第7話・冷酷無常のリベンジャー
月曜日はどうせ誰も読まないから投稿しなかった。後悔はない
声が聞こえる。
脳内からじゃない、体からでもない。
正体不明の”それ”が突如として現れ僕を支配した。
世界は酷い。
何せ、王道展開いわゆるお約束というやつを全く許してくれないからだ。
この世界の主人公を僕だと仮定するなら絶望的な展開から立ち直って、逆転するのがご都合的な展開だろう。
「……」
でも、実際はそんなご都合的な展開は用意されていない。
なら、作るしかない。つかみ取るしかない。
足りなかったのは覚悟だ。
うじうじ中途半端に現実に振り回されていたから時雨さんも和華さんも救えなかった。
「おい、立ち上がれ」
敵の一人から声がかかる。
ああ、憎い。
本当に、お前らは何でこんなことができるんだ。
――って、さっきまでは思っていた。
次の瞬間、落ちていたアサルトライフルを握り前方の兵士に向かって発砲する。
「うぐっ……」
突然のことに反応できず兵士は瞳孔を大きく開いた目で僕を注視しながら倒れた。
人殺しをするのは初めてだが予想通りだった。
何も感じない。
「你这家伙!!」
「意味が分からないな」
その直後、反撃に移った相手はこちらを撃つ。
だが、幸運なことに僕にはちょうどついさっき手に入れたばかりの盾《兵士》がいる。
この距離でも特殊装備を着込んだこいつなら十分防げる。
「你这怪物!!」
「だから、何言ってるんだよ」
後は、射線だけ通して発砲すれば目の前の奴はすぐに死んだ。
この感覚、昨日の襲撃でもあった。
全身を包むように、蝕むようにあふれ出した全能感。
自分に何でこんなことが起こるのか、今は知る由もない。
「たす、け……」
「……」
まだ動いている兵士にトドメを刺す。
この時、僕の心は信じられないくらい冷たく反応を見せなかった。
救世主になると言っていた。
目の前で敵であっても苦しんでいるはずなのに、僕は助けず躊躇もせずに殺した。
世界は酷い、何故なら救世主が救えるのは自分に味方をした人間だけなんだから。
『頑張ったね、槃ちゃん!』
彼女の幻影もまだ見えている。
それも、こんな光景を前にして幸せそうなニコニコの笑顔だ。
「……なんだよこれ」
その呟きは残酷な世界に向けられたものだった。
だが、何よりもこの光景を見て、さっきまでの感情が消えて何も感じてない自分に対して最も強く向けられていたのだ。
きっと、これが異常側の人間の気分なんだろう。
ここを襲った人間たちと同じ領域に僕はいる。
目的の為なら手段を選ばず、時には部品のようにすらなり、無機質なものに近づいて行く。
だが、結局残った自分の良心が己を否定する。
『それじゃ、行こっか!メサイアにまでたどり着けばタイムリープして、今度こそみんなを救いに行こう!救世主になろう!!』
「っ……うん、行こう。勿美」
なぜ、彼女の幻影を見ているのかはわからない。
自分にこんな力がある理由もわからない。
わからないことだらけで、もうどうにでもなりそうだった。
「ごめんなさい、もらっていくね」
倒れた兵士たちに口だけの謝罪をして、彼らの装備を奪う。
あまり時間もない、防弾ベストと手榴弾、予備の装備だったのか拳銃と弾丸も奪う。
そして、倒れたままの彼女たちの死体に一瞥してから外に出た。
「谁啊!」
すると、すぐさま兵士の一人と目が合う。
話す言語は日本語じゃない、おそらく話す奴はみんな殺されたんだろう。
そして、弁明の余地なくこちらに向けて発砲される。
「……」
相対性理論曰く、時の感じ方というのは人によって異なるらしい。
それと、何か関係あるのか馬鹿な僕は知る由もないが、世界がスローになり弾丸の軌跡が見えた。
僕は身を横に流し銃弾を頬に掠める程度に留め、反撃に発砲する。
強烈に不快な着弾音が相手のこめかみから聞こえたと思ったら兵士はすぐに倒れた。
「痛くない……」
弾丸が頬掠ったところを触る。
痛くない。
そういえば、僕は足を撃たれていたはずだがそこも痛くない。
