第8話・無慈悲な現実のエンフォーサー
月曜日はどうせ誰も読まないから投稿しなかった。後悔はない
「うっ、あぁぁぁぁ!!」
横になって眠っていた僕はトビウオの如くその場で飛び上がり、地面に激突する。
あの時間からタイムリープしてきたのである。
「……どうしたんだい?」
その姿をここの工房の主である明時 無無先輩はおかしなものを見る目で見降ろしている。
「せ、先輩……うっ」
立ち上がろうとしたその時だった。
胃の奥の奥からせりあがって来た気持ち悪さを口先から吐き戻した。
「し、少年!?本当にどうしたんだい!?」
「あ、ああぁぁぁ!!僕は、僕は……ぁあ!!ひ、とを……あぁぁぁぁ!!」
吐瀉物の前で涙と鼻水にまみれながら、さっきまでの自分の行いを思い出していた。
平気だったはずだ。
人を殺しても、死体を見ても何も思わなくなったはずだ。
でも、今の僕には耐えられない。
一時間後、僕は真っ青な顔色ながら落ち着き先輩と協力して自身の吐瀉物を片付けていた。
「……その顔を見ればわかる。タイムリープしてきたんだろう。何があったか聞かせてくれ、少年」
「……はい」
感情の整理は今だについていない。
今の僕は電池が切れかけたおもちゃのように気力を失っていた。
そんな状態でも僕は淡々と彼女に事の顛末を話した。
「そうか、そんなことが……」
「僕って、本当に何なんですかね」
「少年?」
「殺したんです。初めてやりました。銃を持つのだって初めてだったんです……なのに、殺して……っ、殺して」
自分の行いは客観的に見れば正解だった。
あの場の人間を、僕の友達を救うためには過去に戻るしかない。
その過程でどんな犠牲が出たとしても、戻れば全部生き返る。
そんなことはとっくに理解している。
「……でも、自分の行いが、あまりにも肯定できないんです。僕がしたことは本当に正しかったのかって」
脳裏にちらつく、惨劇の光景。
あの時は正しいと思ってやった行いが、今の僕にはあまりにも許容できない。
あれが本当に正しいことだと言うならば世界は残酷すぎる。
「それは、私にもわからないよ。君のやったことが正しいか正しくないなんて」
「そりゃそうですよね……ごめんなさい、変なこと聞いて」
「でも、人生の先輩としてアドバイスを送るなら正しいか正しくないで考えるべきじゃないということだ」
「はい?」
先輩の口から出たのは果たして解決案と言えるのかどうか疑問が残るものだった。
だけど、今の僕には妙に腑に落ちた。
「まず、君がやりたかったことはなんだい?」
「そ、それは……ここにいるみんなを救う事です」
「そうだ、そのために君は耐えがたい苦痛に耐えてここに戻って来た。そうだろ?」
頷く。
そうでなければ、タイムリープなんてせずあの場で大人しく殺されていただろう。
「そうか。僕に足りなかったのは……」
正しいか正しくないかと考えていたのは僕が自分のしたことを誰かに肯定してもらいたかっただけなのかもしれない。
だが、自分が本当にしたい事を貫く覚悟がなかったから今迷っているんだ。
弱かったのは僕の心だったのかもしれない。
「ま、答えなんて出ないことの方が多いんだ。少し自分で考えてみるといい」
「はい、そうします。先輩、ありがとうございます」
「気にするな。片付けが終わったら改めて作戦を練ろうじゃないか」
話し終わったタイミングで掃除もを終わり道具を片付ける。
まだ、整理のつかないことだけどゆっくり考えて行こうと思う。
少なくとも時間はまだあるのだから――
***
先輩に確認を取ると、僕が目覚めたのは4月4日の14時14分だった。
僕がタイムリープ前に最後に時間を確認したのは、襲撃とほぼ同時刻で13時44分くらいだった。
つまり、丸一日分戻って来たのだ。
「そうか、メサイアで戻れるのは原則最大一日までだからな。そして、一度タイムリープすると戻れる時間がそこまでになる」
「……つまり?」
「今からいくら戻っても、4月4日の14時14分に戻ってくるということだよ」
ということは、何回もタイムリープを繰り返して戻ることは不可能と言うことだ。
だが、先輩の言葉の中に一つ取っ掛かりを覚えた。
「あの、原則ってことは例外も存在するってことですか?」
「ふふっ、いいところに気づいたね。もちろん、例外も存在する。まあ、使う時になったら説明するよ」
いたずらっ子のように笑った彼女を見てそっと視線をそらしてしまう。
「話を戻そう。まず、私たちの目的は明日の13時44分に来る外国勢力からの襲撃者たちの撃退だ」
「……はい。でも、僕それについては考えがあるんです」
「ほう、それは?」
あの時、僕たちは一体何が起こったのか理解する間もなく一方的にやられてしまった。
