第4話・出会いのアクシデント
結局、あの襲撃の後は入学式を続けられるわけもなく中止になった。
被害にあった新入生たちは怪我しているものはいたが死者は出ず、無事なものは全員寮内待機となった。
「というわけなんだよ、少年」
「……そうなんですね」
現在、すっかり昼も暮れ夜の闇が覆い始めるころ僕は目を覚ましていた。
目覚めて間もない間はとてつもない倦怠感が体に残っていたが、数分経つと意識もはっきりしてきて動けるようになってきた。
「やっぱり、体はまだ辛いか?無理もない、初めての操縦であれだけのことをやったんだ」
「少しぼーっとしてますけど、大丈夫です。先輩の方こそ大丈夫なんですか?」
「ああ、私はそもそも戦っていないからな」
じっと彼女の顔を注視する。
「どうした。私の顔をじっと見て、見られても笑顔くらいしか出ないぞ。それとも、何かついているのか?」
「……いいえ、何でもないです。ただ、守れたんだなぁって」
時間を遡る前、僕を彼女は潰れた下半身を引きずってまでメサイアを使って過去に送り出してくれた。
その覚悟が僕を救世主にしてくれた。
そして、この時間で彼女を救うことができたのがたまらなく嬉しかった。
だからこそ、これを聞かずにはいられなかった。
「無無先輩、教えてください。メサイアって何なんですか?あの襲撃者たちは一体何なんですか?」
「……それを知ったら、もう戻れなくなるよ」
「それでも、聞かせてください」
少し和やかな表情だった先輩の表情が一気に真剣なものに変わる。
だが、ここまで来てしまったらもう無関係ではいられないし、無視して過ごすなんてできない。
「わかった。なら、もう今日は暗い。明日の朝、工房にまた来てくれそこで話をするよ」
「はい……」
何より僕の頭の中にあったのは、タイムマシンをこれからも使えれば今のような悲劇から人々を救うことができるのではないかという事だった。
(そうすれば、僕は救世主になれる)
そう思惑を巡らせながら、工房を離れ寮に向かうのであった。
だが僕は入寮する日を忘れてしまったことにより荷物もまだ届いていない上にチェックインも済ませていなかった。
「やっほー!」
「……女の子?」
だが、フロントにいたのは明らかに僕と同じくらいの年齢にしか見えない少女が座っていた。
奇妙なことに制服ではなくワイシャツと黒パンにエプロンというとても不思議な格好をしていた。
一応、怖くなったので一旦外に出て男子寮と書かれた看板を確認して戻ってくる。
「安心してよ。ここは、ちゃんと男子寮だから」
「そう、みたいだね?」
「あら、新入生さんがこんな時間にフロントになんの御用かしら?」
困惑していると、フロントの奥から着物に身を包んだ物腰柔らかそうな女性が現れた。
この人は見覚えがある。
確かパンフレットの寮紹介ページに男子寮の寮母と書かれていた。
確か名前は阿母 和華と書いてあった気がする。
「実は色々あって入寮が遅れて……これから、チェックインとかできますか?」
「あら、出来ますけど今日は入寮まで何をされていたんですか?新入生の皆さんは全員寮内待機と伝達されているはずなんですが」
「実は……知り合いの先輩の手伝いに駆り出されていまして、こんな時間まで経ってしまったんです」
流石に理由もなく、外をうろついていましたというのは怪しすぎる。
そのためこれは、無無先輩に言えと提案されたいい訳である。
「まあ、大変ですね。それでは、手続きの書類を持ってきますので少しお待ちください」
どうやら、怪しまれることはなかったみたいだ。
「ねえねえ、あたし時岡 時雨。年は15歳、よろしくね。今は、ここで寮の手伝いをしてるんだ」
「あ、うん……僕は無涅 槃。年は同じく15歳、こちらこそ、よろしく」
「おー同い年だ!そうだ、君見た?あの、白いテクノイド」
「うっ……」
痛いところが突かれ思わず顔が強張ると同時に変な声が漏れ出てしまう。
「すごいカッコよかったよね!校庭に突然出て来たと思ったらバーンって敵をなぎ倒してさ!」
「っ、そうなんだ……僕はトイレに行ってたから見てないんだ」
「えーもったいない!!あたしなんて興奮しすぎてまだ体が自然に動くよ。シュッシュッ!!」
口で風を切る音を出しながらシャドーボクシングをし始める彼女。
その後ろには、とんでもない形相で彼女を睨みつけている寮母さんの姿があった。
「それでは、ここに必要事項を記入してくださいね。鍵はこちらです。記入したら部屋に行ってください。私はこの子の教育をするので少し席を外しますね」
「え?ちょ、ちょっと和華さん!!……た、助けて槃!ね、ちょっ!なんで無言で書いてるの!!」
「……別に僕は不快な気分になったわけじゃないので、お手柔らかにしてあげてください」
「ふふっ、善処いたします」
これが、僕のできる最大限の救世主としての役目だった。
これ以上踏み込めば、彼女もろとも巻き込まれた挙句事態を悪化させてしまうという確信があった。
「た、助けて―っ!!」
「……南無」
これ以上何か言うことはなかった。
たとえ背後で叫び声が聞こえていたとしても僕はもう振り返ることはしなかった。
渡された鍵に書かれていた部屋番号は404号室
四階まで上がり鍵を使い部屋に入る。
すると、早速机で何やら見ている男と目が合った。
「あ……?あぁ、オマエが同部屋の野郎だったのか」
「えっと……君は?」
「オレは武者小路 時貞だ。オマエは同じクラスの無涅 槃だろ。中々来ないから名前と顔も憶えちまったぜ。今日だけだが、よろしくな」