しかし、足を見ると直視すれば気持ち悪くなりそうな位の血が噴き出していた。
『わっ、ラッキーだね!攻撃されても痛くないなんて』
「そうだね……メサイアの所に行かなくちゃ」
もう、現実に対して思考を放棄した僕は異常事態に一々反応することもなかった。
こうして、僕はメサイアがある校舎に歩を進めた。
だが、しかし校舎を視認できるギリギリの場所で足を止める。
校舎の前には数人の兵士が待機している。
(2,3人くらいな殺せそうだけど……4人以上はさっきの盾作戦も無理そうだな)
さらっと考えた己の思考に恐怖しながら、少し目を瞑って作戦を考える。
その前に、状況を確認しよう。
相手の狙いはメサイアと僕、校舎の周りに兵士がいることからして工房は既に制圧済みだろう。
だとしたら、今度狙うべきは僕だ。
その証拠に、僕のことを通信機か何かで連絡していた。
(相手はこう思っているはずだ。軍人が非武装の高校生に負けるはずない……と)
つまり、今の状況は相手にとって完全にイレギュラー
そして、時間をかけすぎれば流石に援軍が来る可能性がある。
なら、多少無茶な行動もするのではないか――?
「……よし」
***
兵士たちは焦っていた。
彼らの目的はメサイアとそのパイロットの回収。
だが、もうすぐ本国から回収班がやってくると言うのに一向にパイロットを連れてやってこない。
その時、この部隊の隊長に一本の無線が入る。
「这里是总部。请讲」
「这里是第四班。报告」
それはまさしく、パイロット発見したと報告を上げた第4班であった。
「飞行员已经逃走了。目前正在追捕,但为以防万一需要支援」
その報告は隊長にとって思わず頭を抱えたくなる物だった。
曲がりなりにも自分がしごいた兵士がたかが高校生のガキに逃げられたことに腹が立った。
「收到。派几名在外的人员支援。立即回收。那么,地点是?」
「收到。体育馆」
連絡が切れる。
隊長は思わず部下のふがいなさに天を仰ぎ外の見張りの数人に応援に行くよう連絡を出した。
***
『わ!やったね、兵士が少なくなったよ』
「そうだね……」
作戦通りだ。
陰で息を殺しながら、僕は兵士たちが数人体育館に向かって走り出しているのを確認した。
なぜこうなったか
『いや、それにしても最近のAIって本当にすごいね。声色まで似せられるんだ』
もちろん、僕は中国語なんて話せるわけがない。
だから、使ったのはスマホからすぐに使える翻訳アプリだった。
そして、殺した兵士から奪ったトランシーバー越しにその音声を聞かせたというわけだ。
もちろん、ただ機械音声を聞かせるだけじゃすぐに気づかれる。
だが、最近のAIというやつの進化は凄まじい。
僕が聞いた兵士の声にそっくりな声を作り出すまでそう時間はかからなかった。
とても単純な作戦、だがそれゆえによく効く。
高校生がトランシーバーを奪っているはずがないという先入観がある奴らには特に――
「……はぁ」
普段の僕ならこんな作戦を思いつくこともなかったはずだ。
だが、よくわからない覚醒のおかげで信じられなくらい頭が冴えている。
『よし、槃ちゃん!後は、あそこの校舎の前にいる兵士三人を殺せばいいだけだね』
「うん」
おまけにこんな猟奇的なことを言い出す幼馴染の幻覚を見る始末だ。
痛覚もなくなったしいよいよおかしくなったのを自覚してきた。
だが、それでいい――
「什、什么!?」
「ほんと、外国語わからなくてよかったよ」
きっと、最後の言葉が日本語だったら僕の心は折れていた気がする。
でも、そうでないならおかしい僕は容赦なく手に掛けることができるだろう。
稼げる時間もあまりない。
さっさと終わらせてしまおう。
校舎の玄関前にいた兵士を殺すのに、そう時間はかからなかった。
***
工房は既に隊長とその部下2名によって制圧されている。
無無は生きており、部屋の端で縛られているのだ。
「吵闹啊。该不会是朝飞行员开枪了吧?」
「んー!ん-!!」
隊長の男は突然聞こえて来た銃声に嫌な予感を感じ取る。