だが、今回は違う。
タイムリープをして戻って来た今ならいくらでも対策ができる。
「メサイアを使わせてください。テクノイドを使えば襲撃者が来ても敵じゃありません」
そう、別に生身で奴らに挑む必要はなく、奴らが来るとわかっているのだからテクノイドに乗って戦えばいい。
そもそも、テクノイドに乗って戦えば銃なんて豆鉄砲も同然だし、何ならこれが学校に立っているだけで奴らは襲撃なんてしてこないだろう。
そうなれば、戦いが双方無血で終わる可能性もある。
「悪くない……だけど、わかっているのか?もし、相手が打って出てくれば君は、戦わざるをえないんだぞ。最悪、またタイムリープをするかもしれない」
「それは……はい、覚悟はしています」
相手が、攻めてきたとき今の僕は果たして人を殺せるのだろうか。
それに、タイムリープも問題だ。
一度目は何も知らず、二度目は痛覚とか倫理観とか色々麻痺していたから引けたが、正気に戻った三度目は引けるか怪しい。
「……まっ、結局敵が来るまで私たちは待つしかないんだ。今日はゆっくり休もう。まだ、寮のチェックインすら済ませていないんだろう?」
「うっ……」
そうだった。
誠に残念ながら、時貞くんや時雨さんとの関係値は完全にリセットされている。
「それとも、ここの工房に私と一緒に住むかな?」
「住みませんよ。って、先輩ここに住んでるんですか!?」
「ああ、寮よりもこっちの方が便利でね。鍵は一応持っているんだけど今では、外にいるよりも工房にいる時間の方が長い」
そう言って、前の時間で僕も寮母さんから渡された鍵を見せてくる。
だが、彼女の話が本当なら入学式の時僕と彼女が出会えたのはちょっとした奇跡だったのかもしれない。
「ほら、帰った帰った。明日は大変なんだから早く寝ろ」
「は、はい……先輩も夜更かししないでくださいよ」
そう言って僕は先輩の工房を後にした。
15時44分
空はまだ青く、太陽がしけた面をしている僕を照らしてくれている。
少し息を吸えば、血の匂いは鼻に入らず新鮮な空気が肺に入ってくるのがわかった。
その気持ちよさに思わず、もう一回大きく深呼吸しようとしたその時だった――
少し遠くで爆発音が聞こえた。
「あ、え……?」
突然の出来事にその場で固まってしまう。
さっきのループを経験したからこそわかる。
これは手榴弾とかそういう小規模の類の爆弾ではない。
そして、状況を完全に理解する前にちょうど寮当たりの所で爆発が起こる。
「……なんで、来てるの?」
理解不能のまま呆然と空を見上げると、そこには見たことのある飛行機が空を飛んでいた。
だが、さっきまでとは違い人が降りてくるのではなく空襲のように爆撃を繰り返していた。
思わず時計を確認する。
15時45分――
「早、早すぎる……っ!?」
一瞬静寂を置いた後、周囲から起こる爆発と人々の悲鳴。
襲撃者は一日早く現れた。
空を駆ける戦闘機たちは容赦なく僕に現実を突きつけてくる。
だが、そのおかげで僕はやっと理解することができた。
(これは、時間じゃない。何がトリガーになっているんだ……この状況を作っているんだ)
状況から見て間違いない。
何故なら本来のこの時間は僕があの工房で眠りこけていたタイミングだ。
それが、僕以外の介入で勝手に歴史が変わるなんてことはありえない。
「……っ」
色々ごちゃごちゃ頭が考え出したが、最優先すべきはタイムリープだ。
寮が爆撃された今、もう戻るしかない。
その時、僕のすぐ近くに爆弾が落ちた。
意識が分裂したのかと思うくらい世界が揺れた。
痛い、痛い、痛い――脳内が、痛みという概念によって満たされ痛みという紐で縛られているようだった。
だが、気絶はしていなかった。
「……あっ、あぁぁぁぁ!!」
その叫びは容赦のない現実《爆撃》によってかき消されしまったのだった。
足が動かない。
どこか、折れているのかもしれない。
「っ、うっあぁぁぁ!!」
それなら、足を使わずほふく前進のように腕だけで何とか校舎に向かって這う。
だが、その移動方法は芋虫の如く、壊滅的に遅かった。
これでは、到着前に炎に巻かれて死んでしまう。
「……今、今なんだよ!!あの、力が……っぅぅぅ!!」
叫んでも、叫んでも気合を入れても一向に前には進まない。
あの全能感が僕にはやってこなかった。
だが、捨てる神あれば拾う神ありと言う。
「やっほー!大丈夫……なわけないよね」
「本当に……助かるよ」
恐る恐るを見上げると、そこには前のループで共にいた時雨さんが炎を背景に立っていた。
うーん、呼んでいる人にダメージを与えるSFになっている気がする。
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