「い、色々あってね」
まさか、合格した興奮で入寮日を忘れていたなんて思わないだろう。
どうやらまだ荷物は届いていないようだが、ひとまず今持っている荷物を部屋に置く。
「そういえば、オマエはどう思ってる?」
「え?」
「あの、白いテクノイドだよ。やっぱり、1、2、3組の誰かが操縦してんのかな?」
「うん……?あ、ああ……そうなんじゃないかな」
選択肢の中に僕たち4組がなかったことに違和感があったが、正直に話すわけにもいかず適当に誤魔化した。
「いやーでも、やっぱり違うよな。襲撃者の三体のテクノイドをバッタバッタとなぎ倒してな。まあ、最初は結構コテンパンにやられてたけどな」
「……もしかしたら、ビビってたんじゃないのかな」
「ま、そうかもな。案外、新入生の誰かだったりするかもな」
「か、かもね」
まさか、ここにそのビビったパイロットがいるとは思うまい。
だが、入学式の日には新入生以外の学生は無無先輩以外見たことがない。
もしかしたら、バレる日も近いのかもしれない。
「そういえば、今日だけってどういう事?」
「知らないのか?今日だけで新入生の半分が転校したから、寮は一人一部屋になったんだ。明日、引っ越しだぜ」
「……えぇ!?」
スマホで確認して見ると本当に明日から一人一部屋になるようだ。
一クラス20人ほどなので、それが4クラス分の一学年80人が一日で40人まで減ってしまったというわけだ。
原因はどう考えても朝の事件だろう。
誰だってあんなことが起きたら恐怖で転校したって不思議じゃない。
「……時貞くんはどうして学校に残ったの?」
「あ?そりゃあ、オレはこの国を守るためにここに来たからな。特に、最近は中国の動きが怪しいってニュースでもやってるからな」
(確かに、そう言う報道はあった。再び台湾有事が起こるんじゃないかとワイドショーも少しにぎわっていたな)
そう、国立人機西教育学校は最も中国に近い場所にある学校だ。
すなわち、日本の対中国の最前線――そう言われてもおかしくない場所だ。
特に、最近はただでさえ悪い対中関係はより悪化の一途を進んでいる。
もし、戦争が起こればテクノイドパイロットである僕たちはすぐさま駆り出され殺し合いに身を置くことになる。
よぎったのは、火の海になった学校であった。
「そう、なんだ。僕も似たような感じかな、救世主になるのが夢でこの学校に来たんだ」
「救世主……ああ、救世主か」
「いいや、本当の意味の救世主だよ……笑う?」
「笑うわけねえだろ、ただそんなことを言うやつがこの時代にいるなんて感心しただけだ」
その日、僕たちは消灯時間が来るまで語り合った。
予想以上に話が盛り上がり消灯時間後も話すつもりだったが、その後はまた急に眠気が僕を襲い眠りこけてしまった。
***
4月5日
翌日、目覚めた時には時刻は正午を回っており、時貞くんの姿はそこにはなかった。
幸いにも授業が始まるのは明日からだったので、僕は早々に少ない荷物をまとめてフロントで鍵を交換してもらい部屋に向かった。
「やっほー!」
「……時雨さん?」
そっと扉を閉じ二歩下がる。
うん、間違いなく僕の引っ越し先の新しい部屋である。
「安心してよ。ちゃんと君の部屋さ」
「そうみたいだね……?でも、何で時雨さんがここにいるの?」
「ルームサービスってやつだよ。マスターキーを使って入って来たんだ」
ルームサービスと彼女は言うが、部屋には彼女の物らしき荷物が置かれ、まるで居座ろうとでもしているのかにも思えた。
「それにしても、ここにいていいの?また、寮母さんに怒られない?」
「じ、実は昨日の戦いであたしが寝泊まりする場所が壊れちゃって、行くところがないんだよね」
「うっ……」
そういえば、襲撃者との戦闘中で僕は地面に叩きつけられているし、戦っている途中で建物が壊れても不思議じゃない。
「そ、それって、実家がものすごく遠いってこと?」
「うん、そういうことなんだ。だから、君のこの部屋に住まわせてくれないかな?」
「でも、それなら男の僕じゃなくて寮母さんとかに頼めばいいんじゃないかな?」
「そうしたいのは山々なんだけどね……ほら、昨日和華さんに怒られてたでしょ」
つまり気まずいので僕の部屋に泊めてくださいということだ。
部屋の広さは最初から二人用だったから十分入ることはできるだろう。
「お願い!あたしを助けると思ってさ!!」
「うっ、うぅぅぅ」
助けを求められると救世主を目指している僕にはクリティカルヒットだ。
だが、男女が同じ場所に寝泊まりするのが果たしてあっていいのかという疑問もあった。
そんな境界線で苦悶していると思わずうなり声をあげてしまう。
そんな末に出した結論は――
「……いいよ」
「よっしゃ!」
やっぱり、助けを求められるとどうしても断ることができない。
それに、彼女の家を失くしてしまったのは僕にも責任はある。
「でも、僕の部屋に住むって大丈夫なの?それこそ、寮母さんに怒られない?」
「大丈夫!バレなきゃセーフだよ。それに、あたしはこれでも強いんだから。ここにいる寮生に見つからないように出ていくなんてお茶の子さいさいだよ」
バレなきゃセーフってことは、逆言えばバレたらアウトということだ。
だが、助けると決めた以上迷う必要もない。
ということで、初日で同居人がいなくなったと思ったら新しい同居人を得たのであった。
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