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決死人機兵装メサイア  作者: うどん米
ディストピア社会主義編
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第5話・絶望のエクスプラネイション



 時雨を自分の部屋に泊まることを許した後、僕は先輩から話しを聞くために工房を訪れていた。


 12時32分


「やあやあ、おはよう少年。ぐっすり眠れたかな?」

「……その、すみませんでした。先輩」


 約束は朝だったと言うのに、現在は完全に日が上がり切っている。

 一見、表情は怒っていないように見えるが先輩の目の奥はちっとも笑っていない。


「別に気にしてなんかないさ。私は丸一日この工房から出る気はなかったからね。君がいつ来ても変わらないとも」

「本当に遅れてすみませんでした……」

「だから、気にしていないと言っているだろう。それよりも、さっさと本題に入ろう。そこに座ってくれ」


 促されるままに椅子に座る。

 すると、彼女から複数の資料がまとめられた紙束を渡される。


 軽く目を通すと図や様々な数値が書かれていた。


「これは……?」

「昨日、君が寝ている間に取った身体検査の結果だ。安心しろ、何一つ異常は見られなかった。シンクロ率も50%のままだ」

「そ、そうですか……でも、どうしてこんなことを?」

「それについてはまず、単刀直入に聞こう。昨日の戦闘中、君に異常なシンクロ率の上昇が見られた。何か心当たりはあるかい?」


 僕は迷いなく首を横に振る。

 これまでの人生でそんなことが起こる心当たりは存在しなかった。


 というか、あの時にシンクロ率が上昇していたという自覚もなかった。


「そう、か……そもそも、君がメサイアを動かせたことが不思議なんだ」

「あれって、誰にでも動かせるわけじゃないんですか?」

「いいや、その証拠に私では動かせない」


 テクノイドはシンクロ率が最低50%あれば動かすことはできる。

 そのため、それ以外で動かせないテクノイドが存在するなんて聞いたことがなかった。


「だからこそ、君の体を調べたんだが特別なものは何一つ見当たらなかった。むしろ、普通過ぎて頭を抱えているよ。本当に何か心辺りはないのかい?」

「そう言われても……本当に心当たりはないですよ。他に、乗れるか試した人はいるんですか?」

「いや、君と私だけだ。だとしても、君が動かせるのは必ず理由がある」


 まあ、乗ってタイムリープしようと思ったら確実に鉄板に押しつぶされて死ぬと言うのに試す人がたくさんいる方が問題だ。


「ていうか、メサイアって先輩が作ったんですよね。どうして、理由がわからないんですか?」


 僕は科学に詳しいわけではないが、作った人間が原理を理解していないなんてことがあるのだろうか。


「……正確に言えば私は再現しただけなんだ」

「再現した?」

「ああ、メサイア……いや、タイムマシンは私のお爺様が開発した物なんだ。一年前に、実家で設計図を見つけてそれをテクノイドに組み込んで作ったんだ」

「だけど、作成したのはいいものの使うことはできなかったということですか?」


 彼女は無言で頷いた。

 開発した彼女のおじいさんも凄まじいが、設計図があるからと言ってそれをテクノイドに組み込めるこの人も十分すぎるくらい凄い。


「……じゃあ、一体どんな原理でタイムスリップしているのかもわからないってことですか?」

「いや、それはわかっている。タイムスリップというより意識だけだからタイムリープだけどね」

「えぇ!?分かってるんですか」

「ああ、じゃなきゃ君を乗せたりしないよ」


 確かによく考えてみれば、確実に過去に跳べる確信もないのに圧死させられたらたまったものではない。

 だが、原理がわかっているなら彼女がイチかバチか僕を乗せたのにも納得ができる。


「まず、タイムリープができるかもしれない理論というのは何個が存在する。例えば、相対性理論による時間逆行、カー・ブラックホールって呼ばれる……」

「ちょ、待ってください。僕、馬鹿なので結論からお願いします」


 ものすごい専門的な話が始まりそうだったので慌てて止める。


「わかった。まず、メサイアで使われているのはワームホール理論と呼ばれるものだ」


