仕方ない私も出よう。放っておくと家に帰ってしまうかもだし。ここで逃したら馬鹿らしいし。



「あ」


「っ!? ちがっ! これは!」


「洗濯してくれるんでしょ? ありがとう♪ 詩葉♪」


「あ、あぅ……」


 あぅ?



「後で髪もお願いね♪」


「え? あ、うん……」


 混乱してらっしゃる。強引に距離を縮めすぎた? けど前はもっと近かったよ?




----------------------




「~♪」


「……」


 もうずっとこんな感じ。私は楽しんでいるのに詩葉は黙ってばかりだ。二人で布団に入ってからもそれは変わらない。



「遅くなっちゃったね♪」


「……うん」


 それでもハッキリと話しかければ辛うじて返事はしてくれる。これだけでも喜べる変化だ。明日の学校が楽しみだ。琴音と奏、それにちづ姉のことも安心させてあげないとね♪



「明日は学校行くよね?」


「……」


「詩葉?」


「……やっぱり」


「ダメ。約束してくれないならもう家には帰さないよ。私も学校サボって見張ってるよ」


「……もう」


「ふふ♪」


 まだまだ話していたいけど、今日はもう寝てしまおう。詩葉は忙しいからね。これ以上夜ふかしをさせてしまっては明日の学校にも響くだろう。



「おやすみ。詩葉」


「……おやすみ。響」


 ああ……。やっと……。




----------------------




「いないし」


 朝起きたら隣に詩葉はいなかった。おかしいな。私は昨日いっぱい寝た筈なのに。なんで先に起きれなかったんだろうか。残念だ。とても残念だ。詩葉の寝顔が見たかったのに。起きた瞬間に慌てふためく詩葉が見たかったのに。



「おはよう♪ 詩葉♪」


 案の定詩葉はキッチンにいた。エプロン付きの制服姿で朝食を作ってくれている♪ ふふ♪ いいよね♪ こういう光景♪ キュンキュンしちゃうよ♪



「おはよう。先に着替えてきて」


 今日の詩葉は平常心のようだ。こちらに振り向きもせず、クールに返してきた。



「おはようのちゅーは?」


「……」


 ちょっと怒った?



「……歯磨きもまだでしょ」


 なんか前にも似たようなこといわれたなぁ。琴音に。



「支度してくるね♪ ちゅっ♪」


「っ!?」


 詩葉の背中に投げキッスを送ると肩がビクッと震えた。まるで背中に目でもついているかのような反応だ。流石に今は監視カメラを見てるってわけでもないとは思うけど。



 支度を済ませて戻って来ると、既にテーブルの上には湯気を上げる美味しそうな朝食が並べられていた。



「今日もありがとう♪ 詩葉♪」


「うん。いただきます」


「いただきます♪」


 今日の詩葉はこのままクール路線でいくつもりかしら?



「夏休み始まったら何する?」


「……遊んでる時間はないよ」


 まあ高二の夏休みだからね。詩葉が言ってるのはそういう意味じゃないだろうけど。



「夏期講習とか行かないの?」


 先生方も期待してるでしょうに。なにせ学年一位様だし。



「……行かないわ」


「だよね~」


 そもそも進路希望はどうなってるんだろう?



「詩葉は将来どうするの? 私のお嫁さん?」


「……」


 ちょっと表情崩れたね。



「それとも私をお嫁さんにする?」


「……」


 ちょっとニヤけたね。



「……ごほん」


 しまった気付かれた。



「……楽しいの?」


「うん♪ 詩葉とお話出来てとっても嬉しいよ♪」


「……そう」


 今度は微妙な表情だ。罪悪感が刺激されてしまったのだろうか。それとも他に思うことがあるのだろうか。



「……早く食べて。遅刻しちゃう」


「はぁ~い♪」


 焦ることはない。じっくり取り戻していこう。

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