だが、それが槃が拳銃片手に兵士を蹂躙しているものだとは気づくわけもなかった。
「队长。果然,救世主没有动静」
「原来如此,果然还是需要飞行员啊」
「这个女人怎么办?」
「啊,那家伙……」
何か隊長が言いかけたその時だった。
彼の元に本国から連絡が入る。
「收到……祖国传来消息。当场处决」
「这样真的好吗?杀掉优秀的人才」
「啊,祖国似乎更讨厌知道时光机的人,而不是优秀人才」
当初のプランでは、さっさとメサイアだけ回収して脱出する運びだった。
だが、メサイアはここにいる部隊の人間が乗っても全く動かなかったのだ。
(っ、少年。無事でよかった……頼む、君だけでも生きていれば……)
この絶望的な状況をひっくり返すにはもうメサイアしかない。
だが、彼がこんな状況で兵士たちを潜り抜けてこれる可能性は限りなく低いだろう。
だが、彼女には理屈を超えた確信があった。
顔だ。
単純だがとにかく覚悟を決めた彼の顔は、一周回って恐怖すら感じる。
だが、何かやってくれるんじゃないかという期待感がある。
(何より彼は、救世主になる。なんて、良い夢を持つ男だからな)
自身に銃口が向けられている。
怖い、だが輝かしい未来を想像すれば何も怖くない。
目を閉じ、その時を待つ。
(私は先に行くよ。すまないな、少年)
銃声、痛みは来ない。
1秒後、やはり来ない。
目を開けると、私に銃口を向けていた兵士の一人が倒れている。
驚いて、銃声のなった方を向くとそこには――
救世主が立っていた。
***
工房へはエレベーターが降りて切っていたので壁伝いに降りて来た。
当然、膝にはものすごい負担がかかったが痛みのない僕には大した問題じゃなかった。
問題は、降りた直後に撃たれかけている先輩を発見し急いで撃ったことだ。
幸いにも不意打ちのようになったため一人は殺したが、残り二人。
そして、エレベーター側にいる僕には当然遮蔽物なんて存在するわけがない。
盾も使えない。
「开火!」
必然として、僕は奴らからの集中砲火を食らうということだ。
これでは、弾丸の軌跡が見えたところで回避しようがない。
それゆえに僕が取った行動は最低限頭を守って即死を避けながら突っ込んでいくことだった。
「咦,说不畏惧吗!」
「ああああああ!!」
咆哮し、拳銃の引き金を引く。
敵の装備はアサルトライフルだ取り回しでは勝っているが、連射力で勝るはずもない。
その結果、何が起こるか――
「……あ、あぁ」
僕の勝ちだ。
勝敗を分けたのは、痛覚の有無と幸運だった。
今の僕には痛みはない。
衝撃は来るが、大したものじゃない。
なおかつ、僕の撃った弾丸が相手の一人の致命傷を早々に撃ちぬいたことで一対一を作り出せたのも大きかった。
「は、はぁ……ごほっ、ゴホッ……」
だからと言って不死身というわけじゃない。
心臓や頭が打ちぬかれれば死んでいたし、最後の方は足と銃を支えていた左腕はほぼハチの巣状態にされて銃の反動すらまともに耐えられなくなっていた。
「少年!少年っ!!」
「……あああ」
彼女の声にはうめき声しか返せない。
でも、何をするために来たのかは言葉を交わす必要もない。
視線だけで、彼女は僕の体積の減ってしまった体を支えてメサイアのコックピットまで運んでくれた。
「……いいんだね?死ぬんだよ」
視線だけで頷く。
僕の意志を確認した彼女はコックピットの扉を閉め、起動パスを入力しメサイアを起動する。
「……」
意図して無事になるようにした右腕でトリガーに手をかける。
いざ、その時となるとやはり体が震える。
ほっといても僕は死ぬが自分で引き金を引くとなるとやはり違う。
その時、震える僕の手に勿美の手が重なる。
『頑張って槃ちゃん……!!救世主になるんでしょ?』
「ああ」
掠れたような声で誓いと覚悟を結びなおす。
そして僕は、二度目の死のトリガーを引くのだった。
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