 ワームホール、そういえばかなり前に宇宙で発見されたと報道されていたような気がする。


「この理論でタイムリープに必要なのは大きく分けて三つ。ワームホール、負のエネルギーそして魂だ」

「た、魂?」


『ワームホール理論』『カー・ブラックホール』『負のエネルギー』なんて、わけのわからない言葉が続いたと思ったら急にスピリチュアル的な話に変わった。


「ああ、私も私のお爺様も元は魂の研究を行っていてね。その副産物がタイムマシンだったんだ」

「い、色々聞きたいんですけど……まず、魂ってあるんですか?」

「ある。と断言したいが私は実際にそれを目にしたことはない。より正確に言えば、魂の存在を否定する理由も、魂が存在し続けることを否定する理由もないというだけだ」


 とりあえず、よくわからないという事だけはわかった。

 人はIQが20違うと会話にならないと聞いたことがあるが、僕と彼女ではそれ以上の隔たりを感じた。


「だが、そう思っていたのもこれまでの話だよ、魂はある。君のタイムリープが成功しているのが何よりの証拠だ」

「あ……」


 確かにさっきの話が本当なら僕がタイムリープに成功しているということは魂が実在する何よりの証拠だ。


「話を戻そう。タイムリープをするために必要な残り二つのもの『ワームホール』と『負のエネルギー』のうち負のエネルギーは君が潰されたことと関係してるんだ」

「……うっ、嫌なこと思い出させないでくださいよ」


 今でも思い出そうとすると気分が悪くなる。

 迫る金属板、軋む骨、潰れる内臓、口から漏れ出る息、閉じていく光とその先に映る瓦礫の下に滲む先輩の血。


 勿美なみにも話していないが、初めてのタイムリープの時は何度もトイレに行って嘔吐していた。


「悪い悪い。現状、負のエネルギーを生成するためにはカシミール効果を使うしかないんだ」

「そ、それって一体?」

「ものすごく簡単に言えば金属の板が近づけば負のエネルギーが生成されると思ってくれればいい」

「だから、僕は押しつぶされたわけですか……」


 その後も先輩の説明を僕は聞いた。

 だが、難しい用語が多々出て来たので途中から思考が追いつかなくなった。


 唯一、先輩が一言でまとめくれた物だけは覚えている。



 君を潰して魂をワームホールに入れる



 とのことらしい。

 その他には、理論上は未来にも行けるとか何とか言っていたけれど、その一言しか僕の頭には入ってこなかった。


「まあ、ひとまずはメサイアと君がいれば過去に行って未来を変えられるということだ」

「なるほど……」

「もしかしたら、君以外にも使えるのかもしれないがひとまず実験は控えるつもりさ」


 そりゃそうだ。

 タイムマシンなんて厄ネタをそうそう他の人に打ち明けるわけにはいかない。


 13時24分


 それこそ、個人が、集団が、国がそれを悪用しようと思ったら何が起こるかわかったもんじゃない。

 出る口は最小限にするべきだろう。


「それじゃあ、本題と行こうか」

「本題?」


 タイムマシンについては聞いたが他に何かあっただろうか。


「忘れたのかい?昨日の襲撃についてだ。君も聞きたいんだろう?」

「あ……はい。でも、昨日の今日で何かわかっているんですか?」

「ああ、パイロットは口を割らないが状況証拠からでも十分読み取れる部分はある。もちろん、全てブラフの可能性もあるけどな」


 昨日、かなり豪快に倒してしまったがパイロットもテクノイドも僕が寝ている間に無事に回収されている。

 その時はうっかり殺さなくてよかったと胸を撫でおろしたものだ。


「結論から言うと、機体の特徴から見ておそらくあれは中国からの刺客だろう」

「……中国」


 驚きはなかった。

 何となく予想はついていたからというのはある。


 そもそも、この学校は立地的に最も中国に近い。

 そのため、正体不明のテロリストが偶然を装って強襲してくるということがたまにあるのだ。


「狙いは、また台湾なんですかね」

「その可能性が高いというだけだ、十分に他の可能性もある」


 2029年1月20日

 この日、当時のアメリカ大統領の任期が終わり大統領が変わった。


 その僅か一年後、2030年に中国は台湾への侵攻を開始した。

 狙いは、歴史・政治的理由、当時の政権の正統性を主張するため――などなど、多岐にわたる。


 だが、最も重要なのはそこではない。

 当時、戦争に初導入され山がちな台湾を崩し、当時の常識を根底から覆した戦略兵器テクノイドの開発に必要な半導体を巡る戦いであった。


「……でも、それならどうしてここを狙うんですか?」

「単純な話だ。日本は技術大国として優れたテクノイドを作り出すことはできたが、少子高齢化と戦争のせいでとにかく乗る人間がいないからな」


 装甲で囲われたテクノイドを撃墜するよりも、その中身を潰した方が良いというわけだ。

 そして、日本を牽制すれば自然と台湾への侵攻に繋がるという事だろう。


「今回のことで、政府も抗議するだろうが聞き入れられないだろうな」

「そうですか……ていうか、思ったんですけどここの警備少しザルすぎません?」


 一応、ここは対中国防衛の最前線だと言うのにテクノイド三体の襲撃を許した上に、実際は新入生全員皆殺しになっている。

 その上、迎撃システムが動かないなんて問題も出ている。


「……それなんだが、あの後確認したんだが迎撃システムは人為的にダウンさせられていたことがわかった」

「は……?それって、誰かがやったってことですよね」

「そうだ、私がハッキングして復旧させたがあれはあの時刻だけ意図的に動かないようになっていたんだ」


 つまり、この学校の中に意図的に襲撃を手引きした人間がいることになる。

 この中に、新入生を皆殺しになるのを知っていながら、それをやった奴がいるんだ。


「……だれ、なんですか?」

「わからない。ただ、防衛システムは最高機密だから、自然と数は絞られるね」

「先輩がやったみたいに、外部からハッキングされたってことはないんですか?」

「ない。私のようにハッキングするなら、最低でも学校内にいる必要があるのは絶対条件だ」


 だとしたら、この学園にはやはり裏切り者がいる。

 教師か、それとも新入生を除いた生徒か、少し疑心暗鬼になりそうだ。


「これは、聞いてて気持ちのいい話ではない。どうせ授業は明日からなんだ、今日はゆっくり休むといい」

「……そう、します」


 そう言い残して、僕は席を立ち先輩の工房を後にした。


 13時44分


 古ぼけた校舎を一歩出て、思わず僕は空を見上げた。

 ちょうど、日が昇って沈み始めたくらいなので空はまだ青く、僕の心とは裏腹に明るかった。


「やっほー!」


 少し黄昏ていると元気な声で現実に引き戻される。


「……時雨しぐれさん。何でここに?」

「ふっふっふっ、実は和華わかさんに君の部屋にいたことがバレて追い出されちゃったのです!」

「早いよ!?」


 ちらっと時刻を確認すると、彼女に住む許可を出してまだ二時間も経過していなかった。


「それでさー行く当てもなかったからめぐるの後ろをつけて行って、校舎に入った後に見失っちゃったから出てくるまで待ってたんだ」

「ここにずっといたの!?どうして……?」

「うん、何となくかな。なんとなく、槃に会いたくなったんだ」


 というか、その話だと寮母さんに見つかったのは僕が出てすぐということになる。

 一体、あの人は何か超能力でも持っているのだろうか。


 だが、これでは行く当てのない彼女は住むところを失ってしまう。


「ちょうど、僕部屋に戻ろうと思ってたんだけど……良ければ来る?もしかしたら、次はバレないかもしれないし」

「え、いいの!!」

「あんまり、こういうことをするのは良くないってわかってるんだけど……やっぱり、困っている人は助けたいって思っちゃうんだ」


 寮母さんを騙すようで気が引けるが、ここで彼女を見捨てては救世主失格である。


「やったー!それじゃ……」

「……!?」


 彼女の言葉が途切れる。

 僕の声は喉の奥から引っかかって出てこない。


 耳に届いたのは、空を舞う機械の鳥の音だった。


(……僕は、何で忘れていたんだろう)


 いや、正確に言えば目を背けていただけなのかもしれない。

 この世界は架空の者(かみ)に不条理を、絶望を、悲しみを押し付けたくなるほど残酷な世界だということを――


 13時45分


 まだ、最初の事件は何も解決していないことを――



『作戦開始』




この世界では実際に台湾有事が起きてしまった世界です。

現実でも、起きたら怖いですね……


ブックマークとかよろしく!!

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