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推しmy幼馴染  作者: こみやし
01.夏の始まり、私の決意

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1/8

01-01.推しと幼馴染




 私には幼馴染がいる。


 それが私の極普通で平凡な人生における唯一の自慢だ。



 私とあの子は産まれた時から一緒だった。まるで双子の姉妹のように同じだった。誕生日も産まれた病院も同じだ。好きなものも嫌いなものも。得意な事も苦手な事も。初めて口にした言葉も。クラスもずっと同じ。私の隣にはいつもあの子がいてくれた。私にとってはそれが何よりの自慢だった。


 私達の両親も幼馴染同士だった。家も隣同士で部屋も隣同士。窓を開けば何時でもあの子が顔を見せてくれていた。



 けれど、少しずつ。私達はすれ違っていった。


 初めて言葉を口にしたのも立ち上がったのも、あの子の方が先だった。テストの点数も友達の数も、幼馴染の方が上だった。同じなのはいつだって最初だけだった。私は段々とあの子に置いていかれるようになった。


 あの子はいつだって私を見ていた。立ち止まる事なく進み続けながらも、必ず手を差し伸べてくれていた。私を同じ場所に引き上げようと努力を重ね続けていた。あの子だけは。



 あの子は私が大好きだった。


 私はあの子が大好きだった。


 全て過去形だ。私の隣にあの子はいない。


 あの子が私を見てくれる事は無くなった。




----------------------




「……ちゃん? ひびきちゃん? また見てるの?」


「え? ああ。うん」


「よくないと思うよ。そういうのって」


「何が?」


「遠野さんの事。失礼だよ。そんな風に見続けるの」


「良いんだよ。だって唯一の趣味だもの」


「理由になってないよ~」


「止めに来ないって事は良いんでしょ」


「そんなに気になるなら話しかけてみたら?」


 ……それが出来るならとっくにしてるよ。



「響ちゃん?」


「そうそう♪ 気になると言えばさ♪」


「やっとこっちを向いてくれたね」


「ごめんて。それでさ♪」


「ダメだよ。スマホ出しちゃ。もうすぐ先生来るよ」


「いいからいいから♪ ほら♪ 見てよこれ♪ ヒコマちゃんの新衣装♪」


「また真っ赤っ赤だねぇ~」


「でっしょ~♪ いいよね♪ ヒコマちゃん♪」


「人気だよね~」


「もう! もっと興味持ってよ! 私と一緒に推し活しようよ!」


「響ちゃんの推しは遠野さんじゃなかったの?」


「時代は手の届かない幼馴染より手の届くバーチャルアイドルだよ♪」


「手は届かないと思う……」


「そんな事ないよ♪ ヒコマちゃんは毎回必ず私のコメント読んでくれるんだから♪」


「たまたまだよ~」


「それが違うんだなぁ~♪ なにせ私は最初のファンだからね♪ 認知されてるんだよ♪」


「よかったね~」


「もう! 全然信じてないでしょ!」


「それより響ちゃん……」


「何さ! ヒコマちゃんより重要な事がこの世界にあるって言うの!?」


「あるぞ。私の授業だ」


「げっ!? ちづ姉!?」


「白鞘先生だ。もしくは"しら先"。ちづ姉と呼ぶな馬鹿者。何度言えば覚えるんだ」


「あっ! ちょっ! スマホ返してよ!」


「うるさい。没収だ。後で取りに来い。いつも通りありがたい説教をくれてやる」


「そんなぁ!?」


「「「「「「「クスクス♪」」」」」」」




----------------------




「う~……酷い目にあった……」


 ちづ姉め……。年々お説教の時間が長くなってるじゃんかぁ……。自分だって散々愚痴ってたくせに。ああやって人は大人になっていくものなんだなぁ……。



 教室に戻ると既にもぬけの殻だった。


 大親友、園崎そのざき 琴音ことねも待っていてはくれなかったようだ。今日は部活かな? それともアルバイト? あの大親友は多忙だからね。しゃあない。一人で帰ろう。


 荷物を持って教室を出る。校庭からは運動部の声が聞こえる。今日は快晴だ。さぞかし熱も入るものだろう。万年帰宅部の私にゃぁわからん感覚だけど。



 さて。今日は何をしよう。


 ぶっちゃけ勉強をする気なんて更々無い。もうすぐ夏休みだ。期末テストも無事に乗り越えた。夜には推しの配信もある。しっかりお風呂に入って全裸待機の準備を整えよう。



 ……やっぱりいないかな。


 道中、ついつい探してしまう。大好きなバーチャルアイドルの事を考えていたって頭から抜けないものがある。



 幼馴染、遠野とおの 詩葉うたは


 私の脳内を占拠し続ける困ったちゃんだ。いいかげん幼馴染離れしてほしいものだ。話しかけてもくれないくせに、いつまで経ってもしがみついて離さない。



 今頃詩葉は何をしているのだろう。


 私はあの子の事を何にも知らない。昔は全てを知り尽くしていたのに。それこそホクロの数まで……嘘。配置は覚えてるけど数は流石に。数えたことないし。



 あの日から一度たりとも言葉を交わしていないんだもの。今のあの子の事なんてわかる筈もない。


 どれだけ目で追っていても見えない事の方が多いのだ。今の私にわかるのは教室での様子だけだ。あの子の部屋の窓は硬く閉ざされている。私の視線を遮るように。



 やっぱり迷惑なんだろうか。未練がましくしがみついているのは私の方なんだろうか。


 私にはわからない。何故、詩葉が私の事を無視するようになってしまったのか。あの日の事は覚えている。けれど理由は未だにわからない。


 だから順序は逆なのだ。私が詩葉の事をわからなくなってしまったから離れていったのだ。離れていったからわからなくなってしまったわけじゃない。


 きっと悪いのは私なんだろう。そうでなければ、ああまで一方的に関係を断たれる事もなかった筈だ。


 そう思って私は何度も謝った。それでも詩葉は一言も口を利いてくれなかった。



 詩葉は別に喋れなくなったわけじゃない。耳が聞こえなくなったわけでもない。ただ私の存在だけを見ないのだ。普通に友達に囲まれて普通に青春を謳歌している。そこに私が紛れ込む余地だけが無くなってしまったのだ。


 きっと限界だったのだろう。いつまでも足を引っ張り続けるだけの私が邪魔だったのだ。それも仕方ない。私も限界だった。詩葉の求めるレベルには至れなかった。


 だから私は詩葉を恨んだりなんてしない。詩葉が私の事を疎ましく思うようになったのは私のせいだ。私の努力が足りなかったからだ。そう言い聞かせ続けてきた。



 やっぱり話したい。諦めきれない。


 けれど勇気がない。もう一度無視されたら耐えられない。


 だから遠巻きに見ているだけだ。もしかしたらそれが嫌で話しかけてくれるかもしれない。直接話しかけてくれなかったとしても、何かしらの意思表示は示してくれるかもしれない。そうなれば自ずと答えも出る。詩葉が私をどう思っているのか知る事が出来る。だから私は追い続ける。いつか振り払ってもらえるように。振り返る時を見逃さないように。




----------------------




 響は今日も私を探している。見当違いの想いを胸に、私の幻を追い続けている。


 待っていてね、響。全ては【響のため】だよ。私が必ず響を幸せにしてみせるから。


 響の願いは全部私が叶えてあげるからね。




----------------------




 我が家は現在一人暮らしだ。お隣もそう。


 両家の両親は揃って海外出張だ。仲の良いこって。私達とは大違いだ。秘訣を教えてもらいたいものだね。



 帰ってすぐにベッドに倒れ込み、お腹が空いて目を覚ました。二階の自室から一階のキッチンに移動する。


 ちづ姉が来ていたのだろう。冷蔵庫と冷凍庫がタッパでいっぱいだ。こんなに作っても食べきれないっていつも言ってるのに。教員の仕事もあるのに頑張りすぎだ。今は期末テストの採点だってあるだろうに。



「あ、ハンバーグだ。これ美味しいんだよね~♪」


 ちづ姉はガサツな性格に反して料理上手だ。週に何度かこの家を訪れては家事をしてくれる。けれど決してその姿を見せる事は無い。曰く、担当教員が教え子と特別に親しくするのは問題があるそうだ。だからって徹底しすぎだと思う。たまには一緒に食べて行けばいいのに。私だってカップ麺くらいならご馳走できるんだぜ♪ えっへん♪


 けどまあ、正直な話、ちづ姉とならインモラルな関係に至るのもやぶさかじゃないぜ。これだけ料理上手なんだもん。もうとっくに私の胃袋は掴まれちまったぜい♪



「うまうま♪」


 夕食と洗い物を済ませて部屋に戻る。


 そろそろ推し活の時間だ。まだ風呂入ってないや。少しのんびりしすぎたよ。ギリギリ間に合うかな? シャワーだけでも浴びてくる? 配信が終わると同時に眠りにつくのが私の拘りだ。やっぱり先に済ませよう。急げばまだ間に合う筈だ。頑張れ私。やれば出来るさ♪




----------------------




『皆ごめんね~♪ 少し遅れちゃったぁ~♪』


 あら。奇遇だね。


『「ヒコマちゃんもお風呂入ってきたのかな?」って! なぁ~にを想像してるのかなぁ! エッチな事はダメだよ! 「vicky-utalove」さん!』


 でへへ~♪ さっすがヒコマちゃん♪ やっぱり私のコメントだけは絶対見逃さないで読んでくれるよね♪



『えっ!? 依怙贔屓!? リア友!? 彼氏ぃ!? 違うよ! そんなんじゃないってばぁ! あ! そうだよね! 挨拶がまだだったよね♪ ごほん! 改めまして♪ ハロハロ~♪ こんべに~♪ 真っ赤な烈火♪ 【緋小町ひこまち べに】だよ~♪』


 今日も今日とて真っ赤な衣装に身を包んだバーチャルアイドル。私の推しで私の生き甲斐。詩葉を失った心の傷を癒やしてくれるかもしれない唯一の存在。何故だか彼女の声を聞いている間は安心出来る。私の心が求めてやまない。彼女の声にはそんな魅力がある。私のアイドル。



『今日は歌枠だからね♪ 早速歌っていくよ~♪』


 待ってました♪




----------------------




「皆~♪ 今日もありがと~~♪」


 画面を閉じ、配信用端末の電源を落とした。



 もう一つのディスプレイに視線を向ける。



 ……ふふ♪


 誰より愛しい人のあられもない寝姿に堪らず笑みが溢れる。いくら夏だからってあれはない。



 ……さて。



 ……。


 …………。


 ………………。




「……zzz」


 せめてお布団は掛けておかないと。



「おやすみ。響」

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