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02-09.久しぶり




「そもそもさ。詩葉はどうやって一年間もこの家の家事を続けていたのかな」


「「……え」」


 今更過ぎる疑問だ。ちづ姉のやる事だからって思考停止していた。我ながらどうかしていた。


 ……いや。これについてはちづ姉が悪いところもあるんだよ? 昔からとんでもなく頼りになる人だったし。元々スマホの位置情報くらいは掴まれてると思ってたし。だからってとは思わなくもないけれど。



「私にバレないように通ってたわけじゃん」


「「……」」


「この家、仕掛けられてるよね」


「「……」」


「監視カメラと盗聴器」


「「……探そう」」


「先ずは私の部屋からだね……」




----------------------




 流石にバレてしまった。むしろよくぞ今まで気が付かなかったものだ。響ったら鈍いんだから。いくら私が響の事を知り尽くしているからって、ここまで上手くいくとは思ってなかったのに。



『詩葉。見ているんでしょう? お願い。話をしよう。私は詩葉のことを嫌いになんてならないから。詩葉が望むなら恋人になったっていい。だからお願い。声を聞かせて。詩葉』


 嘘だ。ここまでの会話も全部聞いてるんだ。今更そんな甘い言葉で誘い出されるわけないじゃない。



『詩葉。お願いだよ、詩葉。私がどれだけ悲しんでいたのかも全部見ていたんでしょう? これ以上私を悲しませるのが詩葉の望みなの? 私にとって詩葉がどれだけ大切な存在なのか本当にわからないの? ねえ、詩葉。会いたいよ。お願いだよ。何か言ってよ。ねえ。顔を見せてよ。詩葉……』


 響……。



『詩葉ぁ……会いたいよぉ……詩葉ぁ……』


 泣いている……。誘い出す策だとわかっていても見続けるのは辛い……。いっそ映像を切ってしまうか……。



『詩葉ちゃん! 響ちゃんが泣いてるんだよ! 本当になんとも思ってないの! 秘密の方が大切なの!? 詩葉ちゃんが響ちゃんを大切にしないなら私が貰っちゃうんだから!』


『!?』


「え……は? ……え?」


『奏ちゃんっ!? なっなっ! 何してるのぉ!?!!?』


 キス……してる? ……響が? 奏と? 私以外の子と?



『早くおいで! 詩葉ちゃん! でないともっと凄いことしちゃうんだからね!』


 ……。


 …………。


 ………………。




----------------------




「ふっざけんじゃないわよ!!!」


 あ、来た。本当に。



「詩葉ぁ!!」


 泣きつくふりをして飛びついた。詩葉は疑いもせずに私を抱きとめた。



「奏がぁ! 奏がぁ! 初めてだったのにぃ!」


「奏ぇっ!!!!」


「響ちゃん!? もう演技はお終いでしょ!?」


「演技の筈だったのにぃ! 本当に奪われたぁ!」


「ちょっ!? 悪乗りしすぎだよぉ!?」


「このっ!」


「ひぃっ!?」


 詩葉が奏に殴りかかろうと前に出た所を回り込み、後ろから押し倒して腕を固定した。



「っ!? 響!? 騙したの!?」


「先に騙していたのは詩葉の方でしょ」


「くっ!」


「観念して話してくれるよね?」


「離しなさい!!」


「話すのは詩葉の方だよ」


「あと少しなのよ! あと少しで約束が果たせるの!」


「それは誰とした約束なの?」


「決まってるじゃない!!」


「そんな約束は私の記憶に無いんだけど? そもそもする筈ないじゃん。だって大切な詩葉を失ってまで叶えてほしい願いなんてあるわけないんだから」


「っ!!」


「そんな顔しないでよ。久しぶりに話が出来るんだからさ」


「……響」


「本当に……久しぶりだね……詩葉……ぐす」


「……泣かないで」


「なんでよぉ……私が何を言ったのさ……どうして……謝るからぁ……教えてよぉ……詩葉ぁ……」


「響……」


 詩葉に睨まれた途端、胸の奥から堪えきれない感情が湧き出してきた。散々自分で絶交するだのと言っておいて、たったそれだけの事で我慢が利かなくなってしまった。


 気付いたら詩葉の腕を離してしがみついていた。抱きついて泣いていた。溢れ出てきたものに流されてしまった。詩葉も泣きながら抱きしめ返してくれた。




----------------------




「してくれたんだけどなぁ……」


 気がついたら部屋に一人だった。詩葉どころか琴音と奏もいない。ついうっかり体力が尽きるまで泣き続けてしまったようだ。全員帰ってしまった。私を置いて。



「詩葉……」


 電話にでんわ。



「ああ。今はヒコマちゃんの配信時間か」


 少し慌てながら配信を開く。



『~♪』


 ヒコマちゃんはいつも通りに歌っている。


 そんなにバーチャルアイドルの活動が大切なのか。泣きつかれて寝ちゃった私を一人で置いていく程に。それもこれも私の為だって言い張るんだね。



「……本当に何が目的なんだろう」


『あ♪ 「vicky-utalove」さんだぁ♪ え~なになに~♪ 「夢はなんですか?」唐突だね♪ もちろんトップアイドルだよ♪ やるからにはテッペン取らないとね♪』


 うっそだぁ~。



「早く配信終わらないかなぁ……」


 今はヒコマちゃんより詩葉の声が聞きたい気分。



『あ! そろそろ時間だね♪ 次で最後の曲だよ♪』


 それはそれで少し残念。



『それじゃあいってみよう♪』


 ……やっぱりヒコマちゃんの歌はいいね。今度詩葉にも歌ってもらおう。




----------------------




「出ないし……」


 電話してもチャイムを鳴らしても反応が無い。見つけ出した監視カメラと盗聴器にも呼びかけてみても音沙汰無しだ。もう寝ちゃったのかしら?



「まさかこのまま……」


 引き籠もりを継続するつもりではあるまいな?



「よし。やるか」


 梯子どこだったかなぁ~。



 ……。


 …………。


 ………………。



「やめなさい! バカぁ!!」


「あ、詩葉」


 バルコニーに梯子をかけようとしたら、詩葉が慌てて窓を開けて飛び出してきた。やっぱり起きてんじゃん。



「落ちたらどうするつもりよ!!」


「詩葉が悪いんじゃん」


「もう少しくらい大人しく待ってなさいよ!」


「もう十分待ったよ」


「わかったから! 今からそっち行くから!」


「部屋入れてよ」


「うるさい!」


 ピシャリと窓を閉めてしまった。


 うるさいのは詩葉の方だ。今何時だと思ってるのさ。ご近所迷惑だぞ。まったくもう